富士急グループの株式会社ピカが、山梨県のキャンプ場「PICA富士西湖」に全天候対応のラケットスポーツ専門施設「PICA PICKLE FUJISAIKO」をオープンさせた。名前にピックルボールを冠しているものの、実際に遊べる競技は7種類あり、ピックルボールはその一角という設計だ。屋外レジャーの目的地が、競技そのものを集客の柱に組み込み始めている。日本のピックルボール愛好者にとっては、旅先で気軽に打てる場所が一つ増えると同時に、施設ビジネスとしての「ニュースポーツの束ね方」を読み解く材料になる。
富士山麓のキャンプ場に、7種を束ねる屋内コート
施設が立つのは、河口湖の西に位置する西湖畔のキャンプ場だ。運営会社の発表によれば、床面積はおよそ700平方メートル。ここにピックルボールのほか、パドルスマッシュ、ユニークテーブルテニス、卓球、ターゲットブース、フレスコボール、ジャズミントンという計7種のラケット・パドル系アクティビティを詰め込んでいる。1グループ8名までを1組として、60分の予約制で貸し切る形をとり、料金は1グループ5,000円に設定されている。
注目したいのは「全天候対応」という一点だ。屋外キャンプは天候に売上が左右されやすく、雨が降れば予約キャンセルや客単価の落ち込みに直結する。屋根のあるラケット施設をキャンプ場内に置くことで、雨天でも滞在時間と体験メニューを維持できる。運営側はこれを「世界初の全天候対応複合型ラケットスポーツ専門施設」と位置づけており、天候リスクを吸収する装置としてラケット競技を選んだ格好だ。
なぜピックルボールが「看板」に選ばれたのか
7種のうち施設名に採用されたのがピックルボールである点は示唆に富む。北米発祥のこの競技は、コートがテニスより小さく、ラリーが続きやすいため、初心者と経験者、大人と子どもが同じコートで成立しやすい。年齢や体力を問わず短時間で楽しめる性質は、家族連れやグループ利用が中心のキャンプ場と相性がよい。集客の入口として名前を打ち出すなら、いま最も認知が伸びている競技を看板に据えるのは自然な判断といえる。
一方で、施設の実態はあくまで「複合型」だ。ピックルボールを目当てに訪れても、卓球やフレスコボールと並ぶ選択肢の一つとして体験する構図になる。競技専用の常設コートを求める愛好者と、レジャーの延長で一度触れてみたい層とでは、この施設に期待するものが異なる。誇張なく言えば、ここは「ピックルボール専門施設」ではなく「ラケット遊びの総合施設で、ピックルボールも打てる場所」だ。
主要スペックを整理する
| Item | Details |
|---|---|
| Facility Name | PICA PICKLE FUJISAIKO |
| Location | PICA富士西湖(山梨県南都留郡富士河口湖町) |
| Operator | 株式会社ピカ(富士急グループ) |
| 床面積 | 約700平方メートル |
| 競技数 | 7種(ピックルボール含む) |
| 定員・料金 | 1グループ8名まで/5,000円・60分予約制 |
| Features | 全天候対応の複合型ラケット施設 |
1グループ8名・60分で5,000円という料金は、1人あたりに割れば1時間600円強にとどまる。会員制のインドア専用コートが月額数千円から数万円で設計されるのに対し、この施設は「単発・グループ・体験型」に振り切った価格だ。都心の常設コートが競技者の反復利用を前提にするのに対し、こちらはレジャー消費の一コマとしてラケット体験を売る、という違いがはっきり出ている。
リゾートが競技を「商品」にする国内の流れ
宿泊・レジャー施設がピックルボールを取り込む動きは、ここ最近で目に見えて増えている。北海道ではクラブメッド・トマムがコート6面を整備し、リゾート滞在の夏メニューとしてピックルボールを組み込んだ。都市部のホテルでも、ヒルトン東京が屋上のビアガーデンとピックルボールを掛け合わせた体験を商品化し、飲食と運動をセットにしたパッケージとして売り出している。既存の遊休スペースを季節限定で転用する例として、箱根のプリンス系施設が夏場だけテニスコートをピックル用に開放する取り組みも動き出した。
これらに共通するのは、ピックルボールを「競技」としてよりも「滞在体験のコンテンツ」として扱っている点だ。富士西湖の施設もこの系譜に連なる。リゾート側から見れば、専用設備の投資を抑えつつ、天候や季節に左右されにくい体験メニューを増やせる。競技人口の裾野を広げたい愛好者コミュニティにとっても、こうした「入口施設」が各地に増えることは、初心者との接点が増えることを意味する。
愛好者と施設側、それぞれの持ち帰り
日本のピックルボール関係者がこの施設から読み取れる示唆は二つある。一つは、旅先の選択肢としての価値だ。富士五湖エリアは首都圏から日帰りも可能な行楽地であり、キャンプや観光のついでに打てる場所があることは、家族や仲間を巻き込んで競技に触れてもらう良い口実になる。専用コートを探して遠征するのとは別の、「レジャーの延長で自然に体験してもらう」導線がここにある。
もう一つは、施設ビジネスとしての設計思想だ。単一競技の専用コートは、需要が読めれば強いが、天候や季節、競技ブームの浮沈にさらされやすい。富士西湖の施設は7種を束ねることで、ピックルボール人気が仮に落ち着いても、別のラケット遊びで稼働を埋められる構造にしている。競技単体への依存度を下げるこの発想は、これからコートや施設の運営を考える事業者にとって、リスク分散の一つの型を示している。
ピックルボールを看板に掲げつつ、実体は複合レジャー施設。この距離感をどう評価するかは立場によって分かれるだろう。競技の普及という観点では、まず触れてもらう機会が増えることに意味がある。専用施設の充実を望む声とは別の軸で、リゾートやレジャー事業者が競技を「集客の道具」として使い始めた事実は、国内市場が次の段階に入りつつあることをうかがわせる。
