フィリピン・カビテ州のバコール市が、市の名前を背負う公式ピックルボールチーム「Bacoor Strikers」を立ち上げた。2026年8月20日、市庁舎のレビリャ・ホールで選手9人との契約調印式が行われ、オーナーはストライク・レビリャ市長本人。企業でもクラブでもなく、市そのものが競技チームを保有する座組みだ。日本ではまだ見かけない形で、自治体がピックルボール普及の主体になろうとしている。
遠い国の話に見えるかもしれないが、「誰が普及を引っ張るのか」という問いは、コートを増やしたい地域や、行政と組みたいクラブ運営者に直接刺さる。バコールの動きは、その一つの答えを見せている。
市長ストライク・レビリャが選手9人と契約、Bacoor Strikersが2チーム編成で始動
調印式にはレビリャ市長のほか、ロウェナ・バウティスタ・メンディオラ副市長、カレン・エバリスト市議が同席した。編成は2チーム。チームAはリカルテ・サントス、ヴィンス・EJ・トゥガデ、クリスティ・サノサ、プリンセス・ロルベン・マリー・カティンディグの4人。チームBはローレンツ・キタラ、ケント・オクタボ、エリーゼ・マリー・ゲルズ、レイキー・レイ・サノサ、クラロ・カスティーヨの5人が名を連ねた。
レビリャ市長は調印の場で、これはスポーツ以上のものであり、選手に競い合う場を与え、誇りを持ってバコールを代表し、フィリピン中に広がる動きの一部になることだ、と語っている。市が選手と正式契約を結び、大会に送り出す——プロ野球の球団を市が持つような構図を、ピックルボールでやっている。
市職員クラブから競技チームへ、1年かけた下地
この公式チームは突然生まれたわけではない。バコールは2025年11月13日、市職員による「StrikeAs1 バコール市職員ピックルボールクラブ」を発足させ、庁内の健康づくりと交流の場としてラケットを握らせていた。職員が仕事帰りに打つ流れを作り、そこから競技志向のBacoor Strikersが育ち、州外の予選大会にも出場するようになった。
裾野となる職員クラブと、頂点となる競技チームを、同じ市が地続きで設計している点が効いている。遊びで始めた人が、市の看板を背負って大会に出る道が最初から用意されている。日本のクラブが初心者教室と競技チームを別団体・別予算で回しがちなのとは、組み立てが違う。
フィリピンは市と連盟が普及を回している
バコール単独の熱ではない。2026年3月末にはラスピニャスのコートでフィリピン初のアマチュア全国選手権が開かれ、フィリピン・ピックルボール連盟(PPF)が公認した。6月にはダバオ市が観光行事「Duaw Davao」の一環で市主催の大会を開き、各部門40チーム上限・登録無料で近隣州からも選手を集めている。連盟は指導者育成にも動き、フィリピンでは施設より先にコーチをまとめて認証する普及策が進む。地方町イロイロで開業直後に80人規模の大会が立つように、地方でも人が集まる土台ができている。
行政・連盟・地方が同時に動いているから、バコールのような市単位の参入が浮かず、自然に接続される。
日本の自治体は「場所」を出す、バコールは「主体」になる
日本でも自治体の関与は始まっている。神奈川県では茅ヶ崎市が予約不要の無料コートを整備し、公共拠点にした。埼玉の三郷市は体育館で入門講座を全4回開くなど、行政が入口を用意する例は増えている。ただ、その多くは場所を貸す、教室を開く、というところで止まる。市が選手と契約し、市の名で大会に送り出すところまで踏み込んだ例は、まだ日本にはほとんどない。
ここがバコールとの決定的な差になる。場所貸しは施設の枠が埋まれば終わるが、市が競技チームを持つと、勝敗や成績が市の話題になり、住民が「うちの市のチーム」として応援する動機が生まれる。普及の燃料が便利さから誇りに変わる。地域でコートを増やしたい人が行政に持ちかけるとき、無料開放だけでなく「市の顔になるチーム」という提案を用意できると、話が動きやすい。
日本のプレーヤーが持ち帰れること
バコールの事例から、日本の現場で試せる要素を分けておく。
- 入口と競技を同じ主体でつなぐ。初心者教室の卒業生が地元チームに入れる導線を、最初から一本で設計する。
- 行政に「保有」を提案する。場所貸しの先に、市や商工会が名を冠したチーム・大会という選択肢を見せる。
- 職場から広げる。市職員クラブのように、勤務先単位でラケットを配ると、家族や地域に波及しやすい。
- 地方から仕掛ける。首都圏でなくフィリピンの地方市が先行したように、人口規模より旗振り役の有無が普及速度を左右する。
バコールが選手9人を契約したのは2026年8月20日。市の名を背負う面々がこれからどの大会でどんな成績を残すかで、市がチームを持つモデルの説得力は決まる。日本で行政と組もうとしているクラブは、無料コートの陳情に加えて、この「市の顔になるチーム」という一枚を手札に足しておくと、次の交渉が変わってくる。
