インドのピックルボールが、トップ選手の発掘より先に「コート・指導者・学校」を整える方向へ舵を切った。国家連盟として公認されたインド・ピックルボール協会(Indian Pickleball Association、IPA)が、公認以降150を超える大会を主催し、学校との連携と国産の用具検査所づくりで裾野を広げている。プロリーグの派手さで語られがちなインドの動きを、制度づくりの側から追うと、選手数の急増で沸く日本とは異なる普及モデルが見えてくる。
国家連盟公認から150大会超、PWR50〜1000でランキングを回す
IPAは2025年4月、インドのスポーツ・青少年省から国家スポーツ連盟(National Sports Federation、NSF)として公認された。これによりIPAは、競技の統括・普及・育成を国内で担う立場を得た。公認以降に主催・サンクションした大会は150を超え、規模に応じてPWR50からPWR1000までのカテゴリーに格付けされている。国内初の全国選手権も開催され、プロリーグ「インディアン・ピックルボール・リーグ(IPBL)」も立ち上がった。
IPA会長のスルヤヴィール・シン・ブラー氏は、Pickleball News Asiaに対し「ランキング制度を導入し、コーチとレフェリーの認定を始め、PWRの枠組みで大会を実施してきた」と述べている。大会を単発の盛り上がりで終わらせず、ランキングと認定という土台に接続している点が、この半年の動きの核にある。
学校とコートを先に置く「積み上げ型」の中身
普及の入口として、IPAは教育現場を選んだ。スポーツ教育事業のThe Sports Gurukulと組み、全国規模の学校対抗選手権を始める計画で、この提携は500以上の教育機関、20都市以上への展開を掲げている。あわせて、CBSE(中等教育中央委員会)の学校スポーツや国の育成事業「Khelo India」への組み込みも協議中だという。
地域の広がりも数字より地図で語られる。ブラー氏は「以前はグジャラートとマハラシュトラが優勢だったが、その構図は急速に変わっている」と話す。北東部が新たな拠点として台頭し、ジャンムー・カシミール、西ベンガル、タミル・ナードゥ、カルナータカでも競技人口が増えている。テニス経験者の転向も、この裾野拡大を後押ししている。会長の言葉を借りれば、方針は「コートを作り、コーチを育て、道筋を先に用意する。チャンピオンは後からついてくる」だ。
国産パドル検査所で「海外承認頼み」を断つ狙い
用具の面でも国内完結を目指す動きがある。IPAは米国のUSA Pickleballと組み、インド初のパドル検査・認証ラボを整備中で、年内の稼働を見込む。狙いは、パドルの公認を海外機関に頼る現状を解消し、国内で検査・認証を完結させることにある。
大会数やランキングが「競技の運営」を整える動きだとすれば、検査所は「用具の信頼性」を国内で担保する動きだ。海外承認を待つ時間とコストは、地方の大会運営やメーカーの参入障壁になりやすい。国内ラボが機能すれば、インド製パドルの流通や、規格に沿った国産用具の開発が動きやすくなる。競技の普及と用具産業の育成を同じ線でつなごうとする発想が、ここに表れている。
公認の裏にあるIPAとAIPAの主導権争い
この積み上げには、団体間の対立という背景がある。2008年から活動してきた全インド・ピックルボール協会(All India Pickleball Association、AIPA)は、自らが国内に競技を持ち込んだ立場だとして、IPAへのNSF公認に強く反発した。AIPAは、3年以上の活動実績を求める2011年の国家スポーツコードに反すると主張し、公認の見直しを求めてきた。
争いは法廷に持ち込まれたが、報道によれば、デリー高裁はAIPAの申し立てを退け、IPAはNSFの立場を維持している。国家連盟が一本化されないままでは、大会の格付けも用具規格も二重になりかねない。IPAが大会・学校・検査所を矢継ぎ早に進める背景には、公認団体としての実績を積み上げ、統括の正統性を既成事実にしていく狙いも透ける。用具面でも、AIPA側が別の認証ラボを立ち上げるなど、対立は運営から規格の領域にまで及んでいる。
選手数で沸く日本、制度で足場を固めるインド
同じ成長期でも、日本とインドでは足場の作り方が対照的だ。日本は競技人口の爆発が先行した。当サイトの日本のピックルボール事情を分析した記事では、プレー人口が2024年の約6,000人から2025年に約45,000人、2026年には約33万人と推計され、需要の急増に組織が追いつく形で動いてきた。統括団体も、日本ピックルボール協会(JPA)とピックルボール日本連盟(PJF)が2026年4月14日に統合し、「ピックルボールジャパン(PJ)」として一本化されたばかりだ。
一方のインドは、公認・ランキング・学校連携・国産検査所という制度の骨格を先に組み、そこへ選手を流し込もうとしている。プレー人口の勢いで押す日本と、統括の枠組みで足場を固めるインド。どちらが速いかは、これから数年の大会数と学校導入の伸びで検証されていく。世界規模での広がりは、当サイトの国際トーナメント一覧や、オリンピック競技化の可能性を扱った記事とあわせて見ると、各国の動きの違いがつかみやすい。
インドの試みが機能するかは、年内に稼働予定のパドル検査所と、20都市以上に広げる学校選手権が、次の1年でどれだけ実数を伸ばすかにかかっている。トップ選手より先にコートと指導者を数える国が、どんな競技人口の曲線を描くのか。日本の急増モデルと並べて追いかける価値のある実験だ。
参照元
- Pickleball News Asia「IPA Charts Ground-Up Pathway for Pickleball’s Next Phase in India」(2026-08-05)
- The Tribune「Indian Pickleball Association condemns AIPA’s misrepresentation」
- LawChakra「Delhi High Court Dismisses AIPA Challenge, IPA Remains National Sports Federation」
- Business Upturn「The Sports Gurukul and IPA Align for Landmark National Inter-School Pickleball Championship」
- ピックルタイムス「日本のピックルボール事情を分析|普及状況と今後の展望」

