スロベニア西端の海辺の街ポルトロスで7月26日の週末に開かれたPPAイタリアシリーズの125大会で、英国のケイティ・モリスが女子ダブルスと混合ダブルスの2種目を制した。米Forbesは彼女がこの週末に「ダブルダブル」を掴んだと報じている。アドリア海を挟んでベネチアと向かい合う会場に集まったのは主に欧州の選手たちで、表彰台の名前も欧州出身者が並んだ。米国発の競技で、欧州の女子選手が地元大会の頂点を独占した。この構図は、これから普及期に入る日本の女子競技を考えるうえで示唆に富む。
女子ダブルスはCaymel Romero、混合はCawstonと組んだモリスの2冠
Forbesの週間リキャップによると、モリスは女子ダブルスをクラウディア・カイメル・ロメロと、混合ダブルスをベン・カウストンと組んで、いずれも優勝している。1人の選手が同じ週末に2種目を獲るのは、ペアの相手が2人とも噛み合ったことを意味する。異なるパートナーで異なる種目を勝ち切るには、自分の型を保ちながら相手の間合いに合わせる調整力が要る。派手なスコアの記録は残っていないが、種目をまたいで勝ち上がった事実そのものが、モリスがこの大会の女子部門で頭ひとつ抜けていたことを示す。
会場となったポルトロスは、PPAが欧州で初めて常設シリーズを敷いた地のひとつだ。PPAツアーの欧州初開催とスロベニア125大会の位置づけは別稿にまとめている。大会そのものの成り立ちはそちらに譲り、ここでは勝った選手、とりわけ女子側の動きに絞って読む。
表彰台に並んだハンガリー・スペイン・ドイツ——欧州が回した週末
この大会の125という数字は、標準的なPPA大会の8分の1の価値にあたる。ランキングへの寄与は小さいが、集まった顔ぶれは欧州の現在地を映していた。Forbesが挙げた優勝者を種目別に並べると次のようになる。
| Event | Winner | From |
|---|---|---|
| Women’s doubles | ケイティ・モリス / クラウディア・カイメル・ロメロ | 英国ほか |
| Mixed doubles | ケイティ・モリス / ベン・カウストン | 英国 |
| Men's Doubles | ルイ・ラヴィル / トム・プロツェク | イングランド・ドイツ |
| Men's singles | バリント・バコ | ハンガリー |
| Women's singles | サブリナ・メンデス・ドミンゲス | スペイン系 |
男子シングルスでバコがスペインのジョセップ・カニャデルを下すなど、決勝の顔合わせも欧州同士だった。米国のトップ選手が長距離を移動してまで125大会に出る動機は薄い。逆にいえば、価値の低い大会だからこそ、欧州の選手が自国近くで実戦を積み、勝ち星と経験を持ち帰る場になっている。裾野を回すには、こうした身の丈の大会が要る。
競技人口20万人・2.5倍成長、モリスを支える英国の土壌
モリスの2冠を個人の技量だけに帰すと、背景を見落とす。英国のピックルボールはこの数年で急速に厚みを増した。定期的にプレーする競技人口は英国で約20万人と推計され、2023年比でおよそ2.5倍とされる。統括団体Pickleball Englandの会員数も約1万5,000人まで増え、前年比で8割近く伸びた。旗艦大会のEnglish Openは、2026年に3,000人を超える選手登録を見込んでいる。
これだけ競技人口が厚ければ、選手は国内で数多くの真剣勝負を経験できる。国内で揉まれた選手が、欧州大陸の大会に出て勝つ。モリスの2冠は、その回路が機能し始めた一例として読める。日本の女子選手がいま持ちにくいのは、この「勝ちに行ける実戦の数」だ。
豪州ディコサブリェビッチの三冠と重なる、女子の複数冠
一人の女子選手が大会で複数の冠を持ち帰る光景は、欧州に限らない。豪州では15大会で9勝を挙げた選手が国内大会で三冠を独占した。上位が薄い市場ほど、抜けた一人が種目をまたいで勝ち切る。モリスのポルトロスも構造は近い。
これは強さの証明であると同時に、層の薄さの裏返しでもある。東南アジアではマレーシア・サバ州で女子160人規模の大会が地方から生まれ、参加者の底が広がり始めた。頂点の複数冠と、裾野の人数増。この2つが同時に進む地域が、次の競技レベルに上がっていく。欧州は今その入口にいる。
日本の女子競技に置き換えると見えてくること
日本は2026年4月に日本ピックルボール協会と日本連盟が統合し、新体制「PJ」が発足した。8月には八王子で最大24コートの体験フェスが開かれ、12月には東京で全国規模の選手権が控える。器は整いつつある。足りないのは、女子選手が国内で数多く真剣勝負を重ね、その先に欧州やアジアの大会で勝ちを狙う——という一本の道筋だ。
モリスの2冠が示すのは、才能より先に環境が育つという順番だ。会員が増え、大会が増え、そこで揉まれた選手が国外で勝つ。日本の女子競技も、まず国内の実戦数を積み上げる段階にある。ポルトロスの表彰台は、数年後の日本の縮図になりうる。
