ベトナムの銀行業界で、約700人の行員が家族連れでコートに立った。2026年6月27日、ハノイのミーディン陸上競技場で開かれた「2026ベトナム銀行ピックルボール・ファミリーカップ」。主催はベトナム銀行労働組合で、業界25団体が参加した。父子ペア・母子ペアを軸にした8部門構成が示すのは、この競技が福利厚生とファミリーレジャーの両輪で根づいている姿だ。日本でも社内サークルや自治体主催の大会が増えつつある今、業界丸ごとを巻き込むベトナムの設計は参考になる点が多い。
約700人が集まった銀行業界の家族大会
大会名は「Family – Accompanying – Connecting(家族・伴走・つながり)」。ベトナム銀行労働組合が主催し、業界25団体から約700人の選手が集まった。会場はハノイ・トゥーリエム地区のミーディン陸上競技場(My Dinh Athletics Palace)で、開催は2026年6月27日の午前中からだ。
この大会が銀行創立75周年(1951年5月6日設立)、ベトナム家族の日25周年(6月28日)、第14回ベトナム労働組合大会の成功を記念する位置づけで組まれた点は見逃せない。単発のイベントではなく、業界の年間行事のなかに競技が組み込まれている。
8部門の設計に表れた「家族単位」という発想
競技は8部門で行われた。40歳未満カップル、40歳以上カップルという年代別のペア戦に加え、父子ペア(U12-13/U14-15)、母子ペア(U12-13/U14-15)と、親子ペアを明確に切り出しているのが特徴だ。さらに幹部同士の交流を狙った男子ダブルスと混合ダブルスの部門も設けられた。
注目したいのは、家族が一緒に出場したのが今回が初めてという点だ。従来の社内スポーツ大会が「社員同士の競技」で完結していたのに対し、子どもや配偶者を巻き込む設計へ舵を切っている。ピックルボールはパドルが軽く、ラリーの距離が短いため、体格差のある親子でも同じコートで成立しやすい。この競技特性が「家族単位のダブルス」という部門設計を可能にしている。
ベトナムの普及速度と企業スポーツの相性
ベトナムでのピックルボール人気は、この2〜3年で急激に立ち上がった。都市部を中心に競技者が広がり、テニスコートを転用して専用コート化する動きも各地で進んでいる。SNSでのファッション発信が女性層を呼び込み、パドルやボールが軽量で費用も抑えやすいことが、幅広い年齢層への浸透を後押ししてきた。
そこへ業界団体・労働組合という組織的な受け皿が加わると、普及の速度はさらに増す。25団体・約700人という規模は、個人の趣味が集まった数字ではなく、組織が動員した数字だ。企業や業界が福利厚生として大会を仕込めば、コート需要・用品需要・指導者需要がまとめて生まれる。ベトナムはその循環を、銀行という巨大セクターで実演してみせた。
現地・業界の受け止め
現地報道では、この大会を「健全な活動の場を生み出し、心身の生活を向上させ、ベトナムの家族の良き価値を広げる」ものと位置づける声が中心だ。競技成績よりも、家族の交流と組織の結束を前面に押し出したトーンが目立つ。
ピックルボール界隈からは、親子ペア部門を正式カテゴリーとして立てた点への関心が高い。世代をまたいで同じ土俵に立てる競技は限られており、その強みを大会フォーマットに落とし込んだ実例として受け止められている。
企業スポーツの担当者目線では、体育館一つで多部門を同時進行できる運営効率の良さも評価点だ。コート面積が小さく、1試合が短いピックルボールは、大人数を短時間でさばく大会運営と相性がいい。
日本の企業・団体が持ち帰れる示唆
日本でも社内フットサルや野球大会は定番だが、参加できるのは動ける現役世代に偏りがちだ。ピックルボールなら、体力差のある社員も、家族連れも同じ大会に組み込める。ベトナムの銀行大会が示したのは「福利厚生イベントの門戸を家族まで広げる」という設計思想だ。
実際、日本国内でもリゾートや自治体が家族向けのピックルボール企画を打ち出し始めている。クラブメッド・トマムがコート6面を導入し夏の家族客を取り込む動きや、ヒルトン東京が屋上ビアガーデンとピックルボールを組み合わせた商品は、いずれも「レジャー×競技」の交点にある。ベトナムの銀行大会は、これを企業の内部行事として制度化した先行例と読める。
市場への波及
業界団体が主催する大規模大会が定着すると、用品・コート市場に安定した需要が生まれる。個人客の増減に左右されにくい「団体需要」は、パドルメーカーや施設運営にとって計算しやすい売上だ。ベトナムでは既に自国パドルブランドが海外進出を狙う段階に入っており、越パドルブランドFacolosが世界ランク上位選手と契約して米国進出を図る動きも出ている。国内の企業大会が裾野を広げ、そこで育ったブランドが外へ出ていく構図だ。
日本のメーカーや施設事業者にとっても、企業・団体という顧客層は開拓余地が大きい。個人向けコートの奪い合いだけでなく、法人の福利厚生予算をどう取り込むかが、次の普及フェーズの分かれ目になりそうだ。
実用情報・関連リンク
社内や地域で家族参加型の大会を企画するなら、ベトナム大会の部門設計は下敷きになる。年代別ペア、親子ペア、幹部交流戦のように「同じ競技を複数の切り口で分ける」と、実力差があっても全員に出番が生まれる。日本の運営事例としては、リゾート施設が季節限定でコートを設ける手法も参考になる。
まとめ
ベトナム銀行労組の約700人規模の大会は、ピックルボールが「個人の趣味」から「業界の福利厚生インフラ」へ移りつつあることを示す。日本の企業スポーツ担当者や施設運営者は、まず小規模でも家族参加部門を1つ設けてみることから始めたい。親子で成立する競技という特性を活かせば、既存の社内大会では届かなかった層を巻き込める。ベトナムの実例は、その第一歩の具体像を提示している。

