ソウル市の象徴であるヘチ(해치)のデザインを載せたピックルボールパドル2種が、10月7日に韓国で発売された。出したのはワウマネジメントグループ。大韓ピックルボール協会のマーケティングを請け負い、漢江公園クァンナル・ピックルボール場の14面を運営している会社だ。2種ともハニカムコアのワイドボディで、子どもや女性、入門者が扱いやすい軽量モデルとして作られている。販売先は同社のピックルボール専門ショッピングモール「ヘピクル」と主要オンラインモール、そしてソウル市公式土産店「ソウルマイソウル」(DDP・ソウルギャラリー店など)。
キャラクター商品の発売というだけなら、日本のプレーヤーには遠い話だ。ただしこの一件は、土産の棚とコートの予約枠が同じ会社の中でつながっている。日本の施設運営者が見るべきはパドルの絵柄ではなく、そのつなぎ方のほうにある。

ライセンス契約の相手はソウル市ではなく、ポロロを持つアイコニックスだった
起点ニュースの見出しだけを読むと、ソウル市が自分でパドルを作って市の土産店で売り出したように見える。実際の契約関係は一段違う。ワウマネジメントグループが結んだのは、ソウル市から商業的権利を与えられている㈱アイコニックスとのヘチ(HECHI)キャラクターのライセンス契約だ。市は権利の出し手であって、商品の作り手でも売り手でもない。
アイコニックスは「ポロロ」を抱える韓国のキャラクター企業で、ヘチの商業窓口を担っている。2026年7月には、2005年からポロロの歯みがき・歯ブラシのライセンスを持っていたケイエム製薬が、同じアイコニックスからヘチの歯みがき・歯ブラシのライセンスを取得したと発表している。自治体キャラクターを、カテゴリーごとに専門のライセンサー経由で民間に出していく運用がすでに回っているということだ。

日本でこの型をなぞろうとすると、最初の問いは「自治体に使わせてもらえるか」ではなく「その絵柄の商業権を誰が持っているか」になる。市の広報課に聞いても答えが出ないケースがある、という話でもある。
パドルを売る会社が、漢江の14面と10月3日に開いた石村湖の1面を運営している
ワウマネジメントグループはパドルブランドではない。2025年7月に大韓ピックルボール協会のマーケティング代行契約を結び、2026年3月にはソウル市が実施した運営事業者入札を通って、漢江公園クァンナル・ピックルボール場の運営権を取った。韓国最大規模の14面で、運営期間は2029年4月までの3年間。4月16日から一般開放され、利用はソウル市の公共サービス予約サイト(yeyak.seoul.go.kr)経由になる。
10月3日には、松坡区の石村湖のそばに屋内施設「ヘピクル石村湖店」を開けた。コート1面と用具販売店を備え、コート貸し出しとレッスンの両方を受ける。ヘチのパドルが発表されたのは、その4日後だ。
並べると、同じ会社が協会のマーケティング権、ソウル市の公募コート14面、自前の屋内1面、自前のオンラインモール、そして市の公式土産店の棚を同時に持っている。観光客がDDPでパドルを買い、漢江のコートで打つところまで、入金先が途中で切れない。会社側はこれを「ソウルを見て楽しむ観光」から「ソウルで直接スポーツを体験する観光」への拡張と説明している。2026年5月には協会がアスポーズとスポーツIT分野の後援契約を結び、同社も加わってAR活用コンテンツや学校連携プログラムの開発を進める枠組みを作っている。
DDPで一番売れたソウル土産は3,000ウォンのステッカー50種だった
価格は、どの報道にも出ていない。聯合ニュース、ソウル新聞、スポーツワールド、ノーカットニュースのいずれもパドル2種の価格と生産本数に触れていない。10月13日時点で未公表のままだ。
代わりに、ソウル市自身が出した売れ筋のデータがある。市は9月23日、DDPデザインストアとソウルマイソウルショップ、オンライン販売チャネルで集めた1〜7月の外国人購買データから「ソウルグッズTOP10」を初めて公開した。DDPデザインストアの販売1位は3,000ウォン(1,000ウォン=約119円、2026年10月12日のレートで約360円)の「ソウルステッカーコレクション50種」。4大門・4大宮のはがき、コンコンイのはがき、南山と光化門のマグネットと、1万ウォン未満の小物が上位を埋めた。鍾路・明洞・光化門・江南駅・汝矣島漢江公園・ソウルギャラリーの6店舗では、ヘチのランダムフィギュアやマグネット、ボールペンといった1万ウォン台が動いた。オンラインの1位はヘチのプレイングカードだった。
高い価格帯がまったく売れないわけではない。小商人と組んだ99,000ウォン(約11,800円)の「トゥルマギ雨がっぱ」は準備分が完売し、2月に開いたソウル市庁内のソウルギャラリー店では59,000ウォン(約7,000円)の風鈴螺鈿箱が継続して売れている。同店の外国人来店比率は22%を超えた。9月3日に伝統結びのブランドONGOと組んで出した63,000ウォン(約7,500円)のソウルマイソウル・ベルトキャップは、9月7日に日本人ユーザーがXへ投稿した着用写真が広告なしで270万回表示、いいね3万2,000件に届いた。
つまりソウルの土産棚で5万〜10万ウォンが通るのは、韓国らしさが見た目で分かって、その場で身につけられる物だ。パドルにはもう一つ条件が増える。買った人が旅程の中でコートと相手を見つけられること。だからこの商品は、土産店の棚だけでは完結しない。クァンナルの14面と石村湖の1面が同じ会社の管理下にある意味は、そこで効いてくる。
東宝監修のゴジラパドルは初回200本・4万4千円、ヘチは入門者向けの量販品
日本でも同じ月にIPパドルが出ている。東宝監修のゴジラパドル「GODZILLA CYCLONE」は、初回生産200本を10月3日に税込4万4,000円で売り出した。米AIREOの実戦モデル「Cyclone 2.0 16mm」をベースに、表裏で2種のゴジラを配し、購入はEC1人1本・店舗1人3本までに絞っている。競技用の価格帯にコレクション性を乗せた売り方で、JOOLAの競技者向け「Pro V」が日本で税込5万600円だから、ほぼ並ぶ。買うのは、すでにパドルを持っている人である。
ヘチのパドルは逆を向いている。ハニカムコアのワイドボディ、軽量、打球の許容範囲が広い。子ども・女性・初心者が最初に握る1本という設計で、限定本数の話も出ていない。同じ「キャラクター×パドル」でも、ゴジラは作品のファンに売り、ヘチはソウルに来た人に売る。在庫計画も、売り場も、必要な本数も別物になる。
韓国の小売側は、ラケットスポーツが人を呼ぶという判断をすでに済ませている。FILAがモールの3階を常設の競技スペースに変えた韓国初の小売施設内公式コートは、売り場の面積をコートに割り当てた例だ。土産店の棚にパドルを置くのは、その延長線上にある。
都庁の体験会は12日間で終わるが、土産店の棚は通年で残る
東京側の動きと並べると、違いが見える。都庁の都民広場で10月と11月の計12日間おこなわれるピックルボール体験は、会期が決まったイベントだ。人を集めて競技に触らせるところまでは同じで、11月29日に終われば広場は元に戻る。ソウル側は、市のキャラクターを民間のライセンス経路で用具に載せ、公式土産店の棚という常設の場所に置いた。そして打つ場所を同じ会社が持っている。
日本の施設運営者がこの構造から取れるのは、物販の粗利ではなく、そのあとのコート1時間だ。パドル1本の利益は限られる。買った人が「どこで打てるのか」を探した先に自分のコートがあるかどうかが、収益の形を決める。地元のキャラクターを使いたいなら、順番は商業権の所在を確認してから、土産物の販路がスポーツ用品を扱えるかを見て、最後に送客先のコートを押さえる。逆順でやると、絵柄の許諾は取れても打つ場所がない。
ソウルに行く日本のプレーヤー向けの実務情報としては、クァンナルの14面はソウル市の公共サービス予約サイトから申し込む。石村湖のヘピクル石村湖店は1面で、コート貸しとレッスンを受け付けている。ヘチのパドル自体はヘピクルのオンラインモール、主要オンラインモール、ソウルマイソウルの公式土産店(DDP、ソウルギャラリー店など)に並ぶ。価格は現時点で公表されていないので、現地の棚で確認することになる。石村湖の1面が開いてから、棚にパドルが並ぶまでは4日しか空いていない。
参照元
- 聯合ニュース「ソウル市キャラクター『ヘチ』を載せたピックルボールパドル発売」
- スポーツワールド「ソウル市キャラクター『ヘチ』ピックルボールパドル発売」
- ソウル新聞「『ヘチ』デザインのピックルボールパドルでソウルのコートを体験」
- ノーカットニュース「ピックルボール、ソウルの象徴ヘチとコラボ」
- 聯合ニュース「石村湖のそばに屋内ピックルボール場、10月3日開業」
- ハンギョレ「ソウル・クァンナル漢江公園に国内最大のピックルボール場、16日開業」
- 聯合ニュース「ワウマネジメント、漢江公園クァンナル・ピックルボール場の運営事業者に選定」
- 聯合ニュース「大韓ピックルボール協会、アスポーズと『スポーツIT部門』公式後援契約」
- ニューシス「ソウル市の記念品、日本のSNSで270万回表示」
- ソウル経済「ソウル市が外国人購買データからソウルグッズTOP10を公開」

