TBSホールディングスと電通グループが、プロピックルボールチーム「THE DOTS TOKYO」を共同で設立した。2026年10月5日10時のプレスリリースで発表されたもので、同チームは11月13日に開幕するアジアのプロリーグ「MLP Asia 2026」に参戦する。さらに両社は、このリーグの日本ラウンド、つまり日本で行われる試合の主管も担う。キャプテンは船水雄太。ロスターには45歳の藤原里華も入った。放送局がピックルボールのチームオーナーになるのは初めてではなく、TBSテレビは国内のPX LEAGUEでもチームを持っている。今回新しいのは、チームの所有とリーグの日本ラウンドの主管を、放送局と広告会社が同時に引き受けた点だ。プレーする場所の話が続いていたこの競技に、観客を集めて見せる側の当事者が現れた、という発表になる。
発表の中身は「チームを作った」と「日本の試合を仕切る」の2本立て
リリースを読むと、両社が引き受けたものは2つに分かれている。1つはチームの共同設立と共同運営。もう1つはMLP Asia 2026の日本ラウンドの主管だ。前者はクラブ経営、後者は興行の運営であり、性質がまったく違う。
チーム側の体制は、株式会社TBSホールディングス(東京都港区、代表取締役社長・阿部龍二郎)と、電通グループの横断イニシアティブ「電通スポーツ&エンターテインメント」の組み合わせ。電通グループの本社は株式会社電通グループ(東京都港区、代表執行役 社長 グローバルCEO・佐野傑)である。両社はチームの運営とブランド価値の向上に加えて、スポンサーシップの推進とマーケティング活動も担うとしている。
チーム名の「THE DOTS」は “Connecting the dots” から取られている。選手・スタッフ・ファンという一つひとつの点がピックルボールでつながる、という意味づけだ。名前の由来としてはよくある形だが、点を集めて熱に変えるという表現は、興行の主管まで引き受けた今回の立ち位置とは素直に重なる。
6人のうち3人は国内ドラフト、3人は9月14日のオークションで取った
ロスター6人の中身は、リーグ側の資料と照らすとはっきり2層に分かれる。MLP Asiaは各チームに「国内選手3人」と「国際選手3人」を課しており、国内3人には男女それぞれ最低1人を含めること、そのうち1人をキャプテンに指定することが条件になっている。国内ドラフトは9月7日に確定し、国際ドラフトは9月14日のライブオークションで行われた。
Team Tokyoの国内枠は船水雄太(キャプテン)、吉冨愛子、藤原里華の3人。残る3人は国際ドラフトでの指名で、1巡5位が畠山成冴、2巡11位がMihae Kwon、3巡13位がDaniel Mooreだった。つまり同じ日本人選手でも、国内枠で確保された選手と、オークションを経て取られた選手が混在している。
| Player | Category | 指名順 |
|---|---|---|
| Yuta Funamizu | 国内ドラフト(キャプテン) | — |
| Aiko Yoshitomi | 国内ドラフト | — |
| Rika Fujiwara | 国内ドラフト | — |
| Seiga Hatakeyama | 国際ドラフト | 1巡5位 |
| Mihae Kwon | 国際ドラフト | 2巡11位 |
| Daniel Moore | 国際ドラフト | 3巡13位 |
藤原里華は1981年9月19日生まれの45歳で、テニス時代にWTAツアーのダブルスで世界13位(2002年11月)、シングルスで84位(2005年8月)まで上がり、2020年3月に引退した。その藤原が10月30日から11月1日にテキサス州ファーマーズブランチで行われるMLP初の国別対抗戦にアジア国際選抜として出場することは9月に報じられており、11月13日の日本ラウンドはその2週間後に来る。船水も海外ツアーを走っていて、アリゾナ大会でジョンズ組を34分で下して8強に入った直後に決勝まで進み、最終ゲームを13-15で落として銀で終えている。日程としては、2人とも米国の試合から戻ってすぐホーム開幕を迎える形になる。
国際ドラフトの上限25万ドルという設計
国際ドラフトのルールは、選手の取り合いにあらかじめ天井を付けている。各チームが国際ドラフトに使える上限は25万ドルで、この枠に選手の給与と指名順の入札額の両方が収まる。給与は世界ランキングに連動して固定されており、上位20位の選手が2万5千ドル、21〜50位が1万ドル、51位以下が5千ドル。各ラウンドで入札額の高いチームから順に指名する方式で、18の指名が3ラウンドで決まった。なお、この25万ドルはチーム運営費全体の上限として発表されたものではない。
上位20位の選手を3人並べれば給与だけで7万5千ドル。残りを入札に回す設計なので、選手の取り合いは起きても、報酬の上積みで引き抜き合う余地はほとんどない。アジアのプロリーグがまだ賞金や年俸で選手を囲い込める段階にないことは、APP Asiaの初年度が全7大会で、賞金が米国の4分の1だったことからも見えていた通りだ。
選手の調達コストに上限があるという設計は、新規に参入する企業にとっては読みやすい。どこまで積むかの判断が先に区切られているので、チームを持つかどうかの検討が、金額の上限を決める作業から始まらない。1年目から6社が揃った背景には、この上限の存在があると見ていい。
競技人口33万人という数字は、どこまで信じていいのか
リリースは日本の競技人口を「2026年は前年比約7倍の約33万人」と書き、出所として株式会社ピックルボールワンの調査を注記している。この数字は自社調査の推計値であり、公的統計ではない。同社が2026年4月21日に出した「日本のピックルボール市場調査2026」によれば、調査方法はインターネット調査、調査期間は2026年3月、サンプル数は約3万人。競技人口33万人のほかに、興味・関心を持つ潜在層を1,189万人、認知率を13.1%と出している。前年の推計が約4.5万人だったので、7.3倍にあたる。
| Item | Figure | Notes |
|---|---|---|
| 競技人口(2026年) | about 330,000 | ピックルボールワン推計 |
| 競技人口(前年) | about 45,000 people | 同社2025年5月14日発表 |
| 潜在層 | about 11.89 million | 競技人口の約36倍 |
| Awareness rate | 13.1% | — |
| テニス経験者の関心 | 72.5% | — |
| 調査方法・時期 | インターネット調査/2026年3月 | サンプル約3万人 |
インターネットパネルの自己申告で「プレーしている」と答えた人を拾う方式なので、体験会に1回参加した人と週3回打っている人が同じ1人として数えられる。33万人を会員数や大会エントリー数と同じ強度の数字として扱うと、施設計画や商品企画の前提を外す。ただし、認知率13.1%で潜在層が1,189万人という構図は、数字の精度とは別に筋が通っている。知らない人が多い段階で、知った人の関心は高い。レンタルスペース運営のインスタベースが実施した調査でもピックルボールへの関心は6%どまりだったが、それでも事業者側が「対応可」と線を引き始めていた。認知が薄いまま事業者側が前に出ている状態が、2年続いている。
放送局と広告会社がオーナーになると、何が変わるのか
日本のピックルボールで企業が関わる形は、これまで用具販売・施設運営・体験会の協賛が中心だった。今回の発表が違うのは、チームそのものの所有と、試合興行の主管を同じ2社が握った点にある。放送局は映像を作って流す手段を持ち、広告会社はスポンサーを集めて売る手段を持つ。片方だけならよくある話だが、両方が同じチームと同じ試合に乗ると、競技側から見える絵が変わる。
変化しうる点は3つある。1つ目は中継の話が進めやすくなること。放送・配信の実施自体は今回の発表には含まれていないが、権利を持つ側と放送する側が同じグループ内にあれば、交渉の相手が減る。フィリピンのリーグでは開幕戦の一部試合をソーラースポーツが生中継したが、これは放送局が外から買う形だった。
2つ目はスポンサー商品の設計が早まること。リリースは両社がスポンサーシップの推進を担うと明記している。チーム・リーグ・日本ラウンドの3層でスポンサー枠を切れるので、売り物の数が増える。3つ目は、選手の露出が試合会場の外に出ること。広告会社がチームを持てば、所属選手がクライアントのキャンペーンに出る経路ができる。競技人口33万人のうち、実際に試合を見る人の数はまだ分かっていない。見る側の市場を作るには、コートの外で選手の顔が見える回数を増やすしかない。
懸念もある。興行の主管とチームの運営を同じ主体が持つと、自チームに有利な編成や露出が起きていないか、外から検証しにくい。MLP Asiaの主催はUnited Pickleball Association Asia Pte. Ltd.であり、両社の役割は日本ラウンドの主管に限られているが、日本の試合に関する判断の線引きは、1年目の運用を見ないと評価できない。
開幕戦の相手チームにも日本の選手がいる
見逃しやすいのは、日本勢がTeam Tokyoに集まっていないことだ。国際ドラフトの1巡4位では、嶋晴菜がManila Heliosに指名されている。嶋はクアラルンプールの大会後にパワーだけでは決まらない駆け引きについて語っていた選手だ。11月13日の日本ラウンド第一試合はTHE DOTS TOKYO対Manila Heliosなので、開幕のその日から、日本の選手が相手チームの側に立つ試合が組まれている。
これは国別対抗戦ではなく、都市名を冠したフランチャイズリーグだから起きる。応援の対象が国籍ではなくチームになる、という点で、日本の既存のスポーツファンの感覚と少しずれる。TBSと電通が作るべきものは、日本代表の応援ではなく「THE DOTS TOKYOのファン」である。そこが難所になる。
国内では、企業がチームを持つ動きが同時並行で進んでいる。PX LEAGUEは出場36人が確定し、6チームのオーナーにアシックス、グローブライド、Sansan、TBSテレビ、トランスコスモス、メルカリが並んだ。応募250人から36人が選ばれており、選抜倍率は約7倍。特別開催が2026年10月14日、リーグ戦第1節が11月22日、プレーオフが2027年4月4日という日程だ。TBSグループはPX LEAGUEのチームオーナーでもあり、国内リーグとアジアリーグの両方に席を持っている。11月は、MLP Asiaの日本開幕(13日)とPX LEAGUEの第1節(22日)が9日違いで並ぶ。同じ月に2つのリーグが始まる状態を、競技側がどう整理するのかは見えていない。
11月13日の日本ラウンドで何を見ておくべきか
MLP Asia 2026は6チームが参加し、各チームが1回だけホーム開催を持つ。ホームの夜は2試合を連続で行う方式で、プール戦は3週にまたがる6つの試合日で構成される。上位4チームが12月11日の準決勝に進み、12月12日に決勝を行う。
| Date | Round | 対戦 |
|---|---|---|
| 11月13日(金) | Japan | THE DOTS TOKYO 対 Manila Helios/THE DOTS TOKYO 対 Malayan Stripes |
| 11月14日(土) | Hong Kong | Hong Kong Canons 対 Viet Panthers/同 対 Dragon Warriors |
| 11月20日(金) | Philippines | Manila Helios 対 Dragon Warriors/同 対 Hong Kong Canons |
| 11月21日(土) | Vietnam | Viet Panthers 対 Malayan Stripes/同 対 THE DOTS TOKYO |
| 11月27日(金) | China | Dragon Warriors 対 THE DOTS TOKYO/同 対 Viet Panthers |
| 11月28日(土) | Malaysia | Malayan Stripes 対 Hong Kong Canons/同 対 Manila Helios |
| 12月11日(金) | Semifinals | 上位4チーム |
| 12月12日(土) | Final | — |
日本ラウンドの会場は、発表時点では公表されていない。チケットの売り方、観客の入れ方、会場の広さは、見る市場を作る初年度の実力がそのまま出る部分なので、追加発表を待つところだ。参加6チームはTHE DOTS TOKYO(日本)、Dragon Warriors(中国)、Manila Helios(フィリピン)、Viet Panthers(ベトナム)、Hong Kong Canons(香港)、Malayan Stripes(マレーシア)。
Summary
チームの所有と興行の主管を放送局と広告会社が同時に握ったことで、日本のピックルボールは「やる人を増やす」段階から「見る人を作る」段階の実験に入った。国際ドラフトの上限が1チーム25万ドルという立ち上がりのリーグに、映像と広告の売り方を持つ2社が乗った形だ。
追うべき点は3つある。1つ目は11月13日の会場と観客数。会場規模と実際の入りが、初年度の需要の現実値になる。2つ目は中継の形。地上波か配信か、無料か有料か、どの枠に乗るかで、両社が見ている市場の大きさが分かる。3つ目は、相手チームに日本の選手がいる試合をファンがどう受け止めるか。開幕戦のManila Helios戦が最初の例になる。
プレーヤー側にできることは単純だ。日本ラウンドの会場発表を追い、チケットが出たら1試合見に行く。会場でトッププロの速度を体感してから、自分の練習に何を持ち帰るかを決める。競技人口33万人という推計の精度を議論するより、その日に何人が客席にいたかのほうが、この競技の次の1年を決める数字になる。
Sources
- PR TIMES「TBS と電通グループが共同でプロピックルボールチーム「THE DOTS TOKYO」を設立し、アジア最高峰プロリーグ「MLP Asia 2026」に参戦」
- Dentsu Group Inc.「TBS and dentsu Jointly Establish Pro Pickleball Team “THE DOTS TOKYO” to Compete in Asia’s Premier League MLP Asia 2026」
- MLP Asia「DOMESTIC DRAFTS CONFIRMED FOR MLP ASIA 2026」
- MLP Asia「2026 ROSTERS SET AS INTERNATIONAL DRAFT CLOSES」
- The Dink Pickleball「MLP Goes Global: A Look at MLP Australia and the Debut of MLP Asia」
- PR TIMES「【日本のピックルボール市場調査2026】競技人口33万人、潜在1,189万人―”36倍の成長余地”が示す成長初期市場」
