標高1,250メートルの湖畔に、サウナと音楽とピックルボールが同居する2日間が生まれる。2026年8月1日から2日にかけて、長野県下諏訪町のいずみ湖公園で開かれる「IZUMIKO CAMP FESTA 2026」に、テニススクール大手のノアインドアステージがピックルボール体験エリアを出す。都心の公園で始めたウェルビーイング企画を、今度は森に囲まれた地方の観光フェスへ持ち込む格好だ。コートを常設せず、イベントの中にピックルボールを差し込むこのやり方には、日本の事業者がニュースポーツを地域へ広げるヒントが詰まっている。
湖畔のフェスに、ピックルボール体験エリアが並ぶ
会場となるいずみ湖公園は、下諏訪の市街から3キロほど離れた標高1,250メートルの森の中にある。カラマツやカエデに囲まれ、キャンプ場やテニスコート、多目的グラウンドを備えた町営の公園だ。ここで2日間、キャンプと地域グルメを土台に、サウナ・音楽・ピックルボールを軸としたアウトドア体験が展開される。
主催は合同会社ヒューマンスケール、後援に下諏訪町教育課が入る。ノアインドアステージは、スタートアップの株式会社MIC FIELDと組んで進めるウェルビーイング事業「W ARC(ダブルアーク)」の一環として、このフェスにピックルボール体験エリアを構える。専用施設を建てるのではなく、すでに人が集まる湖畔のイベントに競技の入口を差し込む――ここが今回の肝だ。
都心の公園から、地方の湖畔へ
ノアとMIC FIELDのW ARCは、もともと都市部で立ち上がった企画だった。第一弾は2026年春に都立明治公園で開いた「Wellness Park Tokyo」で、ピックルボールとサウナ、レッスン、瞑想を束ねて売る構成をとった(テニス大手ノアが挑む、ピックルボール×サウナで作る新市場)。競技そのものより、体験をどう編集して届けるかに軸足を置いた事業だ。
今回の下諏訪は、その企画を地方の観光フェスへ移した二手目にあたる。都心のオフィスワーカーを平日夜や週末に集める東京の企画と、キャンプや温泉地への旅を目的に人が来る長野の企画では、集まる客も動機も違う。同じ「サウナ×ピックルボール」の掛け合わせでも、都市の福利厚生や交流の需要に向けた企画から、旅の非日常を味わう場へと出し先を変えている。ひとつの体験パッケージを、立地に合わせて出し先を選び分ける動きだ。
「体験を足す」フェス型と、常設コート型の違い
ピックルボールを広げる手段は、大きく分けて二つある。ひとつは温泉リゾートやレジャー施設にコートを常設する型、もうひとつが今回のようにイベントへ一時的に体験エリアを出す型だ。それぞれ狙いも投資も異なる。
| Comparison axis | フェス出展型(今回の下諏訪) | 常設コート型 |
|---|---|---|
| 設備投資 | 小さい(仮設エリア) | 大きい(コート造成・維持) |
| 接点の作り方 | フェス来場者に体験を配る | 予約客が繰り返し通う |
| 集客の主体 | フェス本体が集める | 施設が自前で集める |
| 向いている目的 | 初回体験・認知の拡大 | 継続利用・稼働率の確保 |
温泉リゾートに20面を並べて「聖地」を目指す動き(20面の温泉リゾート、伊豆稲取が日本最大のピックル聖地になる日)や、富士急グループのアウトドア施設が全天候型のラケット場に競技を据える動き(富士急が全天候ラケット施設、ピックルを7種の一つに据えた狙い)は、いずれも常設型だ。まず箱を作り、そこへ客を呼び込む。対して下諏訪のフェス出展は、すでに人が集まる場に体験の窓口を一時的に開く。初めての人にラケットを握らせる入口としては、こちらのほうが軽い。
下諏訪という会場が持つ意味
下諏訪はもともと諏訪大社と温泉で知られる観光地で、湖畔の公園はキャンプやトレッキングの拠点になっている。町はいずみ湖公園について、民間の知恵で活用の幅を広げるための市場調査(トライアル・サウンディング)を2026年7月に募っている。公共の遊休空間を、外部の企画で動かそうという流れが自治体側にもある。
フェスへのピックルボール出展は、その流れと相性がいい。町が場所を持ち、フェス主催者が人を集め、ノアが競技体験を持ち込む。三者が役割を分け合うことで、それぞれの負担が小さくなる。地方の公園でニュースポーツを試すとき、この「場・集客・コンテンツ」の分担は現実的なモデルになりうる。
日本の事業者・自治体が読み取れること
今回の事例から、ピックルボールを地域へ広げたい事業者や自治体が学べる点は三つある。
- まず体験を届ける場所を選ぶ。コートを作る前に、すでに人が集まるフェスやイベントへ出て、初めて触れる人を増やす。認知づくりを先に置き、常設投資は手応えを見てから、という進め方だ。
- 掛け合わせる相手で客層を変える。サウナや音楽、キャンプと組めば、競技目当てでない層にも届く。ピックルボールを「目的」ではなく「体験の一部」として差し出す設計が効く。
- 役割を分担して身軽に動く。場所は公園、集客はフェス、コンテンツは専門事業者と分ければ、一社で抱え込むより投資も運営負担も軽い。
ノアにとっては、テニススクールで培った運営ノウハウと指導人材を、コートの外へ持ち出す実験でもある。自社の資産を新しい市場へ運ぶという意味で、都心の公園も地方の湖畔も同じ狙いの延長線上にある。
観光とニュースポーツが重なる市場
アウトドアフェスにスポーツ体験を組み込む形は、キャンプ人気とサウナブームが続く日本で広がる余地がある。旅先での非日常を求める客に、ルールが単純ですぐ打ち返せるピックルボールは差し込みやすい。フェス側から見れば、家族連れやグループが一緒に楽しめる体験は滞在時間や満足度を押し上げやすい。競技側から見れば、普段コートに来ない層へまとめて接点を作れる。双方の狙いが重なる。
地方の観光地がこの型を取り入れれば、既存の祭りやキャンプイベントに競技体験を足すだけで、新しい集客の切り口が生まれる。専用施設の建設を待たずに、ピックルボールと触れる機会は各地のフェスから増えていく可能性がある。
Overview
| Event Name | IZUMIKO CAMP FESTA 2026 sponsored by ニホンレッカーサービス |
|---|---|
| Dates | 2026年8月1日(土)〜8月2日(日) |
| Venues | 長野県諏訪郡下諏訪町・いずみ湖公園 |
| Host | 合同会社ヒューマンスケール |
| 後援 | 下諏訪町教育課 |
| 体験の軸 | サウナ・音楽・ピックルボール(キャンプ・地域グルメと併催) |
| ピックルボール出展 | ノアインドアステージ×株式会社MIC FIELD(W ARCプロジェクト) |
Summary
下諏訪のフェス出展は、ピックルボールを「常設コートへ客を呼ぶ」のではなく「人の集まる場へ体験を運ぶ」やり方の実例だ。都心の公園で始めた掛け合わせを地方の湖畔へ広げたノアの動きは、地域でニュースポーツを試したい事業者や自治体にとって、投資を抑えた入口になる。まずは自分の街の既存イベントに体験エリアを一区画足せないか、場所・集客・コンテンツの担い手を分けて考えてみるところから始めたい。次にピックルボールと出会う場所は、専用施設ではなく夏の湖畔かもしれない。
