ピックルボールのレーティング基盤DUPRが、2026年9月1日から公認イベントの使用球をJOOLAの「HC-40」に一本化する。7月23日にJOOLAが発表した複数年契約によるもので、The Dink Minor League Pickleball(MiLP)、College World Championship、The Nationals、DUPR College Pickleball Tourに加え、第三者が運営するDUPR公認大会も対象に入る。レーティングの計算式ではなく、その数値が生まれる場の物理条件を世界で揃えにいく動きだ。練習で握るボールを9月までに替えるかどうかという、手元の判断にもつながる。
複数年契約で、DUPR公認イベントの球が固定される
JOOLAの発表によれば、HC-40は9月1日以降、DUPR公認の全イベントで指定球となる。範囲はMLPへの登竜門にあたるアマチュアのチーム戦MiLPから、大学・高校のトーナメント、そしてDUPRの公認を受けて第三者が運営する大会まで及ぶ。契約は複数年とされ、期間の長さは開示されていない。
DUPRは登録ユーザーが183カ国で200万人を超え、今年は350のDUPR公認イベントを支えるとしている。2.000から8.000の連続値で実力を表し、クラブの練習試合から国際大会まで、スコアを登録すれば数値が動く。「どこで打っても同じ土俵に乗る」という設計が、そもそもDUPRの売りだった。
JOOLAのRichard Lee社長兼CEOは、DUPRが実力測定の標準を築いてきたこと、そして精度はコート上の用具から始まることを発表文で述べている。DUPRのTito Machado CEOは、一貫性が競技の公正さに欠かせず、この提携が届けるのはその一貫性だと説明する。二人の言い方をそのまま受け取るなら、これは用具スポンサー契約というより、測定条件の統一を売った契約だ。
ボールの銘柄が変わると、コートで何が変わるのか
ピックルボールの球は、穴の数・硬さ・重量配分で球足がはっきり違う。硬い球はバウンドが伸びて打球音も高く、柔らかい球は減速しやすくラリーが続きやすい。3rdショットドロップの落ち際、ディンクの弾み方、アウト判断の距離感——銘柄を替えた初日から体感が変わる部分は多い。同じ選手が同じ相手と打っても、球が違えば勝敗の振れ幅は生まれる。レーティングを預かる側が球を指定したがる理由は、そこにある。
HC-40は直径74mm・重量26.2g・穴40個で、USA Pickleballの承認を受けている。JOOLAは穴の配置を等間隔に置き直した設計だとし、飛行の安定と素直なバウンドを掲げる。米国のレビューサイトpickletipは、HC-40をDuraより柔らかくFranklin X-40に近いペースの中速球と評し、形状保持とひび割れ耐性を評価している。プロの最上位が好む硬球ではなく、リーグやクラブで数を打つ層に合わせた性格という位置づけになる。
用具の規格が競技の土台に組み込まれる動きは、ボールだけの話ではない。パドル側では回転数の上限規制が10月に控え、アジアの製造現場が対応に追われている(スピンに天井、10月の回転数2100規制がアジアのパドル工場を揺らす)。今回のボール統一は、その流れの同じ延長線上にある。
主要ツアーの公式球は、いま三つに割れている
「公式球」は一つではない。団体ごとに契約先が違い、選手は大会によって球を持ち替えている。各団体が公表している採用状況を並べる。
| 団体・ツアー | 公式球 | メーカー |
|---|---|---|
| DUPR公認イベント(2026年9月1日〜) | HC-40 | JOOLA |
| PPAツアー/MLP | VPRO FLIGHT | Vulcan |
| The APP Tour | X-40 | Franklin |
| USA Pickleball公認大会・US Open | X-40 | Franklin |
| PPAアジア(2025年〜) | HC-40 | JOOLA |
| 全米大学ピックルボール協会(NCPA)ツアー | HC-40 | JOOLA |
表の読みどころは、DUPRだけが「興行」ではなく「レーティング」を軸に球を指定した点にある。PPAもAPPも、決めているのは自分たちが主催する試合の球だ。対してDUPRの公認網は、他団体や地域の運営者が開く大会にまたがっている。HC-40は一つの興行の中に入るのではなく、複数の主催者の大会に横串で刺さっていく。用具ブランドが取りに行く枠として、これまでになかった形の陣地である。
日本ではすでに、HC-40が春から転がっていた
日本の読者にとって幸運なのは、この球が国内でまったくの初物ではないことだ。日本語メディア「ピックルボールオンライン」は、UTR Pickleball Japan Tourの2026年2月15日・3月22日・4月18日・5月16日の各大会で、HC-40が使用球として案内されたと伝えている。同メディアは2026年7月に東京で開かれたPPAアジアの大会でもHC-40が使われるとしており、これはJOOLAが2025年からPPAアジアの公式用具パートナーとしてボール・ネット・フロアを供給しているという同社の発表と整合する。
つまり国内の競技志向層は、春から夏にかけての主要大会ですでにこの球を打っている。世界最高峰のツアーが立川に来た夏(The world's premier tour opens in Tachikawa — reading the event design of the Tokyo Open)を経て、9月からDUPR公認の枠でも同じ球になる。米国では「9月から球が変わる」ニュースでも、日本では「先に触っていた球が世界標準になった」という順番になった。用具の供給と大会運営が海外主導で進む市場では、この順番の逆転はときどき起きる。
プレーヤーと運営者が、9月までに決めること
プレーヤー側の判断は単純だ。DUPRに数値を残す前提で大会に出るなら、練習球をHC-40に寄せる価値がある。中速で柔らかめの球は、速い硬球に慣れた体には最初もどかしく感じる。ドロップが浮く、ディンクが跳ねない、スピードアップが決まりきらない——この違和感を大会当日に初めて食らうのは損だ。JOOLAの日本公式ストアで3個入が1,870円(税込)なので、1球あたりおよそ620円。2.000から8.000のスケールで小数点以下の上下を気にして大会に出る層にとって、この出費は軽い部類に入る。
運営者側はもう少し重い。DUPR公認で大会を開くクラブや施設は、9月以降そのつど指定球を仕入れる必要が出る。20面規模のイベントなら消耗も数量も無視できず、供給の安定と国内在庫が運営コストに直結する。同時に、これは日本の運営者にとって交渉材料でもある。使用球が世界共通になれば、海外選手を呼ぶときの「うちの球は違います」という説明が消える。ハノイの1勝がロサンゼルスの1勝と同じ重さになるという議論(ハノイの1勝がLAと同じ価値に、DUPRが敷くベトナムの世界標準)は、球という物理条件が揃うことで一段説得力を増す。
もう一つ、コーチやスクール事業者に効く点がある。レッスンで使う球を公認球に合わせておくと、生徒が大会に出たときの落差が小さい。テニススクールがピックルボールを併設するケースが国内で増えている以上、レンタル球の銘柄をどこに置くかは地味だが効いてくる選択になる。
用具市場に回る波及と、置いていかれる側
この契約でJOOLAが手にしたのは、露出枠ではなく反復購入の導線だ。ボールは消耗品で、割れれば買い替える。公認大会で使われる球は練習でも選ばれ、練習で選ばれた球はクラブの箱買いにつながる。パドルのように数年に一度しか動かない商材と違い、ボールは年間を通じて回転する。DUPRの公認イベントが今年350、登録者が200万人という規模を前提にすれば、そこに刺さる導線の価値は小さくない。
逆風を受けるのはFranklinとVulcanだけではない。国内で流通する非公認・低価格帯の練習球も、公認球との差が可視化される。ただし全面的な置き換えにはならないはずだ。屋内用と屋外用で穴数も硬さも違う球が併存しており、DUPRに数値を残さない普及イベントで公認球を揃える必然性はない。自治体の体験会や初心者クリニックでは、これまでどおり扱いやすい球が選ばれる。分かれるのは、公認の枠に入るかどうかという一点だ。
日本のメーカーにとっては、宿題が一つ増えた形になる。パドルではアジア発ブランドが米国認定を取り始めているが、ボールで公認網に入るには団体との契約が要る。用具の供給側に回るには、製品性能だけでなく大会運営との関係づくりが同じだけ必要になってきた。
HC-40の規格と、日本での入手経路
| Item | Details |
|---|---|
| Application start | 2026年9月1日 |
| 対象イベント | DUPR公認イベント全般(The Dink MiLP、College World Championship、The Nationals、DUPR College Pickleball Tour、大学・高校大会、第三者運営のDUPR公認大会) |
| Specification | 直径74mm/重量26.2g/穴40個 |
| Certification | USA Pickleball承認球 |
| 契約形態 | 複数年契約(期間は非公表) |
| Availability in Japan | JOOLA日本公式オンラインストア(joola.co.jp)、ピックルボール専門店 |
| 参考価格 | 3個入 1,870円(税込・JOOLA日本公式ストア) |
| 国内での使用実績 | UTR Pickleball Japan Tour 2026年2〜5月の各大会、2026年7月のPPAアジア東京大会 |
JOOLAはこの球を屋内・屋外の双方で使う想定に置いており、インドア中心のPPAアジアでも採用されている。それでも普段の練習球と跳ね方が同じとは限らないので、差は事前に体で測っておきたい。DUPR公認の大会に出る予定があるなら、エントリー要項で使用球の記載を確認しておくのが確実だ。9月1日をまたぐ大会では、告知が旧表記のまま残っている可能性がある。
Summary
DUPRが球を一つに決めたことは、レーティングという数字を「どこで取っても同じ」に近づける工事の一環だ。派手な話ではないが、レートで組み分けをする大会が国内でも増えている以上、影響は末端まで届く。
今日できることは三つある。DUPRに数値を残す大会に出る予定があるなら、まず9月以降のエントリー要項で使用球の表記を確認する。次に、練習球を3球でいいのでHC-40に替えて、ドロップとディンクの落差を体で測っておく。そして運営やスクールに関わっているなら、秋以降のレンタル球・消耗品の仕入れ計画に指定球を織り込む。球が変わる日は決まっている。動くのは今のうちだ。
Source:JOOLA/PR Newswire/JOOLA HC-40/pickletip/ピックルボールオンライン/JOOLA日本公式ストア/PPA Tour Asia/The Dink Pickleball/Franklin Sports
