BtoBプラットフォームを運営するインフォマート(東証プライム・証券コード2492)が、2027年春入社の内定者16名を集めた内定式を、10月1日に東京都豊島区のピックルボール専用施設で開いた。スポーツメディアのVICTORYが10月9日に配信した記事によると、式は「ピックルボール内定式&入団式」として組まれ、木村慎社長と役員、社員もスポーツウェアでコートに入り、内定者とシャッフルでペアを組んでダブルスのラリーとミニゲームを行った。インフォマートが契約するプロ選手で、日本代表として世界選手権の女子シングルスで準優勝した羽澤未宥が、ワンポイントレッスンと交流試合に加わっている。
人事イベントの話として読むと「社長もプレーした」で終わるが、会場・指導者・運営会社をそれぞれ調べると、日本のピックルボールがどの層の金で回り始めているかが見えてくる。

会場は7面で始まり11月15日に11面になるSansanの東池袋の施設
式が開かれたのは、東京都豊島区東池袋4-27-10のサンソウゴ池袋ビルに入るSansanピックルボールコート池袋。池袋駅から徒歩10分、東池袋駅から徒歩3分で、2026年7月10日に開業した。開業時点の構成はインドア3面とアウトドア4面の計7面で、インドアは6時から23時、アウトドアは9時から21時まで動いている。内定式が行われた10月1日時点で使えたのは、この7面だ。
施設は11月15日に拡大オープンを予定していて、3階にフルサイズのインドア3面とハーフコート1面を足し、全体で11面になる。3階には一般財団法人ピックルボール日本連盟(PJ)の事務局も入る。11月15日に計11面へ増える東池袋の増設計画は、国内の屋内コートの面数としてはかなり大きい。
運営はSansan。名刺管理と請求書のクラウドサービスを売る会社である。一方のインフォマートは1998年2月13日設立、本社は東京都港区海岸の汐留芝離宮ビルディング13階、従業員は連結924名・単体897名(2026年6月末)で、請求書と受発注を企業間でやりとりするプラットフォームを運営している。つまりこの内定式は、請求書のBtoB企業が、名刺と請求書のBtoB企業が建てたコートを借りて行われた。日本のピックルボールコートに最初に投資した層と、それを法人利用で使う層が、同じ業種の中で重なっている。
社長と役員が内定者とペアを組めたのはバドミントン1面分の広さだから
ピックルボールのコートはダブルスのバドミントンコートと同じ寸法で、テニスコートの約3分の1しかない。穴の空いたプラスチックボールは飛びも跳ねも小さく、ネット手前のノンボレーゾーンに踏み込んでのボレーが禁じられているため、前で押し切るプレーが成立しない。初対面でレベル差のある4人を同じラリーに入れられるのは、この3点が同時に効いているからだ。
人数の計算も合っている。1面にダブルスで4人が立つとすると、7面で同時に28人。内定者16名に社長・役員・社員を足した規模はそのまま収まる。インドア3面だけなら同時に12人までなので、全員を同時にコートへ入れるならアウトドアの4面まで使う必要がある。10月1日は木曜日で、平日の日中にこの人数を動かした格好だ。
テニスやバドミントンの社内大会だと、経験者が初心者を一方的に打ち抜く展開になりやすく、シャッフルでペアを組ませる運営が組みにくい。インフォマートが式のメイン競技にピックルボールを選べたのは、採用担当が競技の面白さを評価したからではなく、ルールの側が初対面のダブルスに耐えるようにできているからだろう。社内イベントでの採用が先に伸びるのは、この性質を持つ競技の必然的な順番だ。
指導した羽澤未宥は家具メーカーを辞めた30歳でアシックスのPX LEAGUE選手
レッスンに入った羽澤未宥はインフォマートと契約しているプロ選手で、1995年6月5日生まれの30歳。船橋市立湊町小学校、湊中学校、東京学館浦安高校、駒澤大学と進んだ硬式テニス出身で、高校ではインターハイのシングルスに出場し、大学では関東ベスト8まで勝ち上がっている。プロ転向前は大手オフィス家具メーカーに勤めていた。

戦績は船橋市の発表で確認できる。2025年10月31日から11月9日まで米テキサス州ダラスで開かれたPickleball World Championshipsの女子シングルスで準優勝し、12月10日から13日の有明テニスの森でのPJF Pickleball Championships 2025 in Japanでは女子ダブルスを制している。12月25日に船橋市役所を訪ね、市長に結果を報告した。
会社員からプロに転じた選手が、会社に入る前の学生16人を教える。この順番は日本のピックルボールの人材供給の実態をそのまま映している。競技歴で育った選手がまだ少ないので、トップ層の多くはテニスやソフトテニス、バドミントンからの転向者で、しかも社会人経験を持っている。羽澤はPX LEAGUEの出場36人とチームオーナー6社のうち、アシックスが持つASICS Sevensの6人の一人でもある。
PX LEAGUEの6チームのオーナーはアシックスからメルカリまで全部が企業
そのPX LEAGUEは、男性3人・女性3人の6人編成で6チームが争う。オーナーはアシックス、グローブライド、Sansan、TBSテレビ、トランスコスモス、メルカリ。種目は女子ダブルス、男子ダブルス、男子シングルス、女子シングルス、ミックスダブルスの5つで、1回の対戦に6人全員が出る。10月14日に有明テニスの森のインドアコートで特別開催があり、リーグ戦の第1節は11月22日、会場はインフォマートが内定式を開いたSansanピックルボールコート池袋。プレーオフは2027年4月4日に置かれている。
6社のうち用具を本業にしているのはアシックスとグローブライド(ダイワ・プリンス)の2社だけで、残る4社の本業は競技と関係ない。Sansanはコートを建てて貸し、TBSテレビは放送を持ち、メルカリとトランスコスモスは社名の露出と社内の活用を取りに来ている。公開されたオーナー6社の一覧にインフォマートの名前はないので、同社の「入団式」はプロチームへの加入ではない。社内で結成したピックルボールチームに2027年春入社の16人を「チームインフォマート」として迎える式の呼び名だ。
ここで企業側の支出に3つの層ができている。年間7開催日のリーグを買い切るオーナー、施設そのものを建てて運営する事業者、そして1日だけコートを貸し切る利用者。インフォマートは3つ目の層に入る。面数が増えても埋まるかどうかは、この3つ目の層の厚みで決まる。
16人の団体が埋めるのは平日昼の空き枠で体験会は1人80分4,000円
施設を運営する側から見ると、木曜の日中に16人以上をまとめて入れる団体は、いちばん取りにくい枠を埋める客だ。個人プレーヤーの需要は平日の早朝と夜、それに土日に集まる。Sansanピックルボールコート池袋が出している「初めて体験会」は80分4,000円で、初級・中級レッスンも80分4,000円から。30人規模を同じ単価で入れれば十数万円が平日昼に立つ。
単価の比較材料として、1面1時間6,000円で朝6時から開ける豊洲の屋外4面のような面貸しだと、4面2時間で48,000円。同じ豊洲のPICKLRの屋内7面は非会員が1人1時間2,500円だ。人数課金の体験会型と面貸し型では、16人の団体に対する売上が倍以上変わる。法人の内定式や研修を取りに行くなら、人数課金に乗せたほうが面数の制約を受けにくい。
実務で詰まるのは面数ではない。16人をプロ1人で2時間動かすと、1面4人で4面を順番に回す形になり、待ち時間が出る。社員と役員が一緒に入って面を埋めたインフォマートの進め方は、待ちを減らす運営としても筋が通っている。あとは着替え場所の数と、インドアでのノンマーキングシューズ指定の事前告知で、ここを怠ると当日に入れない参加者が出る。パドルとボールを施設が貸せるので、参加者に道具を買わせずに済む点は、初心者だけを集めるイベントで効く。
インフォマートの2025年度の流通金額は71兆7,304億円。その請求書の会社が、入社半年前の16人を池袋のコートに立たせた。同じ施設では11月15日に3階が開いて11面になり、その1週間後の11月22日からPX LEAGUEのリーグ戦が始まる。

