代々木公園を走り、渋谷のカフェでピックルボールを打ち、コーヒー片手に見知らぬ誰かと話す。そんな休日の過ごし方を売り込む都市型プロジェクトが渋谷で立ち上がった。テニススクールを全国展開するノアインドアステージと、渋谷のクリエイティブスタジオMIC FIELDが共同で始めた「W ARC(ダブルアーク)」だ。9月12日には第一弾イベント「COFFEE & PICKLE CLUB」を神南のカフェで開き、テラスのカフェ利用者には無料でパドルを握らせた。
ピックルボールを施設のなかから街へ連れ出す動きとして見ると、この座組みは示唆に富む。コートを借りて予約して打つという従来の入口とは別のルートを、カフェとランニングの側から用意しているからだ。
代々木公園から渋谷のカフェへ、W ARCが結ぶ動線
W ARCが掲げるのは「RUN × PICKLEBALL × COFFEE」という組み合わせだ。代々木公園で体を動かし、渋谷のカフェのテラスやフロアでピックルボールを打ち、そのままコーヒーを飲みながら交流する。運動・競技・休憩を一本の流れにして、街全体を遊び場に見立てる発想である。
9月12日にRoasted COFFEE LABORATORY 渋谷神南店で開いた初回イベント「COFFEE & PICKLE CLUB」では、テラスのカフェ利用者に無料のピックルボール体験を用意し、2階エリアのハーフコートは有料で開放した。パドルの試打も併せて行い、初めて触れる人がその場で用具の違いを確かめられる場にしている。
テニススクール大手とクリエイティブ会社が組んだ理由
運営の二社は役割がはっきり分かれている。ノアインドアステージは兵庫県姫路市を本拠にテニススクールを全国展開し、ここ数年はピックルボールの普及と施設の企画・運営に力を入れてきた。競技のノウハウとコート運営の実務を持ち込む立場だ。一方のMIC FIELDは2026年3月設立の渋谷のクリエイティブスタジオで、概念設計から映像・空間・体験のデザインまでを担う。競技を見せ方の側から包む役回りである。
この分業が意味するのは、ピックルボールを健康増進や勝敗の文脈だけで語らない姿勢だ。W ARCは、都市生活者が仕事や情報に追われるなかで「自分のための時間」を持ちにくい現実を出発点に置く。日常に小さな余白をつくり、体を動かしながら人とつながる入口として競技を使う。スポーツ施設に閉じず、公園とカフェを舞台にした理由もここにある。
無料と有料の線引き、体験メニューを整理する
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| プロジェクト | W ARC(ダブルアーク) |
| 運営 | ノアインドアステージ × MIC FIELD |
| 初回イベント | COFFEE & PICKLE CLUB(9月12日 12〜18時) |
| 会場 | Roasted COFFEE LABORATORY 渋谷神南店(神南フラッグ1F) |
| 体験 | テラスは無料、2階ハーフコートは有料、パドル試打あり |
料金の線引きがうまい。カフェのテラスにいる人には無料で触れさせ、しっかり打ちたい人には2階の有料ハーフコートを用意する。通りすがりの一打から腰を据えたラリーまで、関与の深さに応じて課金の段を分けている。競技を知らない人の最初のハードルを下げつつ、熱量の高い人からは対価を得る構造だ。
施設に閉じないピックルボールが街に出た先例
渋谷はここ最近、ピックルボールの実験区のようになっている。バレーボールSVリーグの東京グレートベアーズが渋谷でピックルボールクラブを立ち上げ、プロスポーツクラブが競技の受け皿を作り始めた。行政も動いており、渋谷区は小学生から16歳以上までを対象にした無料体験会を組んで、世代をまたいだ入口を用意している。
常設の器も整いつつある。都内では三井不動産が豊洲に屋外4面の常設ピックル場を開業し、都市の遊休空間を競技場に変える投資が具体化した。クラブ、行政、デベロッパー、そしてカフェ発のコミュニティ。渋谷という狭いエリアに、入口の異なる複数のプレーヤーが同時に立っている。
コミュニティ型の集客は競技の何を変えるか
コートを軸にした従来の集客は、まず打ちたい人を集めることから始まる。W ARCの順序は逆で、走りに来た人やコーヒーを飲みに来た人のついでにパドルを握らせる。競技への関心が入口ではなく、街の過ごし方の一部として競技が滑り込む。この組み立ては、これまでスポーツショップやコート予約サイトに現れなかった層に届く可能性を持つ。
用具メーカーやスクールにとっては、試打とカフェが同居する場は貴重な接点になる。打った感触が残るうちに人と話し、次に打つ約束が生まれれば、単発の体験が関係の起点に変わる。W ARCは渋谷で生まれたこのモデルを全国の都市へ広げる計画を掲げており、成否は各地のカフェや公園が競技の受け皿になれるかにかかっている。
渋谷で参加するなら、次の一手をどう作るか
初回は9月12日に終えたが、W ARCは継続的な展開を前提にしている。走る・打つ・話すの流れに興味を持ったら、まずはカフェのテラス枠のような無料の入口から触れ、面白ければ有料のハーフコートやスクールへ進むのが無理のない順番だ。運営がテニススクール大手である以上、体験の先に継続の受け皿が用意されている点も心強い。
競技を街に開くこの試みが根づけば、渋谷の休日に「カフェでピックル」という選択肢が当たり前に並ぶ。次の開催情報は運営各社の告知を追って、走りやすい一足とコーヒー代だけ持って足を運んでみてほしい。

