ピックルボール専門メディアのThe Dinkが、2021年5月から2026年5月までにUSA Pickleball(USAP)が認定したパドル4,101本を独自に解析し、6月30日に公開した。結論はひとことで言えば「認定数はピーク比6割減、でもパドルの中身は加速度的に高度化している」。数だけ見れば市場は縮んで見えるが、実態は淘汰と進化が同時に走る成熟局面だ。日本のプレーヤーが売り場で手にするパドルの構造も、この1年で確実に様変わりしている。読み解いておく価値がある。
認定数はピークの4割まで縮んだ
The Dinkの集計によると、USAPが認定したパドルは5年間で累計4,101本、参加ブランドは1,214社にのぼる。年別に見ると2021年の新規認定は209本だったが、2024年に1,293本でピークを打った。2025年はそこから27%減、2026年は年間換算でおよそ518本のペースで、ピーク比では約6割減という計算になる。
ただしこの数字を「ブームの終焉」と読むのは早い。ブランドの内訳を見ると、1,214社のうち611社、つまり全体のちょうど半分が「1本だけ認定して二度と戻ってこなかった」参入組だ。上位10ブランドが握る認定シェアはわずか13%。つまりピーク時の膨張は、参入だけして続かない小規模プレーヤーの一発認定で水増しされていた側面が大きい。その層が消えた結果としての減少なら、市場そのものの縮小とは意味が違う。
フォームコアがポリプロピレンを逆転した
もっと注目すべきは中身の変化だ。2025年1月より前、認定パドルの91.5%はポリプロピレンのハニカムコアで、フォームコアは2%未満に過ぎなかった。それが2025年1月以降は認定の28%がフォーム入りに跳ね上がり、2026年5月の認定では実に70%がフォームを含む。そして2026年3月、月間の認定でフォーム53%対ポリプロピレン34%と、ついにフォームがハニカムを逆転した。競技パドルの標準素材が、わずか1年強で入れ替わった格好だ。
変化はコア素材だけではない。平均コア厚は2021年の12.6mmから2026年には15.4mmへ厚くなり、16mm以上のモデルは認定全体の15%から74%へ拡大した。逆に14mm未満は64%から7%まで激減している。表面も生カーボンや加工されたスピン系フェイスが27%から62%へ増えた。厚く、フォーム化し、表面はスピン重視へ——これがいまの認定パドルの基本設計だ。
ブランドで割れる「フォーム化」の温度差
| ブランド | 2025年1月以降のフォーム化傾向 |
|---|---|
| Ronbus | 認定12本すべてフォーム |
| CRBN | 認定9本すべてフォーム |
| Selkirk | 約82%がフォーム |
| Wilson | 約64%がフォーム |
| JOOLA | 新規45本、フォームはゼロ |
| Franklin Sports | 認定28本すべてポリプロピレン |
興味深いのは、全ブランドがフォームに雪崩を打っているわけではない点だ。RonbusやCRBNのように認定を全数フォームで固める新興勢がいる一方、業界最大手級のJOOLAは新規45本を出しながらフォームはゼロ、Franklin Sportsも28本すべてをポリプロピレンで通した。フォーム化が「正解」なのではなく、各社が自社の哲学と量産技術に合わせて賭ける対象を分けている段階と読むほうが正確だろう。
認定が減った本当の理由
認定数の減少には、素材の高度化そのものが効いている。フォーム、熱成形(サーモフォーム)、生カーボン、ケブラー混紡といった新素材は、コアの反発挙動を複雑にし、量産時のばらつきも生む。つまりテストが以前より難しくなった。加えて2025年以降、UPA-A(プロツアー系の別認定)が並立し、一部ブランドは性能重視の新作をそちらへ優先的に回す動きも出ている。認定の数が減ったのは需要が冷えたからではなく、パドルが「認定しにくいほど進化した」からだ、という逆説的な構図が見えてくる。
The Dink自身も注意点を添えている。認定の時期は小売の発売日と一致しないこと、認定リストは失効したパドルを含まないこと、コア素材の集計は自由記述欄に基づくため数ポイントの誤差があること。数値は傾向を掴むためのものとして扱うのが妥当だ。
日本のプレーヤーに何が起きるか
この流れは対岸の話ではない。ミズノは2026年5月に米国でパドルを本格投入し、日本ピックルボール協会とも普及パートナー契約を結んで国産用品の開発に動いている。海外の認定トレンドがフォーム・厚コア・スピン系フェイスへ寄っている以上、日本市場に入ってくる新モデルも同じ方向に設計される公算が高い。ミズノが米国でパドル5モデルを発売した動きは、その前触れと見ていい。
買い手として押さえておきたいのは、「認定=最新設計」ではないという点だ。ポリプロピレンのハニカムは反発が穏やかでコントロールしやすく、フォームは反発とパワーが乗る。厚コアはオフセンターに強い反面スイングの重さが出る。素材トレンドが動いても、自分のプレースタイルに合うかは別問題だ。試打できる環境で確かめてから選ぶ意味が、むしろ増している。渋谷にパドル300種を試打できる専門店が生まれたのは、この選択の難しさが日本でも顕在化している証拠だろう。
市場と競技への波及
認定数の減少と単価の上昇は、パドル市場が「数を売る」から「性能で選ばせる」段階へ移る兆しでもある。一発参入で消える半数のブランドが淘汰されれば、残るのは継続的に開発投資できる企業だ。米国では個人ガレージ発の11SIX24のように、少数精鋭でプロを惹きつける新興も出ている。アパートで100本売った男の11SIX24にプロが乗り換えた話は、量産規模より設計思想で勝負できる余地がまだ残っていることを示す。
競技面では、フォームと厚コアの普及がラリーの質を変える。反発とスピンが増せば、ネット際のディンク合戦とバックコートからの攻めの両方が高速化する。日本の競技者が世界と戦ううえでも、使う道具が海外標準にどう追随するかは無視できない要素になる。
いま何を確認すべきか
パドルの買い替えを考えているなら、まずコア素材(フォームかポリプロピレンか)とコア厚を確認したい。次に、その素材が自分の課題——反発が欲しいのか、コントロールを優先したいのか——に合うかを試打で見極める。認定リストの新しさやブランドの知名度だけで選ばず、素材トレンドの「なぜそうなっているか」を理解したうえで、自分の一本を選んでほしい。市場が成熟に向かういまこそ、道具の見極め力が競技力の差になる。

