ピックルボールの「第1回とかちトーナメント」が10月11日、帯広市総合体育館「よつ葉アリーナ十勝」で開かれた。北海道新聞によると、元バドミントン五輪代表でピックルボールに転向した永原和可那(30)=芽室町出身=も参戦し、会場を盛り上げた。十勝で大会が立ったこと自体が新しいが、プレーヤーと施設運営者の目から見ると、引っかかる点はもう二つある。呼ばれた元トップ選手が講師ではなく選手だったこと、そして会場が国内のピックルボール専用施設とは桁の違う広さの体育館だったことだ。
世界選手権2連覇の永原和可那が、講師ではなく選手として十勝の第1回に入った
永原は1996年1月9日生まれ、北海道河西郡芽室町出身。2014年に松本麻佑と「ナガマツペア」を組み、2018年と2019年のバドミントン世界選手権女子ダブルスを連覇した。2019年には世界ランキング1位に立ち、五輪は2大会に出場している。東京五輪では1次リーグを3連勝で通過し、準々決勝で韓国ペアにゲームカウント1-2で敗れた。
現役を退いたのは2025年。スポーツクラブNASの発表では、引退後は「バドミントンとピックルボールの二刀流アスリート」として、競技参加だけでなく講習・講演・イベント・次世代育成に取り組むと説明されている。十勝での肩書きは、そのうち「競技参加」のほうだった。
この違いは小さくない。地方の第1回大会でいちばん難しいのはエントリーを埋めることで、講演やデモンストレーションだけだと、来場者は座って見て帰る。同じドローに世界ランキング1位を経験した選手が入っていれば、「隣のコートで見られる」「当たったら話せる」という理由でエントリーする人が出てくる。第1回の集客装置として、選手登録のほうが講師より強い。
よつ葉アリーナ十勝の61m×46mは、ピックルボールなら15面前後が取れる
帯広市の資料では、2020年2月に供用が始まったこの体育館のメインアリーナは競技エリア61m×46m、面積2,806㎡、観客席2,883席。サブアリーナは競技エリア24m×44m、1,268㎡、246席。延床面積は14,874.04㎡で、駐車場は343台分ある。
ピックルボールのコートは13.41m×6.10mで、バドミントンのダブルスコートとほぼ同じ。前後左右の余白を含めて1面あたり約9.1m×18.3m(30フィート×60フィート)を確保する前提で割ると、メインアリーナで15面前後、サブアリーナでも4面程度が物理的に取れる計算になる。
この数字は国内の事情を知っていると効いてくる。屋内専用施設では、Sansanが東池袋のコートを11面に増やした規模が上位に来る。つまり帯広の体育館は、1日押さえるだけで国内最大級の面数を作れる場所だということになる。都市部が土地代と天井高で詰まっているのに対し、地方の総合体育館は面数と駐車場で先に勝っている。十勝のように参加者が車で来る前提の地域で、343台が同じ敷地にあるのも効く。
運用面の制約も押さえておきたい。この体育館の利用時間は午前9時から午後10時まで、休館日は第3月曜と12月31日から1月3日まで。終日イベントを組むなら13時間の枠があり、夜間練習の受け皿にもなる。
大和ハウス系のスポーツクラブNASは全店舗導入を掲げ、キックオフに同じ永原を呼んだ
永原の名前は、十勝の第1回大会とは別の文脈でも出ている。スポーツクラブNAS(大和ハウスグループ、本社・東京都港区)は2025年10月23日、ピックルボールのプログラムを本格始動すると発表し、全店舗での導入展開を進めるとした。そのキックオフイベントが2025年11月24日、溝の口店のアリーナスタジオで開かれ、11時から12時30分がピックルボール、13時から14時30分がバドミントンの二本立て。対象は18歳以上、参加費は無料で、申し込み受付は2025年10月24日から始まっている。招かれたのが永原だった。
全国チェーンのプログラム立ち上げと、十勝の第1回大会が、同じ一人を呼んでいる。日本のピックルボールで「名前が効く元トップ選手」の層がまだ薄いということで、大会を立てる側から見ればリスクでもある。2回目に同じ人が来られるかは相手のスケジュール次第で、集客の軸を一人に置いた大会は2年目に落ちる。第1回の運営が終わった時点で、2回目の軸を人ではなく中身に移せるかどうかが分かれ目になる。
秋田のTANAGOKORO CUPは県内外16チーム・約30人、第1回はその規模から立ち上がる
規模の見積もりには、先に走っている地方大会が参考材料になる。秋田魁新報によると、2025年11月2日に秋田市北部市民サービスセンター「キタスカ」で開かれたTANAGOKORO CUPは、県内外から16チーム、約30人が参加した。同紙は、元バドミントン日本代表で元北都銀行の永原らが取り組んでいることで競技が話題になった、と書いている。
秋田の北都銀行は永原の現役時代の所属先で、十勝は出身地。本人の経歴が、たまたま二つの地方の普及期と重なっている。裏を返せば、どちらの地域も「この人が始めた競技」という入口から入っているので、人の話題が切れたあとに何が残るかが問われる。
残るかどうかを決めるのは、第1回の翌週に練習会の日程が出ているかだ。岡山県赤磐では、元高校英語教諭ら4人で始めたクラブにいま約100人が通う。16チーム・30人という第1回の数字は、常設の活動が続けば十分に伸びる出発点になる。逆に、年1回のイベントとして年間カレンダーに置かれただけだと、翌年は同じ30人を集めるところからやり直しになる。
十勝で続けるには体育館の枠取りが先、留寿都は夜の専用コートまで来ている
帯広は冬の屋外が使えない。だから十勝でこの競技を回すなら、屋内の定期枠をどう確保するかが最初の課題になる。帯広市の資料では、新しい体育館の年間利用者は165,000人(専用利用100,000人、一般利用65,000人)が見込まれていた。一般利用に6万5千人分の想定枠がある施設で、第1回大会が1日分を押さえたという位置づけになる。
北海道内では別の動きも出ている。北海道新聞によると、2026年6月27日、留寿都のリゾート内の専用コートで、ネットとラインに蛍光素材を使った夜のピックルボールが初めて企画された。道内のリゾートが夜間の商品化に入っている一方で、十勝は公営体育館の第1回という段階にある。時間帯と屋内外の組み合わせで差が付きはじめている。
制度面では、ピックルボールのJSPO加盟をめぐって、国民スポーツ大会に出るための関門が都道府県のスポーツ協会側にあるという整理になっている。十勝で第1回が立った次の一手は、北海道側の協会とどう接点を作るかという話になる。地域の第1回大会は、その交渉で出せる実績そのものだ。
この体育館は午前9時から午後10時まで使える。10月11日に埋まったのは、そのうちの1日分でしかない。
