フィリピン中部、イロイロ州ティグバウアンの海沿いの町に生まれた新しいピックルボール施設「Centerfield Pickleball」が、開場からわずか3カ月の2026年7月4日、80人近くを集めた開業記念トーナメントを2日間の日程で開いた。人口7万に満たない地方の町で、コートを建てたその勢いのまま大会を打ってコミュニティを立ち上げる。アフリカでジンバブエが二都市で連続開催して競技の空白地帯に根を張った動きとも重なるこの手法は、施設を作っても人が集まらないという日本の地方運営者の悩みに、一つの実例で答えている。
開場3カ月、2日間で80人が集まった
Centerfield Pickleballがあるのはイロイロ州ティグバウアンのパララ・ノルテ地区。州都イロイロ市から南西へ約23キロ、人口6万5千人ほどの二級自治体に立つ、できたばかりのコートだ。オープンから3カ月という段階で、施設側はいきなり自前の記念大会を組んだ。
大会は7月4日から2日間。参加者は80人近くにのぼり、ビギナー部門とアドバンス部門の2カテゴリーに分けたうえで、準々決勝からは両部門をまたぐクロスオーバー方式を採用した。初心者と経験者を最初から同じ会場に混ぜ、レベルの近い者同士で当てながら上位でぶつける組み方で、地方の小さな大会でありながら「誰でも出られて、しかも勝ち上がれば強豪と当たる」設計になっていた。
家族経営が押し出す「誰にでも居場所がある」
この施設の色を決めているのは、運営に立つ人の顔ぶれだ。オーナーはBinky Pitogo-TorrentoさんとCy Torrentoさんの夫妻。コーチとして現場を支えるのはBinkyさんの兄弟であるBryanさんとBib Angeloさんで、二人はPGA公認のレベル1コーチ資格を持つ。身内でコートと指導を回す、地方によくある小規模事業の形である。
その運営陣が繰り返し掲げるのが「年齢・技量・性別・背景を問わず、Centerfieldには誰にでも居場所がある」という一言だ。実際に集まるプレーヤーは5歳前後の子どもから60代以上まで幅広い。競技志向のクラブというより、町の公民館に近い開かれた場として立ち上げているところに、この施設の狙いが表れている。開業記念という機会に、腕試しの大会と初心者の入り口を同じ日に用意したのは、その思想と地続きだ。
数字で見るフィリピンの普及速度
ティグバウアンの一施設の動きは、フィリピン全体で起きているコート増設の波の末端にある。全国規模の数字と、今回の地方施設の数字を並べてみる。
| Item | Details |
|---|---|
| SM Active Hubのコート数 | 全国86面(29モール/2026年5月時点) |
| SM系コミュニティ会員 | 13万人以上 |
| 同ネットワークの大会・イベント | 累計100件以上 |
| Centerfieldの開業からの経過 | 約3カ月で記念大会を開催 |
| 記念大会の参加者 | 80人近く(ビギナー/アドバンス2部門) |
| ティグバウアンの人口 | 約6万5千人(2024年) |
大手小売のSMグループが全国29モールに86面を並べる一方で、州都から車で30分ほどの町にも独立系のコートが立ち、開いてすぐ80人を動かせる。フィリピンのピックルボール連盟(PPF)は2026年1月から国内ランキング制度を走らせており、都市部の商業施設と地方の草の根が上下でかみ合い始めている段階だと分かる。
コートに残った言葉
大会をめぐる当事者の言葉と結果を拾うと、この場が競技結果より参加のすそ野を重んじていることが読み取れる。
- 運営陣——「年齢も、技量も、性別も、背景も関係ない。Centerfieldには誰にでも居場所がある」と、施設の姿勢を繰り返し表明
- ビギナー部門はVince Lonie OrquinazaさんとArne Jane Calfoforoさん組が優勝。初心者向けの部でも正式にペア戦の頂点を用意した
- アドバンス部門はJanrei AlidoさんとJoshua Ryan Traviñaさん組が制し、経験者にも本気で競える枠を並走させた
指導役の兄弟が指導資格を持つことも含め、遊びの場でありながら勝ち負けと指導の質を捨てていない。ここが、単なる体験会と一線を画すところだ。
日本の地方施設が学べる3点
コート不足に悩みつつ地方への普及を模索する日本の運営者にとって、イロイロの小さな事例には見過ごせない要素が3つある。
First,「開業=即大会」でコミュニティを立ち上げる速さだ。日本では新設コートがまず個人利用や体験会から始め、大会は会員が育ってから、という順序をたどりがちだ。Centerfieldは逆に、開いて3カ月で大会を打ち、その2日間で80人分の名前と連絡先、そして「また来たい」という動機を一気に集めた。東南アジアでは初心者を9カ月で全国決勝へ引き上げるベトナムの育成リーグ設計のように、入り口と競技の場をあえて早い段階で接続する例が目立つ。大会を「ご褒美」ではなく「集客装置」として先に置く発想は、日本の新設施設がそのまま真似られる。
Second,人口7万未満の町でも草の根は成立するという実証である。日本の地方施設は「そもそも母数が足りない」と足踏みしがちだが、ティグバウアンは州都近郊とはいえ地方の町だ。そこで独立系のコートが開業初期から2部門の大会を成立させた事実は、商圏人口の小ささを言い訳にできないことを示す。四国でも松山の24時間ジムが専用コートを開いて新拠点になったように、日本の地方でも器はできつつある。足りないのは箱ではなく、開けた初日に人を巻き込む仕掛けの方だ。
Third,家族経営とレベル分けの両立だ。夫妻が運営し兄弟が有資格コーチとして教える体制は、少人数でも回せる地方型のモデルそのものである。そのうえで初心者部門と経験者部門を分け、準々決勝で交わらせた。間口を最大化しながら競技性も捨てないこの二段構えは、家族や少人数で施設を回す日本の地方運営者にとって、そのまま運営設計の参考になる。
施設・大会の基本情報
| Item | Details |
|---|---|
| Facility Name | Centerfield Pickleball |
| Location | フィリピン・イロイロ州ティグバウアン、パララ・ノルテ地区 |
| Location | 州都イロイロ市の南西約23キロの海沿いの町 |
| Operator | Binky Pitogo-Torrento&Cy Torrento夫妻/コーチはPitogo兄弟(指導資格保持) |
| 記念大会 | 2026年7月4日から2日間・80人近く参加 |
| Division | ビギナー/アドバンス(準々決勝からクロスオーバー) |
まとめ——箱より「初日の仕掛け」を用意できるか
ティグバウアンの事例が突きつけるのは、コートという箱そのものより、開けた初日に人をどう巻き込むかという運営の設計力だ。人口7万に満たない町の家族経営コートが、開業3カ月で80人を動かし、初心者と経験者を同じ会場で走らせた。日本の地方運営者が次に確かめるべきは3点ある。新設コートで体験会と小さな大会を同じ日に組めるか。初心者部門を正式に用意して勝ち負けの喜びまで届けられるか。そして少人数でも有資格の指導を置けるか。自地域で新しいコートが立つニュースを見たら、開業日の運営内容にまず目を向けてみてほしい。箱の数より、その日の設計に普及の速度が表れている。
