豪州のピックルボール施設運営 House of Pickle が、シドニー南部ボタニーの倉庫1棟を10年契約で借りた。realestatesource が10月12日に報じたもので、21 Underwood Avenue(36 Chegwyn Street)の約2,461平米を屋内7面と酒類提供のバーに改装する。同社にとってニューサウスウェールズ州で7か所目、シドニー南部では最初の拠点になる。賃料は開示されていない。面数だけ見れば日本の屋内施設と同じ規模だが、この案件で効いているのは倉庫を10年押さえたという契約の形のほうだ。以下、豪ドルは1豪ドル=約110円(2026年9月中旬の実勢値)で換算する。

2,461平米を7面で割ると1面352平米、推奨コート面積の1.7倍を敷いている
ピックルボールのコート実面積は6.10メートル×13.41メートルで約82平米。7面なら約573平米で、建物の23%しか使わない。走路を含めた推奨プレーエリアは34フィート×64フィート(10.36メートル×19.51メートル)の約202平米とされるので、7面分で約1,415平米。残る約1,046平米、建物の42%がバー・更衣室・受付・通路に回る計算になる。最低限の30フィート×60フィート(約167平米)で詰めれば7面で約1,170平米に収まり、1,290平米が余る。House of Pickle は面数を詰める方向ではなく、残りをバーと待機スペースに振った。
この面積帯は豪州市場の標準値に近い。JLLが5月13日に出した解説(コメントはリーシング担当シニアアソシエイトのDavid Brush)では、米フランチャイズ The Picklr の豪ニュージーランド法人(CEOはRobert Pistilli)が探している物件が1,500〜3,000平米で、人口密度の高い住宅地の近くという条件が付く。ボタニーの2,461平米はこの帯の上寄りに入る。同じ解説によれば米国では2024年までに40拠点で130万平方フィート超(約12万平米)を占めており、1拠点あたり平均は約3,000平米。ボタニーはその平均より小さい箱で7面を取りに行く。
30キロ西のウェザリルパークはパデル12面で募集年137万豪ドル、坪7,900円は首都圏物流の1.7倍
賃料非開示のボタニーを読むには、同じ媒体が7月16日に報じた隣の案件が使える。ESR Australia が Wetherill Industry Park(3B, 27 Frank Street, Wetherill Park)で Place of Padel に貸した5,262平米で、天井高14.6メートル、期間は初期5年、募集賃料は年137万豪ドル(約1億5,100万円、諸経費とGST別)。Fairfield市に出した計画はパデル12面に374平米の管理区画、営業は6時から23時、仲介はCBREのJanet Joljian。駐車193台は2023年に承認された6棟の団地全体に付く台数で、この1棟の専用枠ではない。
この募集賃料を床面積で割ると1平米あたり年260豪ドル。円に直すと坪あたり月約7,900円になる。CBREが8月18日に公表した2026年第2四半期のロジスティクスマーケットビューでは、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の実質賃料が坪4,600円、空室率が7.8%。シドニー西部の募集水準は首都圏物流の約1.7倍にあたる。面数で割れば1面あたり月約105万円。豊洲の屋外4面が1面1時間6,000円で出している単価に当てると、1面を1日8時間・月22日動かした売上が約106万円で、この賃料とちょうど並ぶ。屋内7面を10年持つというのは、この水準の固定費を10年分先に引き受ける話になる。
ボタニー側の実額は分からない。ウェザリルパークの募集単価をそのまま当てれば年約64万豪ドル(約7,000万円)だが、ボタニーはシドニーCBDから11キロで、30キロ西のウェザリルパークより内側にある。実際の賃料はこれを上回る可能性が高い、という筆者の試算にとどまる。
倉庫の平均賃貸5年に対して7〜10年を求めるのは、内装費と3〜12か月の許認可を背負うから
10年という期間そのものが豪州では例外的な長さだ。豪州の倉庫賃貸の平均は5年で、ピックルボールとパデルの運営者は内装費を回収するために7〜10年を求めるとBrushは言う。貸主は平均以上の前払い保証を求め、その額は数十万豪ドル規模(約数千万円)になるという。開発許可の取得にも3〜12か月かかる。JLL Research による豪州の産業用空室率は平均5%で、世界でも低い水準にある。運営者は物流や製造のテナントと同じ棚を取り合っている。

House of Pickle が10年で署名したのは、長期を飲まなければ貸主が振り向かない市場だからという読みが立つ。ボタニーの建物は2019年12月に630万3,000豪ドル(約6億9,300万円)で売買されている。当時の買主側にはCushman & Wakefieldの Nick Mallett と Greer McLeod が関与した。その価格の資産を競技用に転用させる側からすれば、5年では内装の償却も読めない。
コート代が会費に入るのは週25豪ドルからで、豊洲のビジター2,500円なら月4.8時間分
House of Pickle の公式サイトが出している会費は4段階で、いずれも週あたりの表示・月額課金・随時解約。下限のスタンダードは週20豪ドル(約2,200円、月に直すと約9,500円)だが、これはコート予約が3割引き、オープンプレーが半額になる割引会員で、打つ分の料金は別に払う。コート代が会費に含まれるのは、平日7時から17時のオフピーク枠を1日4時間まで無料で押さえられる週25豪ドルと、時間帯を問わず1日4時間まで無料のシグネチャー週50豪ドルの2つだ。豊洲のPICKLRは屋内7面を非会員1人1時間2,500円で開けている。週25豪ドルは月約11,900円で、豊洲のビジター4.8時間分にあたる。平日昼に週1時間強を打てば元が取れる設計で、空いている昼の枠を会員に流し込む建て方になっている。
この価格を成立させている土台が参加人口だ。AusPlay が2025年12月に公表した調査では、ピックルボールとパデルの実施者が2024年の15万5,000人超から2025年に29万7,000人超へほぼ倍になった。Brushが挙げた「登録者約12万人」とは数え方が違い、AusPlayは実施者調査、JLL側は登録ベースなので、両方を同じ数字として並べられない。
8月22日に開いたアルビオンパーク店は屋内ピックルボール5面とパデル2面の構成で、初日の大会に105人が入り、一般予約も入って22時まで開けた(Illawarra Mercury)。ピックルとパデルを1棟に混ぜる形はBrushも指摘していて、ボタニーが7面すべてピックルボールという振り方はむしろ少数派の選択になる。
開業9拠点に5拠点を積む House of Pickle は、オークランドのオネハンガまで待機リストを出している
公式サイトの現況は開業9拠点と準備中5拠点。開業はフレンチズフォレスト、ダーリングハーバー、タガラ、セブンヒルズ、ベランビ、ポートメルボルン、アルビオンパーク、カランビン、ソールズベリーダウンズ。準備中はボタニー、レッドクリフ半島、ヒルクレスト、そしてニュージーランドのマウントマウンガヌイとオークランド・オネハンガで、いずれも待機リストを受け付けている。自称は「アジア太平洋で最大のピックルボール・パデルクラブ網をつくる」。ニュージーランドが2拠点入った時点で、豪州国内の話ではなくなっている。
反対向きの流れも動いている。米ブランドではPickleball Kingdom が豪州とニュージーランドの開発権を1人に託し、実際のクラブ開業は加盟店が決まってからという順番にした。The Picklr も ANZ 法人を立てて1,500〜3,000平米を探している段階にある。倉庫を自分で10年借りて改装する直営型と、権利を売って加盟店に箱探しをさせるフランチャイズ型が、同じ市場で並んで進んでいる。
日本側で効くのは、この分岐のほうだ。10年の賃貸と数十万豪ドル規模の保証を自前で引き受けられる運営者はまだ限られる。国内で直近に増えた屋内は、下総中山駅の高架下2面や、閉館が決まった渋谷東武ホテルの地下2階2面のように、既存躯体の空きに2面を差し込む形が目立つ。ボタニーの2,461平米・7面・バーという型を持ち込むなら、面積を探す前に10年を書ける貸主と、1面あたり月100万円級の固定費を支える稼働計画を先に組む順番になる。
参照元
- realestatesource「Pickleball operator signs 10-year Sydney lease」
- realestatesource「ESR secures padel club to Sydney warehouse」
- JLL「Pickleball chases industrial space in Australia」
- House of Pickle 公式サイト(拠点一覧・会費)
- Illawarra Mercury「Albion Park House of Pickle opens a massive hit for sport」
- LNEWS「CBRE ロジスティクスマーケットビュー2026年第2四半期」

