インドのピックルボールのプロリーグが、クリケットのIPL(インディアン・プレミアリーグ)と同じ「オーナーが球団を持ち、選手を競売で編成する」形を、都市をまたいで広げ始めた。Centre Court Pickleball League(CCPL)は2026年9月3〜6日にタイのプーケットでオーナー会合と選手オークションを開き、8フランチャイズの陣容を確定。第2シーズンは10月17日にハイデラバードで開幕する。もとは2025年にハイデラバードの一都市リーグとして始まった大会が、改称と他都市への拡張を経てここまで来た。この歩みは、地域の大会が主戦場の日本のピックルボールが次に向き合う論点を先取りしている。
プーケットの選手オークションで何が決まったか
CCPLの前身は、2025年にハイデラバードで旗揚げした Hyderabad Pickleball League(HPL)だ。運営する Centre Court Sports and Entertainment が、この形式をベンガルールへ広げる際に Centre Court Pickleball League(CCPL)へ改称し、今回のハイデラバード大会を「第2シーズン」と位置づけている。共同創業者は Yashwanth Biyyala 氏と Vikrant Rao 氏。2025年のHPL第1シーズンは8フランチャイズで争われ、Mavericks が All Stars を第7セットのタイブレークまでもつれた末に4-3で下して優勝した。決勝には約2,000人が詰めかけ、ハーフタイムには歌手の Lucky Ali がステージに立った。競技イベントというより一夜の興行として設計されていた点が、このリーグの性格をよく表している。
今回プーケットで行われたのは、第2シーズンに向けた「オーナーズ・ウィークエンド」と選手オークションだ。8球団のオーナーがタイに集まり、保持選手を除いた枠を競り落として編成した。優勝の Mavericks は Sreekar Mothukuri を、準優勝の All Stars は Sameer Varma を保持。ほかに Mikhil Tummalapalli、Vivek Reddy らが保持選手として、Karunesh Reddy、Abhaya Vemuri、Gopinath Reddy がオークション前の指名選手として名前が挙がった。4日間の日程にはオーナー同士の親善試合や競売の説明会も組まれており、開催地をインド国内ではなくリゾート地のプーケットに置いたことには、編成作業に社交とメディア露出を重ねる狙いがうかがえる。
IPL型のオーナー+競売をピックルに持ち込んだ狙いは
インドがこの形をすぐに作れたのは、クリケットで20年近く回してきたフランチャイズ興行の型が国内に染み付いているからだ。都市名を冠した球団、オーナー企業、選手オークション、開幕前の合宿と煽り、ハーフタイムの音楽。CCPLが並べた要素は、IPLやプロ・カバディで観客が慣れ親しんだ順番を踏襲している。競技運営と、飲食や音楽を含む観戦体験を最初から一体で設計しているのが特徴だ。
Biyyala 氏は、ハイデラバードについて「リーグが始まった場所であり、フランチャイズ型のピックルボールという資産の可能性を最初に見た場所だ」という趣旨の説明をしている。ここで使われている property(興行資産)という言い方から、彼らがピックルボールを単発の競技会ではなく、都市をまたいで継続的に展開できるスポーツ事業として位置づけていることがうかがえる。HPLからCCPLへの改称と他都市への拡張そのものが、その発想の表れだ。
この設計は、選手のキャリアにも効く。競売にかかるということは、選手に市場価格がつくということだ。保持・指名・競り落としという区分があれば、実力と人気に応じて報酬が動く土壌が生まれる。地域の同好会が主戦場だったアジアのピックルボールで、選手に競売価格という値がつき、それが公開の場で毎シーズン更新されていく大会は、まだ限られている。
HPL第1シーズンとCCPL第2シーズンの数字
主催者発表を各報道が伝えた範囲で、リーグの輪郭を整理する。賞金や投資額はいずれの報道でも開示されていないため、ここには載せない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| リーグ名 | Centre Court Pickleball League(CCPL/前身は Hyderabad Pickleball League) |
| 運営 | Centre Court Sports and Entertainment |
| 共同創業者 | Yashwanth Biyyala 氏 / Vikrant Rao 氏 |
| 球団数 | 8フランチャイズ |
| 第1シーズン(2025) | ハイデラバード(HPL名義) |
| 改称後の拡張先 | ベンガルール |
| 第2シーズンのオークション | 2026年9月3〜6日・タイ プーケット |
| 第2シーズン開幕 | 2026年10月17日・ハイデラバード |
| 第1シーズン優勝 | Mavericks(All Stars を4-3で撃破) |
| 決勝の来場 | 約2,000人 |
アジアで同時多発するリーグ化、日本はどの位置か
CCPLの動きを単独で見ると「インドらしい派手なイベント」で終わってしまう。だが同じ時期のアジアを横に並べると、球団化の波が一国だけの現象ではないと分かる。台湾は2026年8月末にプロ・ピックルボールリーグAEPLを台中で発足させ、フィリピンではバコール市が市長をオーナーに据えた公式チームを結成した。台湾はリーグ、バコールは市の名を背負う単独チーム、インドは民間企業が運営するフランチャイズと、担い手も編成の仕方も違うが、「箱を先に作り、そこへ選手を集める」順番は共通している。日本はこのどれとも違い、施設運営者や用品メーカーが個別に大会を開く形が中心だ。関西企業対抗やザムストの協賛のような芽はあるものの、都市名を背負った球団を売買する市場はまだ育っていない。
もう一つ見ておきたいのが、選手評価のインフラだ。競売で値をつける材料は戦績や人気などいくつもあるが、実力を数値化する共通指標があれば判断はしやすくなる。インドではDUPRとCourtlyが提携し、アプリ上の1試合が公式レートに直結する仕組みが動き始めた。CCPLの競売とは別の動きだが、選手の価値を外から測るインフラが同じ国で並行して整いつつあるのは、球団化を進めるうえで追い風になる。日本でチーム戦を続けるなら、こうしたレーティングをどう共有するかも一つの論点になる。
日本の運営者・選手が今すぐ真似できること
「8球団のオーナーがプーケットに集まる」規模をそのまま日本に持ち込むのは現実的ではない。ただ、CCPLが積み上げた手順のうち、大規模な球団投資をせずに試せる要素はいくつもある。
- 大会を単発の試合結果で終わらせず、都市名やスポンサー名を冠したチーム単位で通年集計し、翌シーズンへ物語を持ち越す。
- 競技の合間に来場者が写真を撮りたくなる仕掛けを1つ用意し、SNS拡散の起点を意図的に作る。
- 選手のレーティングを大会主催者間で共有し、シード付けと「保持・指名」に相当する仕組みを試験的に導入する。
- オフシーズンにこそ露出の山を作る。プーケットの選手オークションは、試合のない9月に話題を集める装置として機能した。
用品メーカーや施設運営者にとっては、興行の枠組みそのものがスポンサー商品になる点が示唆だ。CCPLはハーフタイムの音楽と都市フランチャイズという「観る理由」を用意し、そこに協賛と選手を組み合わせた。日本でも、コート数を増やす投資と並行して、観客が名前で応援できるチームの器を先に用意しておくと、競技人口の次の一段につながりやすい。
日本の主催者が次の大会で試せる一手
CCPL第2シーズンは10月17日にハイデラバードで開幕する。インドが見せたのは、ピックルボールが「同好会の集まり」から「継続する興行」へ移る道筋を、アジアの複数国が同時に踏み始めたという事実だ。日本の主催者がいま取れる具体的な一手は、次に開く大会で結果を選手個人ではなくチーム名で残し、そのチームを翌回まで持ち越すことだ。そのうえで来場者数・配信の視聴数・協賛の継続率を測れば、チーム制に商業的な価値が生まれるかを自分の数字で確かめられる。CCPLの開幕日と結果を追いながら、移植できる手順を1つ選ぶところから始めたい。

