ピックルボール施設の売却が米国で増え、売り出し価格の下げ幅が広がっている。業界メディアThe Dinkが9月11日に伝えたところでは、施設仲介を追うIAPPF(国際ピックルボール・パデル施設協会)の集計で、直近10週間に9件の施設が売り出し価格を引き下げ、値下げ幅は平均39%に達した。2件は50%超の下げだ。過熱していた米国市場が採算重視の選別に入った局面で、常設コートの整備がこれから本格化する日本にとって、先に起きた景色を読める材料になる。
10週間で9施設が値札を書き換えた
The Dinkのデビッド・ジョンソン氏がまとめたのは、事業売買サイトBizBuySellに出た施設のうち、6月下旬から9月上旬にかけて価格を下げた案件だ。値下げ幅の中央値に近い平均は39%で、当初の希望価格から4割近く削られて再提示された計算になる。1年前まで新設ラッシュが続いていた市場が、売り手優位から買い手優位へ振れ始めたことを示す数字だ。
ジョンソン氏は、これを業界の崩壊ではなく現実的な水準への調整と位置づけている。施設の価値は建設にかけた費用ではなく、EBITDA(利払い・税・償却前利益)で測られる。安定した利益が出ていない箱は買い手が見つかりにくく、見つかっても壁やコート、照明に投じた額より低い値がつく、という指摘だ。
150万ドルの箱が60万ドルで売られる理由
具体的な数字は生々しい。フロリダの屋内クラブは希望価格を150万ドル(1ドル150円換算で約2.25億円)から60万ドル(約9000万円)へ一気に下げた。フロリダ・メリーランド・ミシガン・サウスカロライナの4施設は当初いずれも150万ドルで並んでいたが、財務を開示した後は60万・86万・91万5000・100万ドルへと散らばった。同じ売り文句でも、実際の利益で評価し直すと値がここまで分かれる。
5拠点を持つThe Pickleball Academyは450万ドルから215万ドルへ、スタテン島の8面施設は69万9000ドルから39万9000ドルへ、テキサス・ハリス郡のクラブは15万ドルから9万5000ドルへ下げた。規模の大小を問わず、稼ぐ力に見合った価格へ収れんしていく動きが同時に起きている。
売り出し価格が下がった主な施設
| 施設・所在 | 当初価格 | 改定後 |
|---|---|---|
| フロリダ 屋内クラブ | 150万ドル | 60万ドル |
| The Pickleball Academy 5拠点 | 450万ドル | 215万ドル |
| スタテン島 8面 | 69万9000ドル | 39万9000ドル |
| テキサス ハリス郡 | 15万ドル | 9万5000ドル |
※The Dink(IAPPF集計・9月11日)より。ドル金額は当初/改定後の売り出し希望価格。
日本の施設投資が先行市場から学べること
日本では施設整備がむしろ加速している。三井不動産が豊洲に都内初の常設コートを開き、自治体でも小平市がプール跡地を運営事業者と組んでコート化するなど、遊休空間の活用が進む。米国の調整局面は、この投資に水を差すというより、採算設計の手本になる。建設費の回収を前提に希望価格を積むのではなく、稼働率と利益から逆算する発想が問われるからだ。
米国で価格が割れた要因は、供給が需要に先回りしすぎたことにある。日本はまだ「打つ場所が足りない」段階で、稼働率を確保しやすい。シアトルでWNBAチームのオーナーが屋内20面に投資したような大型案件も出ているが、規模より前に、平日昼や早朝を埋める運営設計ができているかが分かれ目になる。
米国が供給過剰に陥った背景には、2021年以降の急拡大がある。テニスやゴルフの遊休施設を転用する動きが一斉に起き、立地や採算を十分に吟味しないまま箱が増えた。ブームの初速に乗って建てた施設が、稼働の現実に追いつかれて値を下げているのが今の局面だ。日本はこの数年遅れて立ち上がった分、先に起きたつまずきの型を避けられる位置にいる。建設前に、想定稼働率と料金設定を突き合わせて採算が立つかを確かめられるかどうかが、数年後の明暗を分ける。
コートを増やす側と使う側への示唆
施設を作る側にとって、米国の数字は「建てれば埋まる」時期が有限であることを教える。レッスンや大会、法人利用といった継続収益をどう乗せるかを開業前に組み込めるかどうかが、数年後の資産価値を左右する。EBITDAで評価される以上、稼働の質が価格の質に直結する。
使う側のプレーヤーにとっては、値下がりは悪い話ばかりではない。米国では買い手優位のなかで、体力のある運営者が割安に施設を取得し、料金やプログラムを見直す動きが出やすい。日本でも供給が厚くなれば、利用料やコートの予約しやすさが改善する余地が生まれる。市場の調整は、長い目で見れば競技を続けやすくする方向に働く。
次に見ておきたい指標
日本の施設が持続するかを見るなら、開業時の話題性より半年後の平日稼働と会員継続率を追うのがいい。米国の事例は、赤字の箱が最終的にどこまで値を下げるかを先に見せてくれた。これから増える国内のコートを選ぶ際も、料金の安さだけでなく、レッスンや大会が回っているかを運営の健全さの目安にしたい。プレーする場所が長く残るかどうかは、その施設が利益を出せているかにかかっている。
参照元
The Dink「Pickleball facilities are for sale — and getting cheaper, fast」

