ヨーラ・ジャパンが10月7日に発表した「JOOLA × Steve Aoki HiROQUEST Collection」のパドルが、10月9日14時にヨーラ公式オンラインストアと一部取扱店で発売された。価格は1本61,600円(税込)。ヒロレッドとハイロレッドの2色で、どちらにもトレーディングカードが1枚、中身が分からない状態で封入される。米国では同じコレクションが卓球ラケットまで含む4点構成だったが、日本に入ってきたのはパドル2点だけだ。
6万円台のパドルという価格そのものより、国内のプレーヤーと販売側にとって読み取るべき点は別にある。ドル建て価格との差がほとんど無いこと、標準モデルからの上乗せ幅が米国より大きいこと、そして卓球側が日本では見送られたことだ。

ヒロレッドとハイロレッドで2色、カードは開けるまで何が入っているか分からない
ベースはペルセウス プロ V 16mm。ヨーラ公式オンラインストアの商品ページ(SKU: PAPAO064137016)では、幅19.1cm・長さ41.9cm・グリップ周囲10.8cm・コア厚16mmと記載され、いずれも「若干の個体差あり」と注記されている。インチに直せば長さ16.5インチ、グリップ周囲4.25インチで、ベン・ジョンズが使う寸法と同じ系列だ。製造国は中国、認証はUPA-AとUSAP PBCoR .43を取得している。
この認証表記は見た目より実務的な意味がある。PBCoR .43は反発係数の上限を定めた基準で、国内の公認大会が米国基準に追随する限り、この1本はコレクション棚に飾るだけでなく試合でそのまま使える。4万円台から6万円台の限定パドルは「記念品なのか競技用具なのか」が曖昧になりやすいが、こちらは後者として売られている。

カードの扱いは商品の性格をよく表している。公式ストアの説明では、ミステリーパックにJOOLA × HiROQUESTのキャラクターカードが1枚ランダムで入り、ヒロレッドにはヒロのカード、ハイロレッドにはハイロのカードが対応する。ヨーラ・ジャパンの発表では、通常版とシリアルナンバー入りがランダムで封入されるとしている。つまり同じ61,600円を払っても、手元に来る物は一律ではない。2色とも揃えるなら123,200円になる。
米国349.95ドルに対し日本は税抜56,000円、1ドル158円で換算するとほぼ重なる
JOOLA本社の発表では、米国でのパドル価格は1本349.95ドル。公式ストアの日本価格は税抜56,000円・税込61,600円で表示されている。10月上旬の為替は1ドル158円前後で推移していたため、この水準で換算すると349.95ドルは約55,300円。税抜の国内価格56,000円との差は1%台にとどまる。
輸入ブランドの限定品では、関税・輸送・国内販社の取り分が積み上がって現地価格の1.2〜1.5倍になることが珍しくない。今回はそれが起きていない。ヨーラ・ジャパンは2024年6月に設立された日本法人で、本社の価格表をそのまま円に置き換える方針を取ったと読める。並行輸入や米国サイトからの個人輸入を検討していたプレーヤーにとっては、送料と関税を負う意味がほぼ消えたことになる。
標準のプロ Vは50,600円、コラボ分の上乗せは日本のほうが5ポイント大きい
比較の軸を国内に移すと別の数字が出てくる。標準のベン・ジョンズ ペルセウス プロ V 16mm ブレイズレッド(PAPAO050)は、ビックカメラで税込50,600円。税抜46,000円だ。アオキ版の税抜56,000円との差は10,000円、率にして21.7%の上乗せになる。
米国側は標準モデルが299.95ドル、アオキ版が349.95ドルで、上乗せは50ドル・16.7%。日本の上乗せ幅のほうが5ポイント大きい。本体価格はドル換算とほぼ同額なのに、コラボ分の割増だけ国内が厚いという構図だ。標準モデルは逆に、299.95ドルを158円で換算した約47,400円より国内の46,000円が3%ほど安い。結果として、量販される標準モデルは価格を抑え、限定品で収益を取る配分になっている。
JOOLAの国内価格については、競技者向けの「Pro V」が日本で税込5万600円、米国発売の発泡素材パドル「Power FX」が179.95ドルという並びを9月に取り上げた。今回の61,600円は、その上に一段積んだ位置にある。
米国で出た199.95ドルの卓球ラケット2本は、日本に来なかった
見落としやすいのが、日本で売られなかった側だ。米国のコレクションは、パドル2本に加えて「Infinity Carbon」をベースにした卓球ラケット2本(各199.95ドル)を含む4点構成だった。ヨーラ・ジャパンの発表では、日本展開はピックルボールパドルのみとされている。
ヨーラは1952年にドイツで創業した卓球ブランドで、1996年アトランタから2004年アテネまで3大会で卓球台の公式スポンサーを務めた。ピックルボールに本格参入したのは2022年だ。母国の主力競技は卓球であり、日本は卓球人口でも用品市場でも世界有数の国にあたる。それでも日本に送られたのは、歴史の浅いピックルボール側だった。
199.95ドルは158円換算で約31,600円。国内の卓球ラケット市場ではバタフライやニッタクの指名買いが強く、3万円超のコラボラケットを新規ブランドで売り切るのは難しい。一方のピックルボールは、用具の指名が固まっていない代わりに、新作に反応して6万円を出す層が先に立ち上がっている。どちらに在庫を置くかの判断として、この偏りは筋が通っている。
61,600円は豊洲のビジター料金24回分にあたる
国内のプレーヤーがこの価格をどう測るか。豊洲のPICKLR屋内7面は非会員1人1時間2,500円で、61,600円はおよそ24回分のプレー代に相当する。週1回なら半年分だ。パドル1本にその額を充てる判断は、プレー頻度が高い層か、HiROQUESTのカードまで含めて買う層に絞られる。
国内の限定パドルは10月に入って立て込んだ。東宝監修のゴジラパドルは初回200本を10月3日に4万4千円で発売しており、その6日後にアオキ版の61,600円が続いた。44,000円・50,600円・61,600円という価格帯が1週間のうちに並んだことになる。国内のパドル価格の上限が、実売ベースで6万円台まで引き上がった週だった。
市場規模の見立ては慎重に扱う必要がある。ピックルボールワンが約3万人を対象に実施した調査では、国内の競技人口は33万人、関心層は1,189万人とされている。協会の公式統計ではなく民間調査の推計だが、33万人のうち6万円のパドルを買う比率が仮に0.1%でも330本になる。生産数が公表されていない限定品としては、成立しうる規模だ。
販売側に残る実務的な穴は、取扱店が「一部のヨーラ取扱店」とだけ書かれ、店名が出ていない点にある。14時という発売時刻が指定されているのに、オンライン以外の買い場が特定できない。店頭で触ってから決めたいプレーヤーには、発売日にどこへ行けばよいかが示されていない。
5月に25,000円の事業者向けセミナーを開いた会社が、5か月後に6万円の収集品を出した
ヨーラ・ジャパンがPR TIMESで1つ前に出していた告知は、性格が真逆だった。2026年5月14日に発表した「参入機会と導入事例から学ぶビジネス活用セミナー」は、6月12日に千葉県市川市のTHE PICKLE BANG THEORYで開催され、参加費25,000円・定員約50人・1社2名までという条件。想定していたのはテニスコート運営者やリゾートホテルといった施設側で、登壇はピックルボール日本連盟の常任理事、千葉県ピックルボール協会の理事長、同社のピックルボール事業推進アドバイザーと代表取締役だった。
施設を増やす側に有料で売り込みながら、同じ5か月のうちに個人向けの最上位価格帯を投入している。コート数が足りない市場で用具だけ高価格化しても買い手は増えないため、面を増やす活動と、増えた面で使われる1本を売る活動を同時に回す形になっている。同社が協賛する大会にPPA Asia Sansan Tokyo Openや有明のPJ Pickleball Championshipsが並ぶのも、同じ線上にある。
国内の次の確認点は、61,600円という価格が再販市場でどう動くかだ。カードがランダム封入である以上、シリアルナンバー入りを引いた個体と通常版の個体が同じ価格で流れるとは考えにくい。パドルとしての性能ではなく、封入物の中身で値が付く取引が出てくれば、用具としての値付けから離れた動きが観測できる。10月9日に買った人が何を引いたかは、しばらくSNS側に出てくるはずだ。

