全米最大の屋内ピックルボール専門チェーンThe Picklr(ザ・ピックラー)が、カリフォルニア州オレンジ郡に2施設を相次いで開く。フィットネスジムのように月額会費で通い、しかも閉店した小売店の跡地をコートに変える――この出店手法は、そのまま日本にも持ち込まれようとしている。同社は5年で日本に20拠点を開く計画を公表済みで、オレンジ郡の新店は、これから日本上陸するビジネスモデルの現物見本でもある。日本のピックルボール事業者が先に中身を押さえておく価値がある。
オレンジ郡に9面と6面、跡地を使って開く
米オレンジ郡ビジネスジャーナルの報道と施設公式によると、The Picklrはランチョ・サンタ・マルガリータ(22235 El Paseo)にコート9面の施設を2026年7月10日に開業し、ファウンテンバレー(17904 Magnolia St.)に6面の施設を8月に開く。運営するのは不動産鑑定会社を営んでいた地元のフランチャイジー2名で、2施設あわせて約300万ドル(2026年7月時点、1ドル=約160円換算で約4.8億円)を投じる。プロショップ、TRXトレーニングエリア、貸切イベント空間、AI練習マシン、ロッカーとシャワーを備える。
屋内・会員制・多店舗共通、というジム型の設計
The Picklrは2021年にユタ州で1号店を開き、2023年3月からフランチャイズ展開を始めた新興チェーンだ。特徴は、単発の場所貸しではなく月額サブスクの会員制を軸に据えた点にある。会員はアプリでコートを予約し、レッスン・リーグ・オープンプレーに通い放題で参加できる。しかも会員資格は全米どの店舗でも使える。エニタイムフィットネスのように「1枚の会員証でチェーン内をどこでも使える」構造を、ピックルボールに持ち込んだ形だ。
もう一つの肝が不動産戦略で、同社は閉店した大型小売店の「セカンドジェネレーション物件」を狙って出店する。米国ではベッド・バス&ビヨンドなどの撤退で広い箱物が各地に空いた。天井が高く駐車場も付く25,000〜35,000平方フィート(約2,300〜3,300平方メートル)の元小売店は、8〜12面のコートを並べるのにちょうどいい。専用体育館を新築するより、空いた箱を借りて改装するほうが投資も工期も小さい。
数字で見るThe Picklrの規模
拡大のスピードは、これまでの屋内ピックル施設とは桁が違う。会費はクラブごとに差が大きく、下表の額はあくまで目安だ(2026年7月時点、1ドル=約160円換算)。
| Item | Details |
|---|---|
| 開業済みクラブ | 全米100拠点超 |
| 販売済みフランチャイズ | 500拠点超(米・加・日本) |
| 開発中のコート数 | 約5,000面 |
| 1施設の標準規模 | 8〜12面/25,000〜35,000平方フィート |
| 月会費(店舗差あり) | おおむね月120〜280ドル(約1.9万〜4.5万円) |
| ファウンテンバレー先行会員 | 通い放題 月183ドル(約2.9万円) |
| 企業評価額(2024年の資金調達時点) | 約5,900万ドル(約94億円) |
資本の後ろ盾も厚い。2024年のシリーズBで約900万ドルを調達し、その時点の評価額は約5,900万ドルに達した。元NFLスターのドリュー・ブリーズも出資者に名を連ねる。競合のPickleball Kingdom(建設・建設中で約140拠点)やDill Dinkers(200拠点超が開発中)を上回るペースで箱を押さえている。
「大型施設」ではなく「会員基盤」で回す
日本の屋内ピックル施設は、コート面数の多さで語られることが多い。20面規模の温泉リゾートが「聖地」を目指す動き(20面の温泉リゾート、伊豆稲取が日本最大のピックル聖地になる日)もその一例だ。The Picklrが違うのは、面数そのものより「毎月払い続ける会員」をどれだけ抱えるかを収益の中心に据えている点にある。ドロップイン売上に頼らず、通い放題の月会費でベースの売上を固める。開業前から先行会員を募って初月から会費を積む先行課金の設計も、この発想の延長線上にある。
既存の場所にピックルボールを足す動きは日本にもある。テニススクール大手がサウナを掛け合わせて新しい層を狙う例(テニス大手ノアが挑む、ピックルボール×サウナで作る新市場)や、都心の既存施設に1面だけ差し込む例(南青山の地下に1面、Pickle9が示す都心型ピックルの設計図)だ。ただ規模は対照的で、これらが手持ちの空間に小さく足すのに対し、The Picklrは撤退した大型店をまるごと多面コートのフランチャイズに変える。「高い不動産コストをどう回すか」という同じ問いへの、スケールの違う答えだ。
日本にも20拠点、上陸はすでに動いている
The Picklrは2025年5月、日本のNippon Pickleball Holdingsとマスターフランチャイズ契約を結び、今後5年で日本国内に20拠点を開く計画を公表した。1号店は東京圏を予定し、神奈川・大阪・愛知・埼玉・千葉・兵庫・福岡・北海道・京都・宮城・広島・沖縄が候補に挙がっている。日本の店舗も、米国・カナダと同じ会員制・プログラム・内装を踏襲するという。つまりオレンジ郡で今起きている「空き箱を会員制コートに変える」出店が、数年内に日本の都市でも走り出す。
ここに日本側の商機がある。国内でも郊外ロードサイドの大型店やショッピングモールの区画は、業態転換や撤退で空きが出ている。天井高と駐車場を備えた元小売・元物流の箱は、そのままピックルコートの候補地になる。The Picklrが米国で証明しつつある「セカンドジェネレーション物件×月額会員」の型は、国産チェーンや地方の遊休不動産オーナーにとっても再現可能な設計図だ。外資が20拠点を埋める前に、地場の事業者が同じ手を打つ余地は十分ある。
会員制モデルが業界に効かせる圧力
会員制サブスクが根づくと、業界の勝負どころが「面数」から「稼働率と継続率」に移る。月会費モデルは、平日昼の空き時間をレッスンやシニア向けプログラムで埋め、退会を防ぐ仕掛けをどれだけ用意できるかで採算が決まる。The Picklrがアプリ予約・全店共通会員・AI練習マシン・リーグ運営を標準装備しているのは、この継続率を作り込むためだ。撤退した大箱が地域のスポーツ拠点に変われば、シャッター化した郊外商業の受け皿という文脈でも語れる。空き床が動き、平日昼に人が戻る効果は、不動産オーナーにとっても実利がある。
The Picklr オレンジ郡・日本計画の概要
| チェーン名 | The Picklr(本部:米ユタ州ケイズビル) |
|---|---|
| ランチョ・サンタ・マルガリータ店 | コート9面/22235 El Paseo/2026年7月10日開業 |
| ファウンテンバレー店 | コート6面/17904 Magnolia St./2026年8月開業予定 |
| 2施設の投資額 | 約300万ドル(約4.8億円) |
| ビジネスモデル | 月額会員制・全店共通アクセス・空き小売店活用 |
| 日本計画 | Nippon Pickleball Holdingsと提携、5年で20拠点(1号店=東京圏) |
| 日本の候補地 | 神奈川・大阪・愛知・埼玉・千葉・兵庫・福岡・北海道・京都・宮城・広島・沖縄ほか |
Summary
The Picklrのオレンジ郡進出は、単なる海外の新規開業ではない。空いた小売店を借り、月額会員で稼働を固めるという再現性の高い型が、そのまま日本に持ち込まれようとしている現場だ。国内でピックル施設を検討する事業者は、まず「何面つくるか」ではなく「毎月通う会員をどの層から何人集めるか」を先に決めたい。そのうえで、新築ではなく撤退した大型店の跡地を当たれば、投資と工期を抑えて先手を打てる。外資の20拠点計画が具体化する前に、自分の商圏で空き箱を1つ押さえておくことが、次の一手になる。
Source:Orange County Business Journal/CNBC/ICSC/The Dink Pickleball
