PPAツアーが7月22〜26日、スロベニア西岸のポルトロージュで初の欧州大会(125グレード)を開いた。男子シングルスを制したのは、アメリカのスター選手ではなくハンガリーのバリント・バコ(22)だった。男子ダブルスは英国とドイツのペア、女子ダブルスと混合は英国勢が押さえ、表彰台の顔ぶれは欧州の選手でほぼ埋まった。大会そのものの規模や位置づけより、「欧州の大会を欧州の選手が勝った」という結果のほうが、日本のプレーヤーや普及関係者には示唆が大きい。
バコがスペインのカニャデルを退け、男子シングルスを制した
今回のポルトロージュ大会は、通常のPPA本戦の8分の1にあたる125ポイントを優勝者に配る入門的な位置づけの一戦だった。開催地は名称こそ「PPAイタリア」シリーズだが、実際の会場はイタリアではなくスロベニアの海辺で、アドリア海をはさんでベネチアの対岸にあたる。この地でバコは、スペインのジョゼップ・“ペップ”・カニャデルを退けて男子シングルスの頂点に立った。
同じ大会の概要はPPAツアーが欧州に初上陸した意味を扱った記事で整理した通りで、本稿はその繰り返しをしない。ここで注目したいのは、勝ったのが遠征してきた米国勢ではなく、地元・欧州の選手だったという一点だ。
ダブルスも混合も、勝ち上がったのは英・独・スペインの選手だった
シングルス以外の結果も、ほぼ欧州の選手で占められた。整理すると次のようになる。
| Event | Winner | 主な出身国 |
|---|---|---|
| Men's singles | バリント・バコ | ハンガリー |
| Women's singles | サブリナ・メンデス・ドミンゲス | スペイン系 |
| Men's Doubles | ルイ・ラヴィル/トム・プロツェク | 英国・ドイツ |
| Women’s doubles | クラウディア・カイメル・ロメロ/ケイティ・モリス | スペイン・英国 |
| Mixed doubles | ケイティ・モリス/ベン・カウストン | 英国 |
英国のケイティ・モリスは女子ダブルスと混合の2冠を運んだ。男子ダブルスを組んだドイツのトム・プロツェクは、大学まで米タルサでサッカー(NCAA1部)を続けたのち2024年11月にPPAデビューした選手で、2025年のPPAワールドではジャック・ソックを破ったこともある、ドイツ男子シングルス最上位の一人だ。米国から来た有名選手が上位を分け合う構図ではなく、欧州各国のパスポートを持つ選手が種目ごとに賞を分けた。
元テニスの22歳バコは、アメリカへ「出て行く」側でもある
バコはハンガリーの国内王者で、同国ランキングの筆頭に立つ。もともとテニス出身の22歳で、6月にオーストリアで開かれたBaseXオーストリアン・オープンの男子シングルスでも、アメリカのウィリアム・ソベックを決勝で下して優勝している。欧州の大会で勝ち続けるだけでなく、彼はアメリカのAPPツアーと契約し、米国の巡回大会にも足を運ぶ。つまり「輸入されるスター」の逆で、欧州で育った選手が海を渡って本場に打って出ている。
この構図は、テニスや卓球からの転向組が地元大会で頭角を現す流れと重なる。アジアでも、元卓球の10代選手がペナンの男子シングルス決勝まで勝ち上がった例があり、競技の土台を持つアスリートが各地のコートで頭角を現す流れは、欧州とアジアで似た形をとりつつある。
RTAツアーが敷いた「アールベルクへの道」が、欧州の選手層を厚くした
欧州でこれだけ地元選手が勝てるようになった背景には、大陸独自のツアーがある。RTAピックルボール・ツアーは各国の大会を束ねた巡回シリーズで、最終戦のアールベルク選手権を頂点に「アールベルクへの道」を通す設計だ。バコは2025年にRTAの8大会すべてに出場し、男子シングルスで金4・銀2と6度表彰台に上がった。2026年からは17〜24位にもポイントを配り、上位入賞だけでなくシーズンを通した安定性を評価する仕組みに変えた。獲得できるポイント上限も前年の6,000から8,500へ引き上げ、国際選手にも門戸を開いている。
優勝から敗退までを一続きの「稼げる遠征」に変え、クリニックやアマ大会を各戦に併設する。こうした足場が、才能を単発の勝ち逃げで終わらせず、翌シーズンの序列に積み上げていく。欧州の表彰台が地元名で埋まったのは、たまたまではなく、この数年の積み上げの結果と見たほうがいい。
宇都宮を海外勢が席巻する日本と、地元が勝った欧州の距離
日本のプレーヤーにとって、この結果は鏡になる。2026年7月に宇都宮で開かれたAPPアジア予選では、上位を海外勢が占め、日本選手は表彰台の一角を守るのがやっとだった。その現場は海外勢が席巻した宇都宮の記録に詳しい。国際大会を国内で開いても、勝つのは招かれた強豪という段階に、日本はまだいる。
一方でアジアも、自前の王者を持ち始めた。ベトナムでは地元の選手が地元大会で2冠を挙げた。欧州がRTAという回路で選手を積み上げたように、勝てる地元選手を生むには、単発の招待大会ではなく、負けても翌年に効く連続した舞台と、そこへ通うための費用・移動の設計が要る。日本連盟が国内ツアーを整え、船水雄太のように海外で戦う選手が増えている今、次に問われるのは「日本のコートから世界へ出ていく選手を、どの回路で押し上げるか」だ。ポルトロージュの表彰台は、その問いを先に解いた地域の姿を見せている。
