フォーシーズンズホテル・シンガポール(190 Orchard Boulevard)が、屋外のピックルボールコートを張り替えたと10月6日に発表した。表面材は「Krystal Pro」で、7層のクッション構造。コートの寸法は6.1m×13.4mで、宿泊客でなくても電話で枠を取れ、プライベートレッスンも用意されている。プレー後はシャワーとサウナ、スチームルームが使える。
発表文の見出しは「Krystal Proサーフェスを備えたシンガポール唯一のホテル・ピックルボールコート」で、「唯一」が掛かっているのはコートではなく表面材だ。本文も、この専用の競技面を出すのはシンガポールのホテルで唯一という書き方になっている。ホテルのコートそのものは、フラトンがOne Fullertonの屋上で1時間40シンガポールドルで貸している。日本でもホテルや閉館が決まったビルをコートに変える動きが続いているので、この発表は何に金を使ったのかを分けて読むと使える。
6.1×13.4mはラインの外寸で、周囲の余白は公表されていない
まず寸法から。USA Pickleballの2025年版ルールブック2.A.1は、コートを20フィート(6.10m)×44フィート(13.41m)と定めている。フォーシーズンズが出した6.1m×13.4mは、この規定値とそのまま一致する。公表されたのはラインの外周までで、その外側にどれだけ余白があるかは発表文に書かれていない。
同じルールブックの2.A.3は、プレー面の最低寸法を30フィート(9.14m)×60フィート(18.29m)としている。新設と大会使用には34フィート×64フィート(10.36m×19.5m)を挙げる。ライン内だけなら約82平方メートル、最低推奨まで取れば約167平方メートルで、必要な床面積はほぼ倍になる。ホテルの中庭やビルのフロアを転用するとき、この差が収まるかどうかで企画が決まる。
施設の仕様を見比べるときは、出ている数字がライン内なのか敷地全体なのかを先に確かめたほうがいい。6.1×13.4と9.1×18.3は、どちらも1面として書かれる。
7層はクッション材の枚数ではなく、アクリルを塗り重ねた回数に近い
発表文は7層と層数だけを示し、内訳には触れていない。Krystal Proの層構成も、メーカーの技術資料として公開されている形では見つけられなかった。ただ、アクリル系のクッションコートは塗り重ねの回数で層を数えるのが普通だ。米SportMasterが公開しているProCushionの仕様では、アクリルレジンサーフェサーを1〜2回、CushionMaster IIを3回、CushionMaster Iを2回、仕上げのPickleMasterを2〜3回重ねる。合計すると8〜10回になる。
この数え方だと、7層は7種類の素材を積層したという話ではなく、液体を7回塗り重ねたと読むほうが実態に近い。コスト構造にも直結する。下地のアスファルトやコンクリートを壊さず、上から塗り足すだけで表面の性格を変えられるからだ。逆に下地が割れていれば、何層塗っても割れは浮いてくる。クラック補修材が表面材とは別に商品化されているのは、そこを切り分けないと張り替えが成立しないからだ。
見積を取る側から見ると、詰めるべきは層数ではなく、下地処理が含まれているか、施工から供用までコートを何日止めるかの2点になる。
フラトンの屋上は1時間40シンガポールドル、フォーシーズンズは価格を出していない
One Fullertonの屋上コートは、マリーナベイを背にした開放型だ。料金は1時間40シンガポールドル(約4,950円。1シンガポールドル=約123.8円、2026年10月12日時点のレートで換算)で、パドルとボールのレンタルが含まれる。最低1時間、営業は毎日7時から18時まで。宿泊客以外も予約できるが、ホテル直営の飲食・スパ・ショップで最低20シンガポールドル(約2,480円)を使うことが条件になる。予約は前日18時まで、雨天は振替で返金なし、パドルやボールの破損・紛失には200シンガポールドル(約24,800円)が課される。
フォーシーズンズ側は料金を公開していない。発表文に出ている予約の窓口は電話だけで、価格はその先にある。この差は狙う客の違いで、値段を出す側は非宿泊客の時間貸しで稼働を埋めにいき、出さない側は宿泊とスパ、プールサイドのレストランを束ねた滞在全体で回収する。コート1面の収支だけを見ている相手ではない。
もう一つ。フォーシーズンズのコートは2025年7月の時点で新設の屋外パデル&ピックルボールコートとして紹介され、同年8月30〜31日に参加費98シンガポールドル(約12,100円)の2日間大会を開いている。今回は新設ではなく、1年あまりで表面を入れ替えた話だ。表面材だけでリリースを1本出すところまで、滞在客の利用が付いたということでもある。
渋谷東武ホテルの地下2階は1面1時間1万円から、営業は2027年2月末まで
日本側で近い構図にあるのが、渋谷東武ホテルの地下2階に入った2面だ。料金は平日12〜18時が1面1時間10,000円(会員8,000円)、平日18〜23時が12,000円(会員10,000円)、土日祝8〜23時が15,000円(会員13,000円)。2026年8月8日にオープンし、ホテルの閉館に合わせて2027年2月末までの営業を予定している。
1面貸しなので4人で分けると1人あたり2,500〜3,750円。パドル込みで約4,950円のフラトン屋上、非会員が1人1時間2,500円の豊洲のPICKLR屋内7面と並べると、ホテルや商業施設のコートはシンガポールと同じレンジに乗っている。日本のホテルコートが割高という話にはならない。
違うのは時間軸だ。渋谷は営業期間が約7か月で切れる。残存期間が決まっている空間に、下地から塗り重ねる恒久サーフェスは入れにくい。シンガポールのホテルが表面に7層を乗せられるのは、そのコートを何年も使う前提があるからで、この前提が日本側では揃いにくい。
コーティナジャパンが11月に入れるCushionXコートマットは4mmのロールを1面8〜12本
その前提の差が、製品の選び方に出ている。AT Sportsのサーフェスを日本に入れるコーティナジャパンが11月に初入荷するのは、アクリル塗料のAcrytechと可搬マットのCushionXコートマットだ。コートマットは4mmのゴムマットに補強フィルムとAcrytech Flexの塗膜を重ねたもので、1面あたり8〜12本のロールと継ぎ目の両面テープで敷く。固定せずに置くだけで、終われば剥がせる。屋内外に対応し、2〜3色のプリントも入る。塗料側のAcrytechは1.1〜54.4℃で施工できる水性の低VOC仕様で、下地の動きに追従するFlexシリーズが別にある。
同じアクリルクッションの系譜でも、シンガポールのホテルは下地に塗り込む側を選び、日本の多目的ホールや期限付きの空間は上に敷く側を選びやすい。借地か自社か、何年使えるか、他競技と床を共有するかで分かれる。
張り替えや新設の検討に入る前に詰めておくことは4つある。公表寸法がライン内か敷地全体か。見積に下地のクラック処理が入っているか。施工できる気温と、乾燥でコートを止める日数。期限付きの空間なら、残る月数で工事費を割り切れるかどうかだ。
フォーシーズンズの発表に残った数字は6.1m×13.4mと7層の2つだけで、価格も敷地の広さも電話の向こうにある。
Sources
- Four Seasons Press Room・Singapore’s Only Hotel Pickleball Court
- Four Seasons Press Room・Summer Smash at Four Seasons Hotel Singapore
- TheSmartLocal・One Fullerton Rooftop Pickleball Court
- Play Pickleball・2025 USA Pickleball Rules Section 2 (Court and Equipment)
- SportMaster・Pickleball Court Surfaces & Construction
