東急リゾーツ&ステイが運営する東急リゾートタウン浜名湖が、2026年7月10日、浜松市教育委員会にピックルボール用具を寄贈した。内訳はパドル352本、専用ボール704個、ネット10張り。届け先は浜松市立小学校96校のうち希望を出した44校で、市内の公立小のおよそ半数に用具が渡る。同社は6月に千葉県勝浦市でも公立小全2校へ同じ取り組みを実施しており、リゾート運営会社が地元の公立小へ用具を配る動きは二拠点目に入った。学校が日本のピックルボールの入口になれるのか、その条件が見えてくる事例である。
352本のパドルと704個のボールが、44校に分かれて届いた
プレスリリースによれば、寄贈品は「空・虹・星」をテーマにしたオリジナルデザインのパドル352本、専用ボール704個、ネット10張り。浜松市教育委員会を通じ、市内の公立小学校96校のうち希望した44校に配布された。パドルの意匠には「無限の可能性」「個性の尊重」「将来の目標」という意味づけがされていると同社は説明している。
単純に割ると1校あたりパドル8本、ボール16個。ダブルス2面ぶんの人数がようやく同時に握れる本数で、学級全員が一斉に打てる規模ではない。用具の量から逆算すると、これは体育の単元をまるごと置き換える寄贈ではなく、休み時間や体育の一部、クラブ活動で回すことを想定した配分になっている。
同社は背景として、スマートフォンやゲーム機の普及に加え、記録的な猛暑で屋外活動が制限され、発育期の子どもが体を動かす機会が減っていることを挙げた。浜松は2020年8月17日に41.1℃を観測し、当時の国内最高記録に並んだ土地でもある。屋外が使えない前提から出発した用具選びという点で、動機ははっきりしている。
勝浦の2校から浜松の44校へ、二拠点目で桁が変わった
この取り組みの一回目は千葉だった。東急リゾートタウン勝浦が2026年6月19日、勝浦市の公立小学校2校(勝浦小学校、上野小学校)へパドルと専用ボールのセットを寄贈し、7月6日に公表している(東急リゾートが勝浦の全小学校にパドル、猛暑世代の運動をどう作るか)。小学校が2校の勝浦では全校配布が成立したが、浜松は政令指定都市で市立小が96校ある。全校一律ではなく希望校を募る方式に切り替えた点に、規模の壁への実務的な答えが出ている。
両拠点に共通するのは、リゾート側が屋外ピックルボールコートを2面持っていることだ。勝浦東急サニーパークにも東急リゾートタウン浜名湖にも2面があり、用具の寄贈と自社コートが対になっている。用具だけ配れば打つ場所がなく、コートだけ作れば人が来ない。この二つを同じ会社が同じ商圏で握っているところに、施策としての設計がある。
希望した44校は全体の46%、手を挙げなかった学校のほうが多い
| 項目 | 浜松(2026年7月10日) | 勝浦(2026年6月19日) |
|---|---|---|
| 寄贈先 | 浜松市立小学校 44校 | 勝浦市の公立小学校 2校(全校) |
| 市内の公立小総数 | 96校(浜松市の小学校一覧より) | 2校(同社発表) |
| カバー率 | 約46% | 100% |
| パドル | 352本(1校平均8本) | 本数非公表 |
| 専用ボール | 704個(1校平均16個) | 個数非公表 |
| ネット | 10張り | 記載なし |
| 公表日 | 2026年7月23日 | 2026年7月6日 |
この表で目を引くのは、44という数字が96の半分に届いていないことと、ネットが10張りしかないことの二点だ。希望制で募って46%が手を挙げた。無償で用具が届く話に半数以上が乗らなかったのだから、学校側の判断は「用具が足りない」ではなく別のところにある。知らない競技を誰が教えるのか、体育館の割り当て時間をどう捻出するのかという運用の問題が、無償という条件を上回ったと読むほうが自然だ。
ネット10張りも同じ話につながる。44校に対して10張りでは、4〜5校に1張りの計算になる。残りの学校は自前の設備で始めることになり、そこで体育館にあるバドミントンの支柱とネットが選択肢に上がってくる。
「まずは知っていただくことから」、普及側の言葉は3年前と変わらない
東急側の温度感は、社のサステナビリティ記事に残る現場の言葉から読み取れる。東急リゾートタウン浜名湖内の浜名湖東急サニーパークで2023年10月に開いた体験会について、佐藤総支配人は「ピックルボールそのものを知らない方ばかりだと思うので、まずは知っていただくことから行っていきたい」と述べている。このときの参加者は近隣企業の社員とテニススクールのコーチ、子どもを合わせて10名ほど。3年弱で、届ける相手が10人から44校へ広がった。
事業者としての説明は一貫している。東急リゾーツ&ステイは今回の寄贈を、屋内で安全に楽しめる競技として体育の授業やレクリエーションに取り入れられる環境づくりの支援と位置づけた。用具を渡して終わりではなく、授業で使われる前提の言い方をしている。
行政側の関心は、競技そのものより体育館の環境に向いている。文部科学省は公立学校の体育館等への空調整備を進めるため空調設備整備臨時特例交付金を設け、対象工事費400万円から7,000万円の2分の1を2033年度まで補助する枠組みを用意した。競技団体では、ピックルボール日本連盟が指導者制度を敷き、入門のディフューザー講習からコーディネーター、その先のスタートコーチ・コーチへと段階的に上げていく形で指導できる人を増やそうとしている。学校に配られた352本のパドルは、この三者の動きが重なる場所に置かれた。
屋内に逃がしても、冷房のある体育館は22.7%しかない
ここが今回の寄贈で最も慎重に見るべきところだ。文部科学省が2025年6月に公表した調査(2025年5月1日現在)では、公立小中学校の体育館等の空調設置率は22.7%、小学校に限れば22.0%だった。2024年9月1日時点の18.9%からは伸びているが、8割近い体育館に冷房がない状態は変わっていない。
一方、環境省と日本スポーツ協会が示す熱中症予防運動指針では、暑さ指数(WBGT)31以上は「運動は原則中止」で、特に子どもの場合は中止すべきとされる。冷房のない体育館は風が通らず、真夏の日中に屋外を下回る保証はない。屋内競技だから猛暑に強い、という理解は半分しか当たらない。
それでも学校でピックルボールを配る意味は残る。効くのは真夏の日中ではなく、梅雨の雨天日、9月前半の残暑、冬場の短い休み時間といった「校庭が使えないが体育館は使える」時間帯だ。屋外コートが埋まる時間と学校の体育館が空く時間はきれいにずれており、ここに用具が置かれていること自体が競技の接触回数を増やす。自治体が体育館を使って入門講座を回す形はすでにあり、埼玉県三郷市が全4回の初心者教室を組んだ例がある(三郷市が体育館でピックル入門を全4回、普及の要は入口だ)。学校配布は、その入口を子ども側から作りにいく動きになる。
「工事は不要」と66cmの差、始める前に測るべき数字
寄贈元の東急リゾーツ&ステイは、浜松・勝浦のいずれのリリースでも「バドミントンのポールやネットをそのまま活用でき、体育館への導入に特別な工事は不要」と説明している。寸法についてはそのとおりで、ピックルボールのコートは13.4m×6.1m(44ft×20ft)、バドミントンのダブルスコートと同じだ。ライン取りの手間はほぼない。
ただし高さは別で、ここは実測が要る。ピックルボール日本連盟が示すネット高は中央86.3cm・両端91.4cm。バドミントンは中央1.524m・支柱1.55mだから、中央同士で約66cmの開きがある。工事が不要であることと、いまの高さのまま打てることは別の話で、ポールを流用するにしてもネットは66cm下げて張り直す前提になる。
ネットを下げた位置で固定できるか、あるいは簡易ネットを追加調達できるか。この一点が、寄贈されたパドルが倉庫に眠るか週に一度出てくるかを分ける。10張りのネットが配られた学校とそうでない学校で、半年後の使用頻度に差が出る可能性は高い。教育委員会が追跡するなら、配布校数ではなく「ネットを常設できた学校数」を見たほうが実態に近い。
もう一つは教える人の問題だ。ピックルボールは学習指導要領のネット型ゲームに素直に収まる競技で、ソフトバレーボールの枠組みで扱える。ただし打ち方もサーブの規則も教員には未知で、最初の1時間を誰が設計するかで印象が決まる。競技団体は体験会の開催と指導者養成を進めており、用具が入った44校が次に取りにいくべきはネットと指導の2点になる。
リゾートが小学校に配る理由は、集客の外側にもある
送客の観点だけで見ると、この寄贈は割に合いにくい。東急リゾートタウン浜名湖の屋外コートは2面、営業は9:00〜18:00(通年・日没まで)、料金は1面1時間2,200円(税込)。44校の子どもが家族で押しかけても2面では受け止めきれず、逆に来なければ費用は回収されない。短期の集客施策として設計されたとは考えにくい。
読み方を変えると、この動きは地域スポーツの担い手側に自社を置く投資に近い。部活動の地域移行で学校外の受け皿が求められ、リゾート施設は平日の稼働に余裕がある。市内の小学校の半数に自社デザインのパドルが置かれた状態は、数年後に地域クラブや体験会の話が動くときの前提になる。競技人口の側でも余白は大きく、民間調査では国内の競技人口を約33万人、関心層を1,189万人と推計した(テニス経験者の72.5%が関心、33万人市場が持つ36倍の余白)。公式団体の全国推計ではない民間1社の数字だが、母数の桁が違うことは示している。
学校・施設・プレーヤーが押さえておく実務情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| コート寸法 | 13.4m×6.1m(44ft×20ft/バドミントンのダブルスコートと同じ) |
| ネット高さ | 中央86.3cm(34インチ)/両端91.4cm(36インチ) |
| バドミントン設備の流用 | 寄贈元は「ポールやネットをそのまま活用でき工事は不要」と説明。ただし支柱1.55m・中央1.524mで中央同士は約66cm高く、ネットは下げて張る必要がある |
| 体験できる施設 | 東急リゾートタウン浜名湖(静岡県浜松市浜名区)/屋外専用コート2面 |
| 営業時間 | 9:00〜18:00(通年・日没まで) |
| 利用料金 | 1面1時間2,200円(税込) |
| 問い合わせ | 浜名湖東急サニーパーク 053-526-1515 |
| 指導者の確保 | ピックルボール日本連盟の指導者講習(ディフューザー→コーディネーター→スタートコーチ/コーチ) |
| 体育館空調の財源 | 空調設備整備臨時特例交付金(対象工事費400万〜7,000万円の2分の1、2033年度まで) |
| 暑さ指数の目安 | WBGT31以上は運動を原則中止、子どもは中止すべき(熱中症予防運動指針) |
まとめ:見るべきは44という数字ではなく、来年の夏に残る校数
用具が届いた時点で終わる話ではない。動かすべきことは立場ごとに違う。
- 学校関係者は、バドミントンのポールでネットを中央86.3cmまで下げて張れるかを先に確認する。ここが通れば初回授業の設計に進める
- 希望を出さなかった52校の担当者は、教育委員会に次の配布枠と体験会の有無を確認しておく
- 施設運営者は、用具寄贈を単体で企画しない。自社コートと体験会がセットで初めて回路になる
- プレーヤーは、浜名湖の2面が1面1時間2,200円で通年開いていることを押さえておく
この寄贈が効いたかどうかは、2027年の夏に44校のうち何校が用具を出し続けているかで判定できる。パドルの本数は初期条件にすぎず、ネットと教える人が揃った学校だけが残る。浜松の44校は、日本のピックルボールが学校という入口を使えるのかを測る、規模の大きな実地検証になった。
参照元:PR TIMES(東急リゾーツ&ステイ・浜松)/PR TIMES(東急リゾーツ&ステイ・勝浦)/浜松市 小学校一覧/文部科学省/ReseEd/環境省 熱中症予防情報サイト/東急リゾーツ&ステイ サステナビリティアクション/ピックルボールワン/PR TIMES(ピックルボールワン市場調査)/tenki.jp/ピックルボール日本連盟

