東京・日本橋の広場「福徳の森」で、9月18日から27日までピックルボールのコート1面が無料開放されている。主催はアシックスだが、現場を運営するのは設立3年の株式会社ピックルボールワン(東京都千代田区、代表取締役・熊倉周作)だ。同社は2026年4月に資金調達を公表し、アシックス・ベンチャーズを含む大手5社と連携を始めた。今回が出資後にアシックスと初めて組んだ案件になる。誰が土地を持ち、誰がブランドを貸し、誰が受付に立つのか。この1面に分業が出ている。
日本橋の無料コート、運営を任されたのは設立3年の会社
イベント名は「ASICS PICKLEBALL CONNECT」。9月18日のリリースは、主催がアシックス、運営が自社だと明記している。会場は三越前駅A6出口から徒歩2分、日本橋室町2-5-10の広場。コートは1面だけ。参加費無料、予約は取らず当日先着順だ。
10分交代で回す1面、貸し出しはパドルからシューズまで
オープンプレーで1回10分の交代制、混雑時は5分に短縮される。初心者にはインストラクターが付き、パドル、ボール、アシックスのシューズが無料で貸し出される。サンダルやハイヒールの人は貸出シューズに履き替え、靴下は持参だ。
来場者を長く遊ばせる組み立てではない。10日間で何人に最初の1球を打たせるかに振り切った設計だ。アシックス側から同じイベントを扱った記事では1面の収容力を計算したが(Asics opens pickleball courts in Nihonbashi, free for 10 days with gear provided)、運営会社から見ると別の意味を持つ。
4月の出資から5か月、初の共同案件が体験イベントだった
リリースにもう一文ある。本イベントは、2026年4月にアシックス・ベンチャーズから出資を受けて以降、アシックスと初めて共に実施するイベントだ、と。資本が入って最初にやることが、大会でも新製品でもなく、都心の広場で10日間シューズを貸す体験会だった。熊倉氏は広げるのは一社の努力ではなくブランド・場所・運営が組むことだと述べる。ブランド=アシックス、場所=日本橋の広場、運営=自社。この3分割は他の案件にも当てはまる。
4月に組んだのはアシックス1社ではない、大手5社が名を連ねた
4月7日のリリースを開くと、相手はアシックス・ベンチャーズ単独ではなかった。資金調達の実施と合わせ、アシックス・ベンチャーズ、Sansan、TBSイノベーション・パートナーズ、電通グループ、三井不動産の5社(社名は五十音順)と連携を開始したとある。ただしリリースは5社を出資元として並べてはいない。出資という語が出てくるのはアシックス・ベンチャーズ、Sansan、三井不動産の3社で、残る2社は連携先として書かれている。調達額も出資比率も非公表だ。
アシックス側の役割はシューズのレンタル事業拡大
5社は役割を書き分けている。アシックス・ベンチャーズはフットウエアのレンタル事業の拡大と競技基盤の強化。同社の秋山大介社長は、アシックスのスポーツ知見を掛け合わせて競技者との接点を作ると述べた。日本橋でシューズを無料で貸すのは、その実地テストでもある。
Sansan、TBS、電通、三井不動産が持ち寄ったもの
Sansanは「Sansanピックルボールコート池袋」の運営を同社に委託することを小池亮介氏のコメントで明かし、ビジネスでの新しいコミュニケーション手段としての活用も掲げる。TBSイノベーション・パートナーズはイベントと国際大会での普及、電通グループは競技の普及からファンベース構築までの支援、三井不動産は企業リーグ「企業対抗ピックルボール&BIZ CUP」の運営連携を挙げた。5社が持ち寄るのはブランド、放送、広告、名刺ネットワーク、そして不動産だ。
会場の福徳の森は、三井不動産が2016年につくった広場だった
福徳の森は三井不動産が整備し、2016年9月28日に「森開き」した。同社の2016年8月8日のリリースでは敷地1,234.54平方メートル、日本橋再生計画の象徴とされる。今回のイベントは、4月に出資した三井不動産が10年前に整備した広場で、同じ4月に出資したアシックス・ベンチャーズの親元ブランドが看板を出し、出資を受けた側が受付に立つ構成だ。リリースはこの重なりに触れていないが、会場の住所と2016年の開発リリースを突き合わせると見えてくる。コートはテニスの3分の1程度で足り、空きフロアや屋上にも敷ける。不動産会社が大会に冠を出す動きも出ている(Kenedix, with 5 trillion yen under management, puts its name on pickleball: can idle space earn as courts)。
競技人口33万人に興味層1,189万人、認知率は13.1%どまり
ピックルボールワンは4月21日に国内市場調査を公表した。約3万人へのインターネット調査、実施は2026年3月。第三者機関の統計ではなく同社の自社調査だ。
| Item | Figure | Source |
|---|---|---|
| 国内競技人口 | 約33万人(2026年3月時点) | ピックルボールワン自社調査 |
| 前年の競技人口 | 約4.5万人(約7倍に増加) | Same as above |
| Potential players | About 11.89 million (about 36 times the playing population) | Same as above |
| Awareness rate | 13.1% | Same as above |
| テニスプレイヤーの関心度 | 72.5% | Same as above |
認知率13.1%が、無料コートを都心に置く理由になる
5つの数字で日本橋の1面と直結するのは認知率13.1%だ。競技人口が前年の約7倍に増えても、10人に9人はこのスポーツを知らない。専用コートを増やしても、知らない人は予約サイトにたどり着かない。通行人が通る広場に1面だけ置き、予約を取らず10分で交代させる運用は、その穴を埋める配置だ。テニスプレイヤーの72.5%という関心度も立地と噛み合う。
米国の「成人の5人に1人」は2023年のAPP発表が元
米国の数字を引いたのは4月7日と4月9日のリリースで、成人の約5人に1人にあたる約5,000万人が過去1年間にプレーしたとしている。脚注のAssociation of Pickleball Professionals(APP)の発表を開くと、48.3百万人、成人人口の19%、平均年齢34.8歳で、公表は2023年3月29日。APP自身の調査で、3年前の数字だ。米国の数字は調査主体で動く。33万人と並べるなら出所の差を踏まえたい。
都内で回す3施設のうち2つは、他社が用意した場所だった
8月20日のリリースは、都内で運営する専用コート施設が3施設になったとしている(2026年8月時点の同社集計)。銀座新橋、池袋、豊洲だ。
豊洲は事業主体がMellow、協賛にTBSと三井不動産とKINTO
9月に開業した「PICKLEBALL PARK TOYOSU」は江東区豊洲6丁目の「THE DOG PARK TOYOSU」内の屋外ハードコート4面。事業主体は株式会社Mellowで、同社の立場は企画運営。協賛にTBSホールディングス、三井不動産、KINTOが並ぶ。池袋はSansanが開設した施設の運営委託、日本橋はアシックス主催イベントの運営受託だ。池袋と豊洲は場所もブランドも他社のもので、同社は運営だけを引き受けている。自社名を冠した直営拠点は銀座新橋で、ここだけ立ち方が違う。用品側は自社で持ち、10月3日発売のゴジラコラボパドルは同社の商品だ(Toho-supervised Godzilla paddle: a first run of 200 goes on sale October 3 at 44,000 yen)。
20面以上の構想では土地から公募している
4月9日には20面以上のコートと観客席を備えたフラッグシップ施設の構想も出した。募集エリアは首都圏、広さの目安は5,000平方メートル以上で、契約は10年以上の長期利用が前提。土地提供パートナーや自治体を公募している。用地を買うのではなく募る。
9月27日までに行くなら、靴下と混雑時間だけ確認しておきたい
会期は27日の日曜まで。平日と休祝日で開始時刻が違う。
| Item | Details |
|---|---|
| Venues | 福徳の森(東京都中央区日本橋室町2-5-10)/コート1面 |
| Access | 東京メトロ三越前駅A6出口より徒歩2分 |
| Run | 2026年9月18日(金)~9月27日(日) |
| Hours | 平日16:00~21:00/休祝日13:00~21:00(9/21・22・23は休祝日扱い) |
| 参加費・予約 | 無料/予約不要・当日先着順(貸切予約は不可) |
| 体験内容 | オープンプレー1回10分交代(混雑時5分)、初心者はインストラクターが付く |
| 無料貸出 | パドル、ボール、アシックスのシューズ(靴下は持参) |
| Age | 中学生以上は単独参加可/小学生以下は保護者同伴 |
| Facilities | 更衣室・シャワーなし、物販・飲食なし |
空きスペースを持つ会社は、コートの外を数えに行くとよい
空きフロアや屋上、稼働の落ちた駐車場を抱える会社は、平日16時台と19時台に福徳の森へ行き、コートの外に何人並ぶかを数えてみるとよい。1面に何人溜まるかは、自社の空きスペースに何面置けるかを考える前の一次情報だ。
今週とれる具体的な一手
場所を持つ側が今週できるのは一つ。所在地、面積、用途地域、現況を1枚にまとめ、4月9日のリリースで公募中の土地提供パートナーの枠に問い合わせることだ。5,000平方メートルに届かない物件でも、同社は豊洲のように他社敷地の一角で4面を回している。
