ベトナム青年起業家協会が、9月2日から4日までダナンで「World Entrepreneur Tournament 2026」を開く。起業家・投資家・経営者だけが出場できる、世界初の「ビジネスパーソン専用」ピックルボール大会だ。想定規模はベトナムと80以上の国・地域から約1,600人。競技はダブルス26種目で、賞金総額は7億2,000万ドン超(約2万7,500ドル)とされる。数字だけ見れば中規模の国際大会だが、この大会が示すのは「ピックルボールがビジネスの社交場そのものになりつつある」という、日本の競技関係者や日系企業にとって見過ごせない流れだ。
「勝ち負け」より「名刺交換」が主役の大会
主催のベトナム青年起業家協会は、この大会を単なるスポーツイベントとは位置づけていない。試合の合間には、ビジネスネットワーキング、戦略的パートナーとの商談、ビジネスガラ、投資誘致プログラム、国際メディア向けの企画が組まれる。主催者は「本当の価値は、そこで結ばれるつながりと、互いに高め合う文化にある」とコメントしており、コートは勝敗を競う場であると同時に、越境の商談テーブルとして設計されている。
出場資格に連盟・協会への加盟を求めない点も、この大会の性格をよく表している。競技レベルの要件さえ満たせば誰でもエントリーできる。26種目には初級・中級のブラケットや「リーダーシップ対決」的な部門も含まれ、腕前の差があっても経営者同士が同じコートに立てるよう間口が広げられている。競技志向の大会というより、ピックルボールを共通言語にした経済交流イベントと捉えるほうが実態に近い。
ベトナムで進む「ビジネス文化インフラ」化
なぜベトナムでこの形の大会が成立するのか。背景には、この数年でピックルボールが同国のビジネスコミュニティに深く入り込んだ事情がある。朝や夕方のコートで経営者が汗を流しながら、その場でアイデアや取引、人間関係が生まれる——そうした光景が、ベトナムでは特別なものではなくなりつつある。
企業が福利厚生として競技を取り込む動きも早い。ベトナムでは銀行が社員700人を家族ぐるみでコートに集める大会を開き、金融機関がプロツアーの冠スポンサーに名乗りを上げるなど、ピックルボールが企業の福利厚生や社内イベントの定番になりつつある。競技そのものが、社内の結束づくりと社外ネットワーキングを同時にこなす「装置」として機能している点が、日本の現状との大きな違いだ。
競技インフラの整備も進む。ベトナムは選手のレーティングに国際指標のDUPRを採り入れ、ハノイでの1勝がロサンゼルスでの1勝と同じ世界基準で評価される環境を整えつつある。腕前が世界共通の物差しで可視化されれば、国境をまたいだ大会や交流はさらに組みやすくなる。World Entrepreneur Tournamentは、こうした足場の上に成り立っている。
裏取りできた数字と、注意したい点
今回の大会について、確認できた主な数値を整理しておく。賞金総額は媒体によって表記に幅があり、「7億2,000万ドン超(約2万7,500米ドル)」とする報道と、「8億ドン近く」とする報道が混在している。ここでは米ドル換算が併記された前者を採用した。為替は変動するため、日本円ではおおむね400万円台と幅を持って捉えるのが無難だ(参考: 1万ドン≒60円)。
| Item | Details |
|---|---|
| Run | 2026年9月2日〜4日 |
| Venues | ベトナム・ダナン |
| Host | ベトナム青年起業家協会 |
| Scale | ベトナム+80以上の国・地域から約1,600人 |
| Event | ダブルス26種目(初級・中級ブラケット含む) |
| Prize money | 総額7億2,000万ドン超(約2万7,500米ドル)/賞品は別途 |
| Entry eligibility | 連盟・協会加盟は不要(競技要件のみ) |
会場がダナンである意味
開催地がダナンという点も、この大会の狙いを補強している。ビーチとリゾートを抱えるダナンは、国際的なホスピタリティ産業が集積する街で、外資系ホテルがコートを併設し「打てる休暇」を商品化する動きも出ている。実際、ダナンのリゾートはビーチの隣にコートを設け、宿泊とセットで競技を売り始めている。滞在・観光・商談・プレーを一つの街で完結させられる立地は、海外からビジネス層を呼び込むうえで理にかなっている。数日間の大会に合わせて相手国の経営者と顔を合わせ、そのまま視察や会食に流れる——そうした動線を組みやすい場所として、ダナンが選ばれている。
日本の関係者・日系企業に何が持ち帰れるか
ここからが、日本目線での視点だ。日本ではピックルボールの普及は施設づくりや競技人口の拡大が中心で、「ビジネス交流の手段」という切り口はまだ薄い。だがベトナムの事例は、競技を福利厚生やネットワーキングの文脈に乗せると、企業側が投資する理由が一気に増えることを示している。社員のエンゲージメント、取引先との関係構築、対外的なブランド露出——一つのコートで複数の目的を回収できるなら、経営判断としての導入は進めやすい。
対ベトナム・対東南アジアのビジネスを持つ日系企業にとっては、より直接的な示唆がある。現地では商談が会議室ではなくコートで始まる場面が増えている。取引先や候補パートナーがプレーする層であれば、ゴルフ接待に代わる関係構築の場としてピックルボールが機能しうる。今回のような「起業家専用大会」は、この接点を狙って設計されており、進出企業が現地ネットワークに入り込む入口として観察する価値がある。
もう一つは、日本国内での応用可能性だ。ピックルボールはテニスやゴルフより初期投資が軽く、レベル差があっても同じコートで成立しやすい。社内イベントや異業種交流会の器として、日本企業が試す余地は十分にある。ベトナムが数年で築いた「ビジネス×ピックルボール」の型は、そのまま輸入できるモデルではないにせよ、日本での使い道を考えるうえでの参照点になる。
Summary
World Entrepreneur Tournament 2026は、賞金や参加人数の規模で語るより、「ピックルボールがビジネスの社交インフラになった」ことの象徴として読むほうが本質に近い。日本の競技関係者にとっては、普及の次の段階——企業や経済活動と結びつける発想——を先取りする事例であり、対ベトナムのビジネスを持つ企業にとっては、現地ネットワークへの新しい入口だ。9月のダナンで何人の経営者がコートで名刺を交わすのか、その動きは日本の使い方を考える手がかりになる。まずは、自社の福利厚生や取引先との交流に競技を持ち込めないか、小さく試すところから始めたい。
