米シアトル市が、市内のピックルボールコートを現在の92面から56面へと36面削減する案を打ち出し、住民の反発が広がっている。地元のシアトル・メトロ・ピックルボール協会(SMPA)が集めた反対署名は2,000筆を超えた。早ければ2026年6月に実施される可能性がある。
92面から56面へ、テニスと「分離」する市の方針
市が削減対象とするのは、コロナ禍にテニスコートへ後付けでラインを引いて共用化された「兼用コート」だ。市は「テニスとピックルボールの需要をより明確に切り分け、両競技を別々の施設に振り分ける」と説明する。一方でテニスコート107面はほぼそのまま維持される方針で、ピックルボール側だけが大幅に削られる構図となっている。対象は市内7地区にまたがる。
パンデミックが生んだ「共用」の経緯
シアトルでピックルボールが急拡大したのはコロナ禍だった。屋外で密を避けて楽しめる競技として、既存テニスコートにラインを追加する形で受け皿が整えられた。だが恒久的な専用コートの整備が追いつかないまま利用者が膨らみ、テニス側との時間調整の衝突が常態化。今回の市の案は、その「暫定共用」をいったん解消し、両競技を物理的に分ける狙いがある。
狙い撃ちされる西シアトル「ハイポイント」
削減対象として名指しされているのが、西シアトルの利用密度が高い「ハイポイント」だ。地域の主要拠点が失われれば、近隣のプレーヤーが行き場を失う懸念が強い。
コート数の変化
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現在のピックルボールコート | 92面 |
| 削減後 | 56面 |
| 撤去される面数 | 36面(兼用コート) |
| 維持されるテニスコート | 107面 |
| 影響を受ける地区 | 7地区 |
| 実施時期 | 早ければ2026年6月 |
住民運動の中身——2,000筆の署名と協会の要求
SMPAは反対署名を2,000筆超集め、市に対し3点を要求している。第一に、新たな専用コートが完成するまで36面の兼用コートでの利用を維持すること。第二に、利用を減らすのではなく、両競技のアクセスを拡大する代替案を検討すること。第三に、計画が地域の公平性とコミュニティ形成を支えるものになること。協会のトニー・ピサ氏が窓口となり、プレーヤーのエイミー・ネルソン氏らも声を上げている。「専用コートが建つ前に既存のアクセスを奪うのは順序が逆だ」という主張が運動の核にある。
日本の読者・運営者への示唆
テニスコートを共用しながらピックルボールの受け皿を広げる手法は、日本でも各地で見られる。シアトルの事例は、共用が「暫定」のまま定着すると、後から専用化・分離を巡る摩擦が噴き出すことを示す。大阪・堺で宿泊施設が専用コートを整備するような、最初から専用空間を確保する設計の重要性が浮かび上がる。
米国で続くコート争奪戦の文脈
テニスとの施設争奪は米国全土で起きている。コロラド州ボルダーで専用12面の着工を巡りテニス派との対立が表面化するなど、自治体は両競技の調整に苦慮している。シアトルが特徴的なのは、増設ではなく「削減」を軸にした案を出した点だ。これは急増期を過ぎた都市で施設配分が見直し局面に入りつつあることを示す。
「ブーム終焉」論との違い
コート増加率の鈍化を「ブームの終わり」と捉える米メディアの分析もある。だがシアトルの動きは需要の消失ではない。むしろ利用が過熱した結果として共用の限界が露呈し、専用化を求める住民の圧力が削減案と正面衝突している。数字上の「減少」と現場の「過密」が同居する点が、この街固有の構図だ。
関係者・組織
| 立場 | 主体 |
|---|---|
| 削減を提案 | シアトル市公園局(Seattle Parks) |
| 反対運動の主体 | シアトル・メトロ・ピックルボール協会(SMPA) |
| 協会の窓口 | トニー・ピサ氏 |
| 署名数 | 2,000筆超 |
まとめ
シアトルのコート撤去案は、ブームの反動ではなく、共用という暫定解の限界が招いた衝突だ。専用コートの整備が利用拡大に追いつかないまま分離へ舵を切れば、最も活発な層が締め出される。住民2,000人の署名は、施設計画の順序を誤れば反発が組織化するという、各地の運営者への警告でもある。