加森観光が2026年8月3日に出した発表で、同社のピックルボール事業の全体像がはっきりした。北海道のルスツリゾートに8面、静岡県東伊豆町稲取の伊豆リゾートヴィラに20面。この2拠点で計28面を運営し、グループ全体として国内最大規模になるという内容だ。さらに2027年6月にはルスツへ16面を増設し、同拠点だけで24面、グループ合計で44面まで広げる計画も同時に示された。1つの大型コートの話ではなく、離れた土地を束ねて運営網をつくる動きとして読むと、この発表の意味が変わってくる。
北海道と静岡の2拠点で28面、2027年6月にルスツが24面へ
数字を整理しておく。ルスツリゾートの屋外専用8面は2025年7月に開業した。伊豆リゾートヴィラの20面は2026年7月にオープンし、単一施設としては国内最大規模とされる。この20面が加わったことで、加森観光のグループ全体が28面に達した。
増設のポイントは、伊豆ではなくルスツ側に置かれている。2027年6月にルスツへ16面を新設すると、既存の8面と合わせて同拠点が24面になる。伊豆の20面と足して44面という計画だ。北海道側を厚くする判断で、雪のない季節にコートを稼働させたいリゾートの事情がうかがえる。両施設とも一般財団法人ピックルボール日本連盟(PJ)の公認コートで、ルスツは競技基準に沿った本格コートに観覧席を備える。
| 拠点 | 所在地 | 面数 | 開業・計画 |
|---|---|---|---|
| ルスツリゾート | 北海道 | 8面 → 24面 | 2025年7月開業/2027年6月に16面増設 |
| 伊豆リゾートヴィラ | 静岡県東伊豆町稲取 | 20面 | 2026年7月開業 |
| グループ合計 | ― | 28面 → 44面 | 2027年6月時点の予定 |
都心の1コートが1時間9,000円でも、20面を一気に敷けない理由
面数をまとめて確保できるかどうかは、土地のコストで決まる。東京・南青山では、インドアゴルフ施設に併設する形でPickle9が1時間9,000円で都心のコートを成立させている。ゴルフ側の収益で一等地の賃料を支える設計で、裏を返せば、ピックルボール単独で都心に何面も並べるのは難しいということだ。市街地では1面でも埋めるのに工夫がいる。
リゾートの前提はこれと逆になる。ルスツも稲取も、宿泊とレジャーのための広い敷地を最初から抱えている。オフシーズンや空き地の活用先としてコートを敷けば、20面や16面といったまとまった数を一度に用意できる。都心が1面ずつ積み上げる世界だとすれば、リゾートはブロック単位で面を置ける。この差が、加森観光が短期間で28面に届いた背景にある。
競技人口33万人・全国280施設に対して、44面が担う受け皿
市場の伸びは速い。株式会社ピックルボールワンが2026年3月に公表した推計では、日本の競技人口は約33万人。前年の約4.5万人から約7倍に増えた計算だ。同社は潜在プレイヤーを約1,189万人と見積もり、約36倍の成長余地があるとしている。施設側も、ピックルボールナビの独自調査で2026年7月時点の全国施設数が約280、36都道府県に広がった。
問題は、面数がばらけていることだ。1〜4面規模の施設が各地に点在しても、大会や合宿は開けない。ダブルスの公式戦を同時進行させるには、まとまった面数を1カ所で押さえる必要がある。加森観光の伊豆20面・ルスツ24面という規模は、この「同時に多面を回す」需要に応える受け皿になる。人が増えても、大人数を一度にさばける場所は限られている。
ナイトピックルボールとRUSUTSU Pickleball Open、宿泊と抱き合わせる集客
リゾートがコートを持つ強みは、施設単体で完結しないところにある。ルスツでは「RUSUTSU Pickleball Open」を開き、照明を使った「ナイトピックルボール」も走らせている。プレーだけを売るのではなく、宿泊・食事・移動を丸ごとパッケージにして、遠方からの利用者を泊まりがけで呼び込む発想だ。
この形なら、地元の競技人口が薄い土地でもコートが回る。稲取や留寿都といったエリアは、周辺住民だけでは20面を毎日埋めきれない。だからこそ大会や合宿という「移動を伴う需要」を掛け合わせ、観光の集客力でコートの稼働を底上げする。加森観光が北海道を中心にリゾートと宿泊施設を長く運営してきた蓄積が、ここで効いてくる。
拠点分散型の運営網が、日本のプレーヤーに広げる選択肢
44面という総数以上に効くのが、北海道と静岡という2つの極を1社が持つ構図だ。夏は涼しいルスツ、通年で動かしやすい伊豆と、季節や気候で使い分けができる。同じ運営者が離れた拠点を回せば、大会日程や合宿プランを拠点間でつなぐ設計もしやすくなる。静岡側の動きは県内でプレーできる施設の全体像とあわせて見ると位置づけがつかみやすい。
プレーヤーの側からすると、まとまった面数の会場が固定できることで、遠征や合宿の計画が立てやすくなる。行き先を探すところから始める人は、全国のコートの探し方を押さえておくと、こうした大型拠点にもたどり着きやすい。加森観光の28面から44面への拡大は、コート不足が言われ続けた日本で、観光インフラを転用して多面を確保するという道筋を1つ示した。次の焦点は、2027年6月にルスツの24面が予定どおり立ち上がるかどうかだ。

