静岡県東伊豆町の温泉地・稲取に、コート20面という日本最大規模のピックルボール施設が誕生した。運営するのは伊豆アニマルキングダムなどを手がける株式会社伊豆バイオパーク。宿泊型リゾート「伊豆リゾートヴィラ」の敷地内に整備され、コート自体は先行して稼働、7月20日には宮崎泰社長や東伊豆町の岩井茂樹町長らを招いたグランドオープン式典が開かれる。首都圏から車で数時間、温泉とサウナを備えた宿泊施設に大量のコートが並ぶ構図は、日本のピックルボールがどこへ向かうのかを考える格好の材料になる。
まず起きたことを整理したい
施設が立つのは静岡県賀茂郡東伊豆町稲取3349-1。相模湾を望む高台のリゾートで、もともとテニスコートや大浴場、ビュッフェレストラン、約700冊の蔵書を並べたカフェ&ブックを備えた複合宿泊施設だ。ここに20面のピックルボールコートが加わった。屋外コートを主体としつつ、雨天時に使える屋内コートも用意され、天候に左右されにくい設計になっている。コート施工を担ったのは道路舗装大手の東亜道路工業。スポーツ施設の路面施工で培った技術が投入された点は、単なる空き地への簡易ラインではないことを示している。稲取は金目鯛や雛のつるし飾りで知られる温泉の街で、そこに競技専用の常設コートがまとまって並ぶのは、地域の観光地図を書き換えるだけのインパクトがある。
なぜ温泉旅館がコートを20面も引いたのか
この施設の面白さは、ピックルボール専業ではなく、既存の宿泊リゾートが本業の延長として大量のコートを抱えた点にある。運営の伊豆バイオパークは伊豆アニマルキングダムやカピバラと泊まれる宿で知られる観光事業者で、稲取は下田や河津にも近い温泉観光のエリアだ。人口減が続く伊豆半島東岸で、宿泊施設が生き残るには「泊まる理由」を増やし続けなければならない。20面という数字は、大会や合宿をまるごと受け入れられる規模を意味する。日帰りでは成立しないこの競技を、宿泊とセットで囲い込む狙いが透けて見える。
ピックルボールは道具が軽く、ルールが簡単で、年齢や運動歴を問わず楽しめる。温泉地の滞在客層である中高年やファミリーとの相性がよく、テニスほど広い敷地も体力も要らない。既存のテニスコートやレジャー施設を転用しやすいことも、リゾート側が参入しやすい理由になっている。テニスコート1面からピックルボールは複数面が取れるため、遊休化した設備を高い稼働率のコンテンツへ組み替えられる点も、事業者にとっては見逃せない計算だ。
数字で見る伊豆リゾートヴィラ
| Item | Details |
|---|---|
| Number of courts | 20面(日本最大規模・屋外主体+屋内あり) |
| Location | 静岡県賀茂郡東伊豆町稲取3349-1 |
| Operating company | 株式会社伊豆バイオパーク |
| コート施工 | 東亜道路工業株式会社 |
| グランドオープン式典 | 2026年7月20日 |
| On-site facilities | 大浴場・サウナ・テニスコート・ビュッフェ・宿泊棟 |
面数の比較でいえば、常設で20面という規模は国内で頭一つ抜けている。単発イベントでは八王子で最大24面の体験フェスが開かれた例もあるが、あれは会場を一時的に借りる催しだった。常設のコートを毎日使える施設として20面を確保したところに、この案件の重みがある。海外に目を向けても、シンガポールで住宅地に10面規模の拠点が生まれたのが東南アジアの象徴例で、それを倍する常設面数だと考えれば規模感が伝わる。
関係者の言葉と業界のまなざし
グランドオープン式典では、伊豆バイオパークの宮崎泰社長が開会の挨拶に立ち、東伊豆町の岩井茂樹町長が来賓として言葉を寄せる予定だ。告知を出した日本ピックルボール協会は、この施設が地域の健康増進・スポーツ振興・観光促進に寄与するものと位置づけている。行政・運営・競技団体の三者が同じ方向を向いているのが、この案件の特徴だ。
自治体が名を連ねる意味は小さくない。人口約1万人の東伊豆町にとって、スポーツを軸にした交流人口の呼び込みは現実的な地域振興策になる。競技団体側も、都市部の体育館やクラブ中心だった普及の舞台を、観光地の常設コートへ広げられる。三者にとって損のない座組みが、20面という思い切った規模を後押しした。運営が動物園やクルーズ船といった観光資源を束ねる事業者である以上、ピックルボールを既存の集客動線に接続する発想は自然な帰結でもある。
読者にとって、この一件が示すもの
伊豆稲取の20面が示すのは、日本のピックルボール普及が「体育館の一角を借りる」段階から「行き先そのものになる」段階へ移りつつあるという転換だ。これまで国内の広い施設は、既存の公共体育館やラケット複合施設に間借りする形が多かった。富士山麓では富士急が全天候型のラケット施設にピックルボールを組み込んだ例もあり、レジャー資本が競技を「集客の演目」として捉え始めている。伊豆リゾートヴィラはそれをさらに進め、宿泊・温泉・食事とコートを一体で売る「目的地型」に踏み込んだ。
プレーヤー目線で見れば、意味は明快だ。日帰りでは味わえない、朝から夜まで打ち込み、温泉で体を休め、翌朝また続けるという滞在が成立する。これはテニスやゴルフの合宿文化が長年築いてきた形を、参入障壁の低いピックルボールで再現するということでもある。競技人口の裾野が広い分、家族やシニアを巻き込んだ滞在型需要は、むしろテニス以上に膨らむ余地がある。平日はシニアや地元の健康づくり、週末は大会や合宿、繁忙期は観光客の体験と、時間帯や曜日で客層を塗り分けられるのも常設コートならではの強みだ。
業界にどう波及するか
常設20面という前例ができたことで、遊休化した地方のテニスコートやレジャー施設を転用する動きは加速しやすい。舗装大手の東亜道路工業がコート施工を手がけた点も見逃せない。土木・舗装の事業者にとってピックルボールコートは新たな受注分野になり得るし、施工品質が担保されれば大会誘致の説得力も増す。プレー面の反発や水はけを左右する路面は競技体験の質に直結するため、専門施工が入るかどうかは「遊びのコート」と「大会が開けるコート」を分ける分水嶺になる。全国の温泉地やリゾートが同じ座組みを模倣するなら、施工・運営・自治体連携という三点セットが一つの型として定着していくだろう。宿泊業界にとっても、稼働の谷になりがちな平日やオフシーズンを埋める新しい滞在動機として、コートは魅力的なカードになる。既存の温泉やレストランと組み合わせれば、追加投資を抑えながら滞在単価と連泊率を押し上げられる余地があるからだ。
訪れる前に知っておきたいこと
伊豆リゾートヴィラは伊豆急行の伊豆稲取駅が最寄りで、東京方面からは特急でおよそ2〜3時間。車なら東名・新東名から伊豆縦貫道を経由するルートが一般的だ。施設は宿泊を前提にした複合リゾートのため、コート利用の際は宿泊プランや利用時間、屋内外の使い分け、用具レンタルの有無を事前に公式で確認しておきたい。大浴場やサウナ、テニスコート、ビュッフェも併設されているので、プレー以外の滞在価値も高い。大会や合宿での団体利用を想定するなら、20面をどう配分するかを含めて早めの問い合わせが安全だ。初めての人は屋外コートの日差しと風、夏場の暑さ対策も頭に入れておくと、滞在をより快適に組み立てられる。
Summary
伊豆稲取に生まれた20面のピックルボール施設は、単なる「日本最大」という記録ではなく、競技が観光や宿泊と結びついて地域の目的地になっていく流れの象徴だ。温泉地の宿がコートに賭けたこの一件は、全国の遊休施設やリゾートに対する一つの実験でもある。ここから同じ発想の拠点が各地に広がるのか、伊豆稲取の稼働状況が試金石になる。
