岡山県赤磐市で、4人で始まったピックルボールのグループが約100人になった。山陽新聞デジタルが10月3日に伝えたもので、グループ名は「APC(赤磐・ピックルボール・クラブ)」。代表は高校の元英語教諭、岩本淳子さん(67)=赤磐市河本。立ち上げは2025年1月だから、1年9か月で25倍になった計算だ。練習会は山陽西小と赤坂中の体育館で週1〜3回、参加者は中学生から81歳まで。この手の「地域に根付いた」という話は数字だけ見ると勢いの記事になりがちだが、赤磐の場合は立ち上げの手順がかなりはっきり残っている。場所をどう押さえ、指導をどこで覚え、最初の仲間をどう集めたのか。これから自分の町で始めようとしている人には、100人という結果より、そこに至る順番のほうが使える。
山陽新聞が伝えた赤磐のクラブの中身
記事によると、APCの練習会は赤磐市内の2つの学校体育館で開かれている。山陽西小(赤磐市山陽)と赤坂中(同市町苅田)で、頻度は週1〜3回。参加者は中学生から81歳までで、初心者も上級者も、若者も高齢者もペアを替えながらプレーする形を取っている。9月26日に山陽西小で行われた練習会では、「ナイスショット」「任せて」という声が体育館に響いたと記事は書いている。
活動は赤磐市内だけで止まっていない。和気町で練習会を始めたメンバーもいて、裾野は東備地域へ広がりつつあるという。メンバーからは「誰もが気軽に始められるスポーツ。仲間をさらに増やし、地域を元気にしたい」という声が出ている。
ニューヨークで見た大会が出発点だった
岩本さんがこの競技と出合ったのは2024年夏。旅先のニューヨークでピックルボールの大会が開かれており、懸命にボールを追う選手の姿に魅了されたという。記事には本人の言葉がこう残っている。「選手も観客も心から楽しんでいた。自分たちの世代にも合うスポーツだと思った」。
この言葉で効いているのは、感じ取った対象が「自分がやりたい」ではなく「自分たちの世代に合う」だった点だ。67歳の元教諭が、同世代を含む幅広い年代を想定して競技を持ち帰っている。結果として集まった層が中学生から81歳までという幅になったことは、入口の見立てがそのまま出た形になる。
渡米体験が起点になるパターンは、他の地域でも起きている。群馬県桐生市では、アウトドアスタイルコンビニ「田中商店」を営む貝之瀬賢人さん(36)が渡米体験をきっかけに桐生みどりピックルボールクラブを立ち上げ、2026年9月24日の初回練習会に10人が集まった。初回参加者は全員初心者で、30〜60代の男女だった。海外で見て驚いた人が、帰国後に地元で最初の1人になる。赤磐と桐生は、この同じ経路をたどっている。
最初にやったのは、県内で先に動いている練習会へ習いに行くことだった
赤磐の事例で最も実務的に効いているのは、立ち上げ前の動きだ。岩本さんは帰国後、県内の競技事情を調べている。その結果津山市では盛んだったが、赤磐市ではほとんど知られていなかったことが分かった。そこで「自分たちの手で競技を広めよう」と考え、津山の練習会に出て競技の基礎と指導法を学んだ。そのうえで2025年1月に友人らとAPCを立ち上げた。
地域で新しい競技を始めるとき、多くの人が最初に探すのは場所か用具だ。だが赤磐の順番は違っていて、先に「教える能力」を取りに行っている。外部のコーチに頼る形だと、指導者の日程が合わない週は練習会が開けない。代表自身が教えられるなら、その制約がなくなる。週1〜3回という頻度を1年以上続けられている一因は、ここにあると見ていい。
もう1つの含みは、県内の既存拠点を探す価値だ。津山市で盛んだったという事実を岩本さんは調べて見つけている。赤磐市から津山市までは同じ岡山県内で、車で通える距離にある。ゼロから独学で覚えるより、先に立ち上がっている練習会に数回通うほうが速い。
地域クラブ3例を並べると、共通しているのは2点だけ
ピックルタイムスがこれまで扱った地域クラブの事例を並べると、3例とも一致しているのは公共の体育館を使っていることと、代表者個人が最初に動いていることの2点だ。参加費や開催頻度は揃っていない。
| Item | 赤磐(APC) | 桐生・みどり(KMPC) | 駒ヶ根アルプスピックルクラブ |
|---|---|---|---|
| 立ち上げ | 2025年1月 | 2026年9月24日が初回練習会 | 2026年7月発足 |
| Representative | 岩本淳子さん(67)/高校の元英語教諭 | 貝之瀬賢人さん(36)/商店主 | 木元伸一さん |
| きっかけ | 2024年夏、ニューヨークで大会を観戦 | 渡米体験 | 記事では競技の潜在力に着目と報道 |
| Venues | 山陽西小・赤坂中の体育館 | 桐生市民体育館 | 市内の体育館 |
| Frequency | 週1〜3回 | 練習会を開始 | 月1回の体験会を予定 |
| Scale | 約100人(中学生〜81歳) | 初回10人(30〜60代) | 体験会に約40人(3歳〜87歳) |
差が出ているのは「頻度」と「規模」の列だ。ただし数字の性質が違う点は押さえておきたい。駒ヶ根で報じられた約40人は1回の体験会の参加者数で、赤磐の約100人はクラブに集まる人の総数だ。並べて多い少ないを言える数字ではない。
比較できるのは開催の頻度になる。月1回なら年12回、週1回で年約52回、週3回なら年約156回。赤磐の「週1〜3回」を当てると、月1回の体験会に対して年間の開催回数は4倍から13倍の幅になる。クラブに人が溜まるかどうかは、1回あたりの集客より、この回数の差に効いてくる部分が大きい。
体育館を週1〜3回押さえるのが、実は一番の難所
小中学校の体育館は、地域のスポーツ団体が最も使いやすい一方で、枠の取り合いが起きやすい場所でもある。バレーボール、バドミントン、卓球、ミニバスなど既存の団体が長年の枠を持っていることが多く、新しい団体が週3回の枠を確保するのは簡単ではない。赤磐が2校を使い分けているのは、1校で週3回を押さえるより、2校で分散させるほうが現実的だという判断の結果と読める。
参加費の水準も参考になる。桐生のKMPCは1回500円、新潟県上越市ではNPOが主催し市が後援する形で90分500円の体験会が開かれていた。赤磐の参加費は報じられていないので3例での比較はできないが、少なくとも体育館を使う形の体験会は数百円で成立している。都心の専用コートが1面1時間で1万円を超える世界とは、同じ競技でも経済がまったく別だ。
用具については、赤磐の記事には具体的な記述がない。ただ地域クラブの一般的な形として、ネットとパドルを代表者か立ち上げメンバーが購入し、参加者に貸し出す運用が取られることが多い。コートのラインは体育館のバドミントンコートの線を流用できるので、ライン引きの手間もいらない。これが「体育館さえ押さえれば始められる」という状況を作っている。
中学生から81歳までが同じコートに立つと何が起きるか
赤磐の記事で印象的なのは、参加者の言葉が運動の効果ではなく人間関係に寄っていることだ。定期的に運動する習慣がなかったという自営業の藤井賢吾さん(58)=赤磐市殿谷=は「体と頭の体操になる。ピックルボールのおかげで生活に張り合いが生まれた」と話している。メンバーからは「新しい仲間ができた」「普段の会話が増えた」という声も出ている。
岩本代表自身の言葉はこうだ。「人と人がつながり、楽しく気軽に集まれる場所になった。ぜひ一度練習に参加してほしい」。世代間交流を目的に掲げたグループで、実際に出てきた成果の表現が「会話が増えた」であるのは、競技の設計とかみ合っている。コートが狭く、ダブルスが基本で、強く打たなくてもラリーが続く。相手との距離が近いので、プレー中に声が出る。
この性質は、地域クラブが自治体の事業と組むときに効いてくる。健康づくり、介護予防、多世代交流といった行政側の既存の枠に、そのまま乗せられる。上越市の例で市が後援に回ったのも同じ文脈だろう。逆に言えば、地域で立ち上げるときは「新しいスポーツをやりたい」ではなく「世代間交流の場を作りたい」と説明したほうが、体育館の枠も後援も取りやすい。
自分の町で始めるなら、どの順番で動くか
赤磐の事例から逆算すると、やることの順番は4段階に整理できる。
- 同じ県内か近隣で、すでに練習会が動いている場所を探して数回通う。競技の基礎と、初心者への教え方の両方を見る
- 一緒に立ち上げる友人を数人確保する。赤磐は4人、桐生は10人で始めている
- 公共の体育館の空き枠を調べ、申請主体になる団体を作る。目的の説明は世代間交流や健康づくりの文脈に寄せる
- ポータブルネットとパドルを揃え、参加費を数百円に抑えて週1回から始める。回数を増やすのは人が付いてから
注意点を1つ挙げると、最初から面数や専用施設の話に行かないことだ。赤磐も桐生も駒ヶ根も、専用コートは持っていない。体育館のバドミントンラインを使い、ポータブルネットを立てて、終わったら片付ける。専用施設が必要になるのは、週3回の枠が取れなくなってからの話になる。
APCの活動概要
| Item | Details |
|---|---|
| Organization Name | APC(赤磐・ピックルボール・クラブ) |
| Representative | 岩本淳子さん(67)=赤磐市河本 |
| 立ち上げ | 2025年1月 |
| Venues | 山陽西小(赤磐市山陽)、赤坂中(赤磐市町苅田)の体育館 |
| Frequency | 週1〜3回の練習会 |
| Participant | 約100人/中学生から81歳まで |
| 広がり | 和気町でも練習会が始まり、東備地域へ |
| Contact | 岩本代表(連絡先の電話番号は山陽新聞デジタルの記事に掲載) |
Summary
赤磐のAPCが1年9か月で4人から約100人になった背景として記事から読み取れるのは、代表が県内の先行拠点に通って指導法まで覚えたことと、学校体育館を2校使って週1〜3回の頻度を確保したことだ。どちらが何割効いたかは分からないが、月1回の体験会とは年間の開催回数が桁で違う。
これから地元で始める人は、まず近隣の練習会を探して通うところから始めてほしい。岡山県内なら津山市、群馬県なら桐生市、長野県なら駒ヶ根市に動いている団体がある。そして体育館の枠を取るときは、競技の説明ではなく「多世代が集まる場」として申請を組み立てる。赤磐の100人は、新しいスポーツが流行ったという話ではなく、体育館の空き枠を継続的に押さえ続けた話として読むほうが使える。
