ピックルボールのパドルは、いま完全に「カーボン競争」の道具になっている。かつて主流だったグラスファイバーの打面は、上位モデルではカーボンファイバーが主流になり、上級者ほど高価なカーボンモデルへ乗り換える傾向が強い。ただし入門〜中価格帯ではグラスファイバー製も依然として現役で、素材がすべて置き換わったわけではない。そこへ、飛行機の製造現場で出た端材を再生した炭素繊維でパドルを作るという異色の一手が国内から出てきた。三谷産業グループのミライ化成が、東大阪発ブランド「TOCO」を展開するビーズ株式会社と組んで手がけた次世代パドルで、2026年7月8〜10日の「SPORTEC2026」で試作サンプルを初公開し、来場者に試打してもらう。用具メーカーではない化学系グループがなぜ競技の道具に踏み込むのか。素材・サステナビリティ・国産という三つの角度から掘り下げる。
航空機の炭素繊維がパドルの打面に生まれ変わる
今回のパドルの核心は打面の素材にある。原料は、東レの高強度炭素繊維「T800」を含む航空機部品用CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の、製造工程で発生した端材だ。ミライ化成がこの端材から炭素繊維を回収・再資源化し、不織布に加工して打面へ仕立てる。航空機グレードの繊維を使うことで、軽さと高い強度を両立し、ボールを一度受けて弾き返す打球感を狙うという。
各社の役割分担も明確だ。石川県金沢市の三谷産業を親会社に持つミライ化成(長野県千曲市)が再資源化と成形を担い、ビーズ(TOCO)が製品設計とブランド戦略を受け持つ。そこへ素材元である東レがT800再資源化の知見と設計・評価を支援し、帝人が樹脂の選定と含浸加工による耐久性確保に加わった。炭素繊維の二大メーカーがそろって一枚のパドルの後ろに付いている構図は、国内では珍しい。
「捨てる炭素繊維」という積年の課題
この試作は思いつきの環境PRではない。CFRPは軽くて強い半面、樹脂と繊維が固く結びついているためリサイクルが難しく、航空機や自動車での採用が増えるほど廃棄と端材の処理が重い課題になってきた。国内外でリサイクル研究そのものがまだ少ない領域だ。
ミライ化成は三沢の研究拠点で、薬品によって樹脂を溶かす溶媒法を使い、炭素繊維の長さや特性をなるべく保ったまま再生する技術を磨いてきた。2023年度にはこの分野でNEDOのプログラムにも採択されている。三谷産業グループは端材の回収から再資源化、成形品事業までをつなぐサプライチェーン構築を掲げており、パドルはその再生炭素繊維成形品(rCFRP)を消費者に見せる格好のショーケースになる。
国産パドルの現在地、TOCOのラインアップと今回の位置づけ
組んだ相手のビーズは1997年設立の東大阪の企業で、2025年11月にピックルボール専用ブランドTOCOのパドル3機種を発売して市場に参入したばかりだ。既存モデルと今回の試作を並べると、「国産カーボンパドル」の到達点が見えてくる。
| Model | 打面素材 | 参考価格 | Position |
|---|---|---|---|
| EMBER(TPR-101) | Fiberglass | 7,800円 | Entry Model |
| EVOL(TPR-501) | 東レT700 RAWカーボン | 24,800円 | コントロール重視・16mm厚 |
| FORZA | T700 Carbon | — | パワー・攻撃志向 |
| 試作パドル(SPORTEC2026) | 再資源化T800炭素繊維不織布 | 未定 | サステナ実証・初公開 |
市販モデルが未使用(バージン)のT700カーボンを使っているのに対し、今回の試作は本来なら捨てられる航空機由来のT800を再生して打面に載せる。本来なら上位グレードにあたる繊維を「再生」という形で打面に載せる逆転の発想で、国内メーカーが素材面で独自色を出せるかを問う一手だ。ただし再生された不織布状のT800が、バージン材のT700カーボンと同じ打球性能を出せるかは別問題で、製品化と実打検証を待つ必要がある。用具面での国産勢の動きは、ミズノがパドル5モデルを投入した本格参戦と合わせて見ると流れがつかみやすい。
公開の舞台、SPORTEC2026という場の意味
初公開の場に選ばれたSPORTEC2026は、東京ビッグサイト東展示棟で開かれる日本最大級のスポーツ・健康産業展だ。試打という体験を通じて、素材の売り込みではなく「打った感触」で価値を伝えようとしている点に、この取り組みの本気度が出ている。
- 会期・会場——2026年7月8日(水)〜10日(金)、東京ビッグサイト東展示棟。今回で18回目を数える。
- 来場規模——過去にはスポーツ業界関係者42,380名が全国から来場した実績を持つ。行政やスポーツ団体の担当者も商談に訪れる。
- 展示内容——ミライ化成は再資源化炭素繊維の技術とパドル試作を出展し、来場者向けに試打体験を提供する。
消費者向けの小売イベントではなく、業界のバイヤーや自治体が集まるBtoBの場で問うたことには意味がある。試打の反応がそのまま、rCFRPをスポーツ用途へ広げられるかどうかの一次データになる。
国内のプレーヤーと運営者は、ここから何を読むか
この試作が国内の競技関係者に投げかける論点は三つある。
First,パドルの環境負荷という新しい選択軸だ。カーボンパドルは高性能だが、繊維の製造もパドルの廃棄も環境負荷が小さくない。買い替えサイクルの速いこの競技で、再生素材のパドルという選択肢が現実味を帯びれば、用具を選ぶ基準に「どこから来た素材か」が加わる。施設やスクールが体験用に大量のパドルを抱える時代には、まとめて更新する側の運営者にとっても無視できないテーマになる。
Second,素材メーカー発のものづくりという勝ち筋だ。海外の有力ブランドが打面の樹脂やコアの成形で競う中、日本には東レ・帝人という炭素繊維の本家がいる。その端材を再生して独自の不織布に仕立て、専用ブランドが道具に落とし込む分業は、用具メーカー単独では描けない。国産勢が価格と品質だけでなく、素材の物語で勝負できる余地を示した点は大きい。
Third,アジア発ブランドの世界挑戦との接続だ。すでにアジア発のパドルが米国の公式認定を取る動きが始まっている。日本の再生カーボンパドルがもし競技レベルの性能と各国の認定をクリアすれば、「環境配慮×高性能」という欧米ブランドが手薄な切り口で、輸出商材になり得る。国内の試打で終わらせず、認定と量産までたどり着けるかがカギを握る。
基本情報まとめ
| Item | Details |
|---|---|
| 開発体制 | ミライ化成(再資源化・成形)/ビーズ・TOCO(設計・ブランド)/東レ・帝人(技術支援) |
| 親会社 | 三谷産業(石川県金沢市) |
| 打面素材 | 東レT800を含む航空機CFRP端材の再資源化炭素繊維不織布 |
| 公開イベント | SPORTEC2026(2026年7月8〜10日/東京ビッグサイト東展示棟) |
| 提供内容 | 試作サンプルの初公開+来場者向け試打体験 |
| 製品化・価格 | 現時点で未公表 |
まとめ——「再生カーボン」が競技の言葉になるか
捨てられるはずだった航空機の炭素繊維が、コートで球を弾く道具に変わる。まだ試作の段階で、性能も価格も製品化時期も明かされていない以上、過度な期待は禁物だ。それでも、素材の本家と専用ブランドが組んで「再生カーボンのパドル」を業界の場で試打にかけた事実は、国産用具の議論を一段先へ進める。読者が次に確かめるべきは三点。SPORTEC2026での試打の評判、市販化の有無と価格帯、そして各国の競技用パドル認定を取りにいくのかどうかだ。まずは7月8日からの展示会で、この一枚がどんな打球感を返すのかに注目したい。
