ここ1〜2年、海外のパドルメーカーが新製品でそろって同じ方向を向いている。パドルの中身、つまりコア素材がハニカム(蜂の巣構造)から全面フォームへと置き換わる動きだ。米メディアThe Dinkは夏の新製品ラッシュを「フォームの夏」と呼び、CRBNのTruFoamをはじめとする100%フォームコア機が次々と競技承認を取っている。用具の買い替えサイクルが海外より遅れて回る日本のプレーヤーにとって、この流れは「次の一本」を選ぶ物差しが変わることを意味する。何が変わり、どう選べばいいのかを整理しておきたい。
フォームコア機が続々と出てきた
The Dinkがまとめた新製品リストには、CRBNのTruFoam Genesis、HonoluluのJ2NF、EnhanceのGen 4.5、Vatic Proのフルフォーム機など、コアを100%フォームで作った製品が並ぶ。一方で、GearboxのGX2 Powerのように熱成形(サーモフォーム)の路線を磨いた製品、SLKのERA Powerのようにポリプロピレンとフォームを組み合わせたハイブリッド、PaddletekのBantam GTO-Cのような従来のハニカム機も同時に出ている。だから正確に言えば、市場全体が一夜で入れ替わったのではなく、フルフォームが上位で主役の座を取りにいき、ハニカムやハイブリッドと棚で併存する段階に入った、というのが実態に近い。
それでも注目すべきは、複数ブランドがフォームという同じ賭けに横並びで乗ったことだ。素材の潮目が変わるとき、メーカーは足並みをそろえて動く。フルフォーム機が実験段階を抜け、競技で使える選択肢として厚みを増してきたことは、この数の多さから読み取れる。
ハニカムからフォームコアへ、中身の話
パドルの中身は、大きく4世代で語られる。第1〜3世代は素材こそ進化したものの、コアの土台は樹脂のハニカム構造だった。軽くて反発が出る一方、打ち続けるとセルが潰れる「コアクラッシュ」が避けられず、打点にムラ(デッドスポット)が出て性能が落ちていく弱点を抱えていた。
第4世代(Gen4)はこのハニカムをやめ、コア全体を専用開発の高密度フォームに置き換えた。CRBNは18か月・200個超の試作を経て、フォーム板から中身を削り出して空洞を作る構造にたどり着いたと説明している。フォームは衝撃を吸収しながらボールが面に乗る時間(ドウェル)を延ばすため、スピンとコントロールが出しやすい。潰れて劣化する構造がないので、性能が長持ちする点も大きい。厚みを増しても扱いやすさを保ちやすく、パワーとコントロールを1枚で両立させやすいことも、各社がフォームへ動く理由になっている。
| 世代 | コアの中身 | 特徴と弱点 |
|---|---|---|
| 第1〜2世代 | 樹脂ハニカム+コールドプレス/初期熱成形 | 軽量・安価。反発は控えめ |
| 第3世代 | 熱成形ハニカム+発泡エッジ・カーボン一体成形 | パワーとスピンが向上。ただしコアクラッシュは残る |
| 第4世代(Gen4) | 100%フォームコア(部位ごとに密度を変える設計も) | ドウェル長・スピン・経時安定に優れる。価格は高め |
ただし「サーモフォーム(熱成形)」はコア素材とは別で、成形の工程を指す。熱成形のハニカムもあれば、熱成形しないフォームもある。おおまかな目安としてはコアがフォームか否かでGen4を見分けられるが、実際には「Gen 4.5」表記やポリプロとフォームの中間設計もあり、業界で厳密に統一された定義があるわけではない。買うときは世代表記より、コアの素材そのものを確認したほうが確実だ。
フォームが効くのは「使い込んだあと」だ
フォームコアの利点で見落としやすいのが、1試合・1シーズンという長い使用でも性能が安定することだ。ハニカムは新品のうちが一番よく、使い込むほど性能が落ちる。対してフォームは、慣らし期間の当たり外れが小さく、へたりも遅い。週末プレーヤーが1本を長く使う日本の使い方とは、この「劣化しにくさ」の相性がいい。
設計の作り込みも進んでいる。スイートスポット付近をやわらかく、先端を硬くするといった密度の作り分け(ゾーニング)で、コントロールとパワーを1枚の中で両立させる製品が出てきた。ここは、面の反発を規定値に収める必要から生まれた技術でもあり、認証の枠組みと切り離せない。パドルの「認証済み」表示が何を保証するのかは、以前スピン規制の裏でパドルの「認証済み」は何を保証するのかで掘り下げたとおりで、フォーム世代でもこの視点は変わらない。とくにフォーム機は反発値(PBCoR)が規定を超えて後から競技使用不可になる例もあるため、購入前に承認状況の確認が欠かせない。
日本のプレーヤーは、次の一本をどう選ぶか
選び方の軸は「パワーが欲しいのか、コントロールと持続性が欲しいのか」で分かれる。攻撃的に打ち込むならフォームの厚め(16mm前後)でパワー型、ネット前の細かいタッチ主体ならコントロール寄りの形状を選ぶ。買い替え頻度が低い人ほど、へたりにくいフォームコアの恩恵は大きい。逆に、まず始める入門者や予算を抑えたい層には、熟成した第3世代の割安モデルも現実的な選択肢になる。価格はフルフォームの上位機ほど上がり、輸入マージンで国内店頭価格はさらに上振れしやすい点も踏まえておきたい。
用具市場に何が起きるか
フォームへの移行は、日本の用具ビジネスにも順に波及する。輸入代理店やプロショップは、フォームコアの試打機をそろえて「劣化しにくさ」を体感で売る局面に入る。ピックルボールにはスポーツ全体へ資本が流れ込む動きがあり(アムウェイがMLPの冠を買った、なぜ本場の看板なのか)、市場が成熟して表彰制度まで生まれた日本(一企業が業界を表彰する時代、日本のピックルは成熟したのか)でも、海外の新作が半年から1年遅れで店頭に効いてくる。
事業者にとっての勘どころは、旧世代ハニカム在庫の扱いだ。フォームが上位を取れば、第3世代の名機は「割安な実力機」として入門者需要を拾う棚に移る。上位はフォーム、入門はハニカム、という二層構造を先に組んだ店が、買い替えの波を取りこぼさない。
新素材を試すときの実務メモ
| 見分け方 | 世代表記より、コアがフォームか否かを確認。サーモフォーム表記だけでは判断しない |
|---|---|
| 選ぶ軸 | パワー重視=厚めフォーム/タッチ重視=コントロール形状 |
| 買い替え頻度 | 低い人ほどフォームの経時安定が効く |
| 予算重視 | 熟成した第3世代の割安モデルも有力 |
| 確認事項 | USAP等の承認と反発値(PBCoR)。後から競技使用不可になる例に注意 |
| 入手時の注意 | 海外価格+輸入マージン。国内店頭価格は上振れしやすい |
Summary
パドルの中身は、ハニカムからフォームへと主役が替わり始めている。全面置換ではなく、フルフォームが上位を取り、ハニカムやハイブリッドが併存する段階だ。次の一本を買うなら、まず自分のプレーが「パワー型」か「コントロール型」かを決め、買い替え頻度が低いならフォームコアを軸に、予算を抑えるなら熟成した第3世代を候補に置くとよい。世代表記に頼らずコア素材と承認状況を確かめれば、値付けと性能の妥当性を自分で判断できる。素材の変わり目は、用具を見る目を一段鍛える機会になる。
Source:The Dink Pickleball / The Dink Pickleball(CRBN TruFoam / Gen4解説)
