埼玉県比企郡ときがわ町に、夕方16時半から22時半まで貸し切りで打てて、翌朝7時に再開できるピックルボールの場所が生まれた。手がけるのはサービス業のEFFECT-K(代表・松尾和彦、2026年3月設立)で、正規コート1面とレッスンコート1面を宿泊とセットで丸ごと開放する夏季限定プラン(4〜8人が最適、最大10人)を2026年7月27日に発表している。日中は熱中症警戒アラートが出て屋外で打てない、けれど夜と早朝なら打てる。その当たり前の事実を、コートの時間貸しではなく宿泊の売上に変換したところに、この企画の芯がある。人口1万人を切る町でコート2面をどう回すかという問いは、地方でコートを持つ人にも、週末に打つ場所を探している人にも刺さる。
2面を丸ごと、夕方から翌朝まで押さえる
発表されたのは2本立てのプランだ。ひとつは初心者コーチ付き民泊プランで、コート代(コーチ代込み)22,000円に宿泊料金が乗る。スタート時間は16:30/17:30/18:30/19:30の4枠から選ぶ形で、いずれも3時間(最終枠は22:30終了)。どの枠を選んでも開始から2時間はコーチが付く。翌朝は7:00〜9:00にもう一度コートへ出て、10:00にチェックアウトする流れになっている。
もうひとつが8時間貸切ピックルボール民泊プラン。16:30〜22:30の6時間と翌朝7:00〜9:00の2時間、合わせて8時間を1組で占有する。料金は平日が4名28,000円で追加1名5,000円、金曜・土曜・祝前日は4名32,000円で追加1名6,000円。宿泊しないメンバーが日帰りでコートに加わる場合は1名3,000円という設定も置かれている。ここは読み方に注意がいる。リリースはこの金額を「利用料金」として並べるだけで、コーチ付きプランのようにコート代を別立てで示していない。一方で同じリリースには「民泊料金とコート利用料金は運営者が異なるため、それぞれ別の領収書を発行いたします」という注記があり、掲出された金額にコート代まで含まれるのかは公表情報からは確定できない。以下の試算はいずれも公表された金額をそのまま使った下限値として読んでほしい。
宿泊は二人部屋3室と四人部屋1室、駐車場は10台。パドルとボールは無料で貸し出され、クールダウンエリアと簡易更衣室、施設内のお風呂が使える。施設には冷蔵庫、電子レンジ、トースター、ケトル、IHコンロが備わり、チェックインは16:00から。敷地内には手打ちそば店「彩都里」、日本酒Bar「蔵々」、クラフトビール醸造所「TEENAGE BREWING」が並ぶ。支払いは現金のみ、申し込みは公式LINEから。運営は2026年3月設立・資本金100万円という身軽な規模で、予約導線も1本に絞られている。
日中に打てない夏が、営業時間を夜へ押し出した
この設計を読み解く鍵は、時間帯の選び方にある。埼玉県では2026年7月23日、環境省の熱中症警戒アラートが発表され、県は「気温が著しく高くなることにより熱中症による健康被害が生じるおそれがある」として、エアコンの効いた環境で過ごすなど暑さから身を守るよう呼びかけた。同種のアラートは今夏、繰り返し出ている。屋外コートにとって、7月8月の10時から16時は事実上の休業時間帯に近い。
ところが国内の屋外専用コートの多くは、その時間帯を主力にして組まれている。東京・葛飾区のWELL PICKLE CLUBは平日10:00〜17:00、土日祝9:00〜18:00の営業で、通常のレンタル料金は1面1時間あたり平日4,000円、土日祝6,000円(税込。時期によって割引キャンペーンが入る)。照明を持たない屋外施設なら、暗くなれば閉めるほかない。夏の需要が集まる夜の時間帯に、打てる場所そのものが少ないというのが現状だ。
ときがわ町の人口は2026年7月1日時点で9,933人、4,741世帯(住民基本台帳)。町の観光協会によれば、池袋駅から電車で約70分、関越自動車道の東松山ICから車で約20分という位置にある。都心から通える距離にありながら、夜に照明をつけて2面を占有できる土地の余裕がある。この組み合わせは、都市部のコートには真似のしにくい条件だ。
人数を集めるほど下がる、1人あたりの負担
公表された料金から、貸切プラン(8時間・宿泊込み)の1人あたり負担を試算すると次のようになる。
| Condition | 公表金額 | 1人あたり |
|---|---|---|
| 平日・4名 | 28,000円 | 7,000 yen |
| 平日・8名 | 48,000円 | 6,000 yen |
| 平日・10名 | 58,000円 | 5,800円 |
| 金土祝前日・4名 | 32,000円 | 8,000 yen |
| 金土祝前日・8名 | 56,000円 | 7,000 yen |
| 金土祝前日・10名 | 68,000円 | 6,800円 |
リリース掲載の料金(4名基本料+追加1名料金)をもとにした編集部試算。リリースはこの金額の内訳(宿泊分とコート分)を示していないため、実際の支払総額はこれを下回らない。
平日4名の28,000円をコート8時間で割ると、2面あたり1時間3,500円。都内の屋外1面の平日レンタル料金(後述のWELL PICKLE CLUBで4,000円)を下回る水準に、宿泊と風呂が乗る。コート代が別に加算されるならこの単価は上がるが、それでも都心の時間貸しから大きく外れる価格帯ではない。人数が増えるほど1人あたりは下がり、10名なら平日5,800円。仲間内で8人揃えられるクラブやサークルにとっては、日帰りで都内のコートを数時間借りるのと大差ない支出で、夜と朝の8時間が手に入る。
この設計を、誰がどう見ているか
運営側の意図は明快だ。EFFECT-Kはリリースで「友人・会社仲間・ファミリーで完全貸切でご利用可能」と打ち出し、初心者向けにコーチ付きプランを別立てで用意している。パドルとボールを無料で貸すのも、手ぶらで来る層を前提にした組み立てである。
市場データを見ると、その狙いには根拠がある。ピックルボールワンが2026年に公表した市場調査では、国内の競技人口は約33万人、興味・関心を持つ潜在層は約1,189万人と推計された。競技人口の約36倍という開きは、まだ打ったことのない人が圧倒的多数であることを示す(72.5% of tennis players interested, and the 36x headroom in a 330,000-player market)。初心者を連れてきやすい設計は、この母集団に届くための現実的な入口になる。
敷地内の顔ぶれにも意味がある。そば店、日本酒Bar、クラフトビール醸造所が同じ敷地に同居している。打ったあとの消費がその場に落ち、宿泊も飲食も同じ土地で完結する。コートを客寄せの装置として使い、収益を隣の事業で受け止める構造になっている。
既存のコート運営者から見れば、この料金は競合というより別カテゴリーに映るはずだ。時間貸しは1枠が空けば売上が消えるが、貸切と宿泊の組み合わせは1組の予約で一晩分が確定する。
2面で成立させる条件は、コートで稼がないこと
ここが今回いちばん考えたい論点になる。コート代として金額が明示されているのは、コーチ付きプランの22,000円だけ。貸切プランの料金表にコート代の欄はなく、示されているのは人数で決まる一本の金額だけだ。コートの値段が前面に出てこない。2面という規模でコート単体の採算を取ろうとすれば、平日昼の空き枠との戦いになる。その戦いを最初から降りているのが、この企画の判断だ。
規模を追う道もある。伊豆稲取では温泉リゾートが20面規模の拠点づくりに動いており(20面の温泉リゾート、伊豆稲取が日本最大のピックル聖地になる日)、大会誘致まで視野に入る面数だと集客の設計図はまるで変わる。対して2面は、長野県原村の別荘地で住民クラブが立ち上がった事例と同じ規模感で(コート2面と仲間4人から、原村の別荘地に芽吹く住民クラブ)、大会ではなく特定の一団を満足させる装置として機能する。ときがわ町の事例は、その2面に「泊まれる」を足すことで、地元の競技人口の薄さを都市部からの持ち込みで埋めている。
同じ形を検討する運営者が確認しておきたい点を挙げる。
- 夜間の照明と打球音をどう扱うか。22時台まで屋外で打つ以上、近隣との合意形成が前提になる
- 宿泊部分の営業形態。旅館業法の簡易宿所許可か住宅宿泊事業法(民泊新法)かで運用が変わり、後者なら年間180日という営業日数の上限がかかる
- 雨天時の扱い。屋外2面なら中止・順延の基準と返金ルールを先に決めておく必要がある
- 現金のみ・LINE予約という運用は初期投資を抑える反面、遠方からの新規客を取りこぼす余地が残る
リリースには宿泊事業の許認可形態の記載がなく、どの制度で運営しているかは公表情報からは判断できない。追随を考えるなら、そこは自分の物件で個別に確認する領域になる。
地方コートの評価軸が「面数」から「客単価」へ動く
民間の集計では、国内のピックルボール施設は2026年7月時点で280施設・36都道府県まで広がったとされる。ただ、地方に1面2面を作っても、周辺人口だけで平日昼を埋めるのは難しい。競技人口33万人という数字を47都道府県で割れば、1県あたりの密度はまだ薄い。
だからこそ、地方のコートが問われるのは面数ではなく、1人の来訪者からいくら受け取れるかになる。宿泊、食事、温浴、レッスンを束ねれば、コート1時間あたり数千円という天井から抜けられる。ときがわ町の貸切プランは、平日8名で少なくとも48,000円という一晩の売上を、2面のコートと4部屋で作っている。同じ売上を時間貸しだけで積むなら、前掲の都内屋外コートの平日通常料金(1面1時間4,000円)換算で12時間分の予約が必要になる。
猛暑が毎年の前提になるなら、屋内施設と夜間営業の価値は上がっていく。屋内建設には相応の資金がいるが、既存の宿と屋外2面に照明を足す形なら、投資の桁がひとつ違う。地方の遊休宿泊施設を持つ事業者にとって、この企画は現実的な参照点になるはずだ。
プラン概要と申し込み方法
| 施設所在地 | 埼玉県比企郡ときがわ町馬場434 |
|---|---|
| 連絡先 | 080-9725-7867(申し込みは公式LINE) |
| Courts | 正規コート1面+レッスンコート1面(完全貸切) |
| Capacity | 4〜8人が最適(最大10人) |
| プラン① | 初心者コーチ付き民泊プラン/コート代22,000円(コーチ代込み)+宿泊料金 |
| プラン①の開始時間 | 16:30/17:30/18:30/19:30から選択(各3時間)、翌朝7:00〜9:00、10:00チェックアウト |
| プラン② | 8時間貸切ピックルボール民泊プラン/16:30〜22:30+翌朝7:00〜9:00 |
| 公表料金(平日) | 4名28,000円、追加1名5,000円(内訳の記載なし) |
| 公表料金(金土祝前日) | 4名32,000円、追加1名6,000円(内訳の記載なし) |
| 日帰り参加 | 1名3,000円(16:30〜22:30) |
| 客室 | 二人部屋3室、四人部屋1室 |
| チェックイン | 16:00〜(10:00チェックアウト) |
| 駐車場 | 10台 |
| Facilities | お風呂、クールダウンエリア、簡易更衣室、冷蔵庫・電子レンジ・トースター・ケトル・IHコンロ |
| Rentals | パドル・ボール無料貸出 |
| 敷地内飲食 | 手打ちそば「彩都里」、日本酒Bar「蔵々」、クラフトビール醸造所「TEENAGE BREWING」 |
| 支払い | 現金のみ |
| アクセス目安 | 池袋駅から電車で約70分、関越道・東松山ICから車で約20分(町全体の目安) |
まとめ:夜と朝の空き時間を、いくらで売るか
打つ側がやることはシンプルだ。8人前後で日程を合わせ、平日枠を狙い、現金を用意して公式LINEから枠を確認する。雨天時の扱いと当日の食事(敷地内の店の営業日)は、申し込み前に聞いておきたい。夏の日中に外で打つ選択肢が消えている以上、夜22時半までと翌朝7時からという時間割は、そのまま貴重な練習時間になる。
コートを持つ側は、自分の施設の「売れていない時間」を数えるところから始めたい。夜と早朝、平日の夕方、そこに照明と、近くの宿と、食事の受け皿を組み合わせられるか。ときがわ町の2面が示したのは、面数を増やさずに売上を作る順番である。次に同じ問いを解くのは、遊休の宿と空き地を抱えた別の町になる。
Source:PR TIMES(EFFECT-K)/ときがわ町 住民基本台帳人口/ときがわ町観光協会/埼玉県 熱中症警戒アラート/PR TIMES(ピックルボールワン 市場調査2026)/WELL PICKLE CLUB/Pickleball Navi
