2026年10月4日、米ネバダ州ラスベガスのダーリング・テニスセンターで、PPAツアー「Rate Las Vegas Open」の決勝5種目がおこなわれた。男子シングルス決勝は第19シードのベン・ジョンズを、ハンター・ジョンソンが11-1、11-3で退けた。ジョンソンはこの試合までジョンズに生涯0勝6敗。その相性が一夜で裏返り、ジョンズは同じ日曜に決勝3つを戦って3つとも落とした。世界ランキング1位の選手が11点ゲームで1点に抑えられるスコアは、調子の波だけでは説明がつかない。男子シングルスの顔ぶれと戦い方が、この1年で入れ替わっている。日本のプレーヤーにもクラブ運営者にも、ここから持ち帰れる数字がいくつもある。

ベン・ジョンズが同じ日曜に決勝3つを落とした
大会は9月28日から10月4日まで。PPA公式の決勝レポート(10月5日公開、執筆はジム・ラムジー)によると、ベン・ジョンズは男子シングルス、男子ダブルス、ミックスダブルスの3決勝に進み、すべて銀メダルで終えている。第1シードで入った男子ダブルスとミックスはどちらも落とし、第19シードの男子シングルスでも敗れた。なおジョンソンのシード番号は出典で食い違う。公式の決勝レポートは「(1) Hunter Johnson」と第1シードで表記しているが、公式の大会プレビューとThe Dink・pickleball.com・ExpertPickleballの3媒体は第3シードとしている(この整理では第1シードはクリス・ハワースでベスト16敗退)。下の表は公式レポートの表記を併記した。
| 種目 | 優勝 | 準優勝 | スコア |
|---|---|---|---|
| 男子シングルス | ハンター・ジョンソン(公式レポートは第1シード/プレビューと複数媒体は第3シード) | ベン・ジョンズ(第19シード) | 11-1, 11-3 |
| 男子ダブルス | クリスチャン・アルション/アンドレイ・デスク(第2シード) | ベン・ジョンズ/ゲイブ・タルディオ(第1シード) | 11-6, 12-10 |
| ミックスダブルス | アナ・ブライト/ヘイデン・パトリキン(第2シード) | アナ・リー・ウォーターズ/ベン・ジョンズ(第1シード) | 11-9, 11-7 |
| 女子ダブルス | アナ・ブライト/アナ・リー・ウォーターズ(第1シード) | タイラ・ブラック/キャサリン・パランテー(第2シード) | 11-8, 10-12, 11-5 |
| 女子シングルス | ケイトリン・クリスチャン(第2シード) | キオラ・クニモト(第5シード) | 11-8, 2-11, 11-4 |
男子ダブルス決勝の第2ゲームは、PPA公式が12-10、The Dink や ExpertPickleball など複数媒体が11-8と記録している。ここでは公式の数字を採った。アルション/デスク組はこれで組んでからの5勝目、今季2勝目。ジョンズ/タルディオ組は2026年の初黒星で、17大会続いた決勝連勝が止まった。前回の決勝敗退は2025年5月のアトランタだった。
第19シードという数字はジョンズが弱くなったことを意味しない
世界ランキング1位のジョンズが、なぜシングルスで第19シードに置かれたのか。PPAのシード付けは種目別のポイントで決まるため、シングルスの出場を絞ればシングルスの持ち点が落ちる。ジョンズは2026年シーズン序盤の大会でシングルスをスキップしており、2月のメサ・カップで準優勝に入った以降も出場は限定的だった。PPA公式の大会プレビューは、第19シードのジョンズが世界ピックルボールランキングを根拠にベスト16から登場すると明記している。本誌が8月に報じたPPAの世界統一ランキングでは同性ダブルスの比重が50%に設定されていて、トップ選手が種目を選び始める下地はすでにできていた。シード19は、その選択の会計上の結果にすぎない。
一方で、勝てなくなっている事実は別にある。PPA公式プロフィールが示すジョンズのシングルス実績は42タイトル・108連勝という歴史的な数字だが、直近のシングルス金メダルは2025年5月のPPAアトランタ。The Kitchen Pickle は今大会の記事で「ベン・ジョンズがPPAツアーでシングルスのタイトルを取ってから1年以上が経つ」と書いている。ラスベガスでジョンズはダイラン・フレイジャー(ベスト16)、クリスチャン・アルション(準々決勝)、ジョン・ルシアン・ゴインズ(準決勝)を抜いて決勝まで来た。そこまでは従来どおり勝てる。決勝で11-1と11-3になるところが変わった。
対するハンター・ジョンソンは32歳。ニューメキシコ州タオス出身で、現在はテキサス州ニューブランフェルズ在住。南メソジスト大学(SMU)で奨学生としてNCAAディビジョンIのテニスを戦い、双子の兄弟イェーツと組んだダブルスは同校史上最多勝ペアとなった。ATPダブルスの自己最高ランキングは198位、プロテニスで14タイトルを挙げてから2022年にピックルボールへ転向している。今回がPPA通算10勝目、今季2勝目。PPA公式プロフィールでは10月上旬時点の世界ランキングが15位(WPR 3,367.5点)となっている。テニスのベースラインから来た選手が、シングルスのトップを食った構図だ。
クリーンウィナーの数と勝敗がほとんど噛み合っていない
PPA公式が各決勝で出した「クリーンウィナー(相手がラケットに触れずに決まった球)」の数を並べると、今大会の決勝は打ち勝った側が勝つ試合になっていない。
| 決勝 | クリーンウィナー | 結果 | 最長ラリー |
|---|---|---|---|
| 男子シングルス | ジョンソン 11 / ジョンズ 2 | 打ち勝った側が勝利 | 29球 |
| 女子シングルス | クニモト 18 / クリスチャン 9 | 打ち負けた側が勝利 | 13球 |
| 女子ダブルス | ウォーターズ 12 / 相手ペア合計 11 | ほぼ互角で第1シードが勝利 | 54球 |
| 男子ダブルス | アルション 10 / ジョンズ+タルディオ合計 9 | ほぼ互角で第2シードが勝利 | 44球 |
| ミックスダブルス | パトリキン 8(試合最多) | 第2シードが勝利 | 52球 |
いちばん極端なのは女子シングルスだ。キオラ・クニモトは18本のクリーンウィナーを決め、ケイトリン・クリスチャンの9本を倍近く上回った。それでも11-8、2-11、11-4で負けている。逆にクリスチャン側はベースラインドライブのミスが11本、クニモトは3本。つまり派手な決め球の数でも、ミスの少なさでも、勝った側が上回っていない。最長ラリーが13球しかない試合で、勝敗を決めたのは1本の質ではなく、どの場面でリスクを取るかという配分だった。
男子ダブルス決勝も同じ向きにねじれている。優勝したアルション/デスク組はボレーをネットにかけた回数が13。敗れたジョンズ/タルディオ組は4だった。ミスが3倍以上多い側が勝っている。ネットミスを減らす練習だけを積んでも、この試合には勝てなかったということになる。
種目ごとの最長ラリーの差も読んでおきたい。女子ダブルス54球、ミックス52球、男子ダブルス44球に対して、男子シングルスは29球、女子シングルスは13球。ダブルスとシングルスで、1ポイントにかかる時間が3〜4倍違う。練習メニューを種目別に分けていないクラブは、ここを見直す材料になる。
現地メディアは「シングルスがベンを置いて先に行った」と見ている
今大会を扱った媒体の読み筋は、偶然の番狂わせという説明を採っていない。
- pickleball.com のジム・クロス(10月5日)は、男子シングルスが読みにくくなっている理由を、キッチンラインでのボレー戦だけに頼らずベースラインに留まる選手が増えた戦術変化に求めている。
- The Kitchen Pickle(10月5日)は男子シングルスを「この競技でもっとも競争の激しい種目と広く見なされている」と位置づけた。
- ExpertPickleball(10月5日)はジョンソンの決勝を「週末でもっとも一方的な決勝のひとつ」と記述している。
- The Dink は今年1月14日の時点で、PicklePod 共同ホストのニコ・ザ・レフティの発言として「シングルスに関してはゲームがベンを追い越した。戦えるだけの力はあるが、勝てるだけの力はない」を掲載していた。同記事はアレックス・クラム、グレイソン・ゴールディン、ジョン・ルシアン・ゴインズ、クリス・ハワースといったシングルス専業組の台頭を挙げている。
1月の論評に名前が挙がったゴインズは、10月のラスベガスで実際にジョンズと準決勝を戦っている。トップ3シードの顔ぶれも入れ替わりが激しく、男子シングルスの第1シードだったクリス・ハワースはベスト32でアヌアール・ブラハムに14-12、11-9と競った末、次のラウンドで第14シードのルック・ファムに敗れた。第1シードがベスト16で消える種目になっている。
日本のクラブと選手が、この結果から持ち帰れる3つの数字

PPA公式のレポートには、プロの勝敗以上に使える統計が1つ混ざっている。6点時点(チェンジオーバー)でリードしていた側がそのゲームを取った割合だ。今大会は12ゲーム中10ゲーム。今季全体では40ゲーム中31ゲーム、77.5%になる。
これは練習と試合運びの両方に効く数字だ。11点ゲームでは一方が6点に達した時点でチェンジオーバーに入るため、この統計は「先に6点に届いた側がそのゲームを取る確率」とほぼ同じ意味になる。4ゲームに3ゲームは、序盤でついた差がそのまま残る。日本のクラブでよく見るのは終盤の競り合いを想定したメニューだが、同じ時間を使うなら6点までの入りを安定させる練習のほうが勝率に直結する。残りの22.5%にあたる逆転も起きているので、6点差をつけられた側が投げる理由にはならない。
2つめは、女子ダブルス決勝でタイラ・ブラック/キャサリン・パランテー組が記録した内容だ。PPA公式は、この2人がサーブ、リターン、サードショットのすべてをインに収めたと記録している。3種目のショットで0ミス。第2ゲームは一方が9-0と走ったあと12-10で決着し、ランキング1位ペアをフルゲームに持ち込んだ。入れるだけのショットで勝負になることを、世界最高峰の決勝が示している。アマチュアの試合でサーブとリターンのミスが1ゲームに3本あるなら、改善の余地はそこにしかない。
3つめは環境条件だ。ミックスダブルス決勝のファーストサーブ時点で気温は96度(華氏)、摂氏で約36度。52球のラリーがその条件下で出ている。日本の夏場のアウトドアコート運営で、何度までプレー可とするかの線引きを決めるとき、プロツアーが何度で何球のラリーを成立させているかは参照値になる。
日本勢の実戦ラインと用具側への波及
日本の読者に近いところでは、女子シングルス準優勝のキオラ・クニモトの経歴が示唆的だ。18歳、ハワイ島ヒロ出身、2025年にテニスからの転向でプロ入りし、今大会がPPAツアーでの初決勝・初メダル。PPA公式プロフィールでは10月上旬時点の女子世界ランキングが28位(WPR 2,268.125点)。準決勝では第1シードのケイト・フェイヒーを倒している。テニス経験者が1年半でPPAの決勝まで来るルートが、現役で機能していることになる。日本でも9月のアリゾナ大会でソフトテニス出身の船水雄太がジョンズ組を破って8強に入っており、ラケット競技からの転向組が国際舞台で結果を出し始めている。クニモトの歩幅は、その流れの中で見たほうが正確だ。
用具側にも見ておく点がある。PPA公式プロフィールに登録されているパドルは、ジョンソンが MEHAU S5 AIRPOOM、クニモトが Selkirk Project Boomstik Elongated。どちらも大手の看板モデルではなく、クニモトのモデル名はエロンゲーテッド(細長)形状を明示している。ただし決勝2試合の結果だけでパドル形状の優劣が決まるわけではないので、ここは仮説として扱うのが妥当だ。日本の代理店が確認すべきなのは、シカゴ以降の大会でベースラインからの打ち合いを主体にする選手が同じ傾向の形状を選び続けるかどうかで、それが数大会続いてから形状別の在庫比率を動かせばいい。
興行の側では、ベン・ジョンズという1人の名前に依存した売り方が通りにくくなる。本誌が7月に書いたMLPでジョンズが11-1で敗れた試合と、今回のシングルス決勝11-1は同じスコアだ。3か月の間に2度、世界1位が11点ゲームで1点に抑えられている。チーム戦でもツアーでも、エース1人を前面に出す構成の脆さが続けて露出した形になる。
大会の実務情報と次に追うべき日程
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 大会名 | Rate Las Vegas Open(PPAツアー) |
| 会期 | 2026年9月28日〜10月4日(決勝は10月4日) |
| 会場 | ダーリング・テニスセンター(米ネバダ州ラスベガス) |
| 決勝時の気温 | ミックス決勝ファーストサーブ時点で華氏96度(約36度) |
| 次戦 | Veolia Chicago Cup(10月5日〜11日、シカゴ近郊) |
| 次戦の優勝ポイント | 1,500ランキングポイント |
| 公式記録 | PPA Tour 公式サイトの決勝レポートと選手プロフィールページ |
ウォーターズについては、本誌が大会前に通算200タイトルへの条件を女子ダブルスとミックスの2冠と整理していた。結果は女子ダブルスだけを取り、ミックスで敗れている。The Dink と ExpertPickleball はこれで通算199タイトルに到達し、200にあと1つ届かなかったと記録した。節目の到達はシカゴ以降に持ち越しになる。なおPPA公式プロフィールはジョンズの通算タイトルを187としており、ウォーターズの199はすでにそれを上回っている。
ミックスを制したペアについても記録を押さえておきたい。ブライトとパトリキンは組んで3勝目で、ブライトは通算7勝目、パトリキンは4勝目。ウォーターズ/ジョンズ組を倒したペアは、これで5組目になる。同組にとって2月のメサ大会以来はじめての決勝敗退で、そのメサでも相手はブライト/パトリキンだった。パトリキンは大会期間中に21歳の誕生日を迎えている。
まとめ:6点までの入りと、サーブ・リターンのミス数から手を付ける
ラスベガスの結論を1行にすると、世界最上位の名前と当日の勝敗が切り離された、になる。第19シードが決勝3つに入り、そこで3つとも落ちた。クリーンウィナーが多い側もミスが少ない側も勝っていない。かわりに効いていたのは、6点時点でリードを持てたかどうか(今季77.5%)と、サーブ・リターン・サードショットを入れ切れるかどうかだった。
読者がこの週末から動かせることは3つある。第1に、自分のクラブの練習メニューを種目別に分け、シングルスは30球以内、ダブルスは50球級のラリーを想定した構成に組み替える。第2に、次の試合で6点までの得失点だけを記録してみる。終盤の記憶より、序盤の数字のほうが改善点を指す。第3に、サーブとリターンのミス本数をゲームごとに数え、1ゲーム1本以下に下げるまで他の技術練習を足さない。
施設事業者と代理店の側では、形状別のパドル在庫比率と、夏場の気温によるプレー可否の線引きを、この大会の記録を参照値にして一度書き直す価値がある。ツアーは10月5日からシカゴに移っており、優勝1,500ポイントの大会で男子シングルスの顔ぶれがもう一度入れ替わるかどうかが、次の確認点になる。
参照元
- PPA Tour:Championship Sunday Standout Stats from the Rate Las Vegas Open(Jim Ramsey、2026年10月5日)
- The Dink:Event Recap – All the Upsets from the 2026 PPA Las Vegas Open(Erik Tice、2026年10月5日)
- pickleball.com:Upsets are the big story of PPA Las Vegas(Jim Kloss、2026年10月5日)
- The Kitchen Pickle:PPA Tour Las Vegas Open – Ben Johns goes 0-for-3 in finals(2026年10月5日)
- ExpertPickleball:Stunning Upsets Highlight The PPA Las Vegas Open(2026年10月5日)
- The Dink:Opinion – Ben Johns Won’t Win Another PPA Singles Title(Alex E. Weaver、2026年1月14日)
- PPA Tour:Hunter Johnson 選手プロフィール
- PPA Tour:Kiora Kunimoto 選手プロフィール
- PPA Tour:Ben Johns 選手プロフィール

