インドのピックルボールは、この1〜2年で「増えている」という話を抜けました。予約サービスの掲載数、政府によるNSF認定、都市フランチャイズ制のプロリーグ、インド発のパドルブランド。数えられるものが一通り揃っています。
一方で、全国を名乗る団体が2つ並び立ち、認定をめぐって裁判で争っている、という事情も同時に進行しています。どちらの「公認」かで大会の意味が変わるため、ここを曖昧にしたままインドの話をしても実態に届きません。
この記事では、施設数・競技団体・プロリーグ・選手・用具の5点を、公式サイト・公的文書・予約サービスの公開データ・報道で確認した範囲だけで整理します。数字は項目ごとに出どころを併記します。都市ごとの施設一覧や用具ブランドの詳細はインドのピックルボール事情にまとめています。

この記事でわかること
- インドに施設がどれだけあり、どの都市に偏っているか
- 全国団体が2つある理由と、政府が認定したのはどちらか
- プロリーグ3本(WPBL・IPBL・CCPL)と、どちらの団体の系列か
- 名前で追える選手と、代表の送り方
- インド発の用具ブランドがどこまで来ているか
- 日本とインドがどこで接しているか
数字で見るインドのピックルボール
最初に全体像を表で押さえます。出典と取得時点は各項目に付けました。
| 項目 | 数字 | 出どころ |
|---|---|---|
| 予約サービス 掲載施設 |
1,118件 | Playo掲載分を 編集部が集計 (2026年9月) |
| コート数 | 約200面→ 1,200面 |
IBEF (2024年初→ 2025年前半) |
| 選手数 | 3万〜6万人 (2024年) |
IBEF掲載 ※同記事内でも 数字が割れる |
| DUPR 新規ユーザー 12カ月の伸び |
182% (日本は170%) |
DUPR集計を The Kitchenが掲載 |
| コート1面の整備費 | 30万〜50万 ルピー |
IBEF |
| USA Pickleball 公認パドル |
インド勢は2社24件 | 公認一覧を 編集部が照合 (2026年9月18日) |
「掲載施設1,118件」と「コート1,200面」は別の集計です。前者は予約サービスPlayoに載っている施設の件数(2026年9月・編集部集計)、後者はIBEFが示すコート面数(2025年前半)で、調査時期も数える単位も違います。1施設に複数面あることも、Playoに載っていない施設もあるため、この2つを割り算して読むことはできません。
選手数は、どこを見ても数字が揃いません。IPAは「選手50,000人超」、AIPAはAboutページで「選手10,000人超」、トップページで「アマチュア・ユース50,000人超」と、同じサイトの中でも食い違います。第三者の数字としてはIBEFの記事がありますが、これも他媒体の集計を引いたもので、同じ記事の中に「アマチュア約3万人+登録選手8,000人(18州)」と「2024年に6万人」が併存しています(2028年に100万人という見通しも同記事)。どれかを「インドの競技人口」として単独で使うのは避けたほうが無難です。
1. 施設は1,118件、南部に偏っている
インドのスポーツ施設予約サービスPlayoに、ピックルボールができる施設として載っているのは1,118件です(主要36都市、2026年9月に編集部が集計)。Playoに載っていない施設もあるため下限の数字ですが、都市ごとの偏りははっきり出ます。
ハイデラバードだけで234件
- ハイデラバード(テランガナ州)234件
- ベンガルール(カルナータカ州)190件
- デリー首都圏 157件
- プネ(マハーラーシュトラ州)102件
- チェンナイ(タミル・ナードゥ州)84件
- ムンバイ(マハーラーシュトラ州)79件
- アーメダバード(グジャラート州)60件
上位2都市のハイデラバードとベンガルールで、全体の約38%を占めます。デリー首都圏とムンバイという北・西の二大都市圏より、南部のほうが数が多い。都市別の施設はインドの施設一覧から見られます。
専用コートより「複合施設の一角」が多い
1,118件のうち、Playoが扱う競技名を載せているのは883件(残る235件は競技名の記載なし)。その883件の内訳は、ピックルボール専用として登録されているものが382件、複数競技を扱う施設が495件、ピックルボール以外の単一競技として登録されているものが6件です。併設で多いのはボックスクリケット327件、サッカー267件、バドミントン152件。ピックルボールの面は、複合施設の一角にあることのほうが多くなっています。
コートが安いことも効いています。IBEFの集計では、コート1面の整備費は30万〜50万ルピー。バドミントンコート(最大150万ルピー)よりはるかに安く作れます。
2. 全国団体が2つあり、政府が認定したのはIPA
インドの話で最初に確認すべきはここです。全国を名乗る団体が2つあり、どちらの公認かで大会の位置づけが変わります。
IPAが2025年4月にNSF認定を受けた
インド青年スポーツ省(MYAS)は2025年4月25日付の書簡で、Indian Pickleball Association(IPA)をNational Sports Federation(NSF)として認定しました。本部はアーメダバード。ただしこの認定は、スポーツ規程2011の「設立3年以上」「州組織の50%以上の地区団体加盟」といった要件を緩和したうえでのもので、2年間はNSF向け補助金の対象外とされています。
IPAは公式サイトで、プロ選手500人超、IPAランキング大会100件超、選手50,000人超、27州をカバーと表示しています(いずれも自己申告)。
AIPAは2008年設立、認定をめぐり係争中
All India Pickleball Association(AIPA)は、Sunil Valavalkar氏が2008年に設立した団体です。同氏がインドにこの競技を持ち込んだのも2008年とAIPAは記しています。2015年にInternational Pickleball Federation(IPF, USA)に加盟し、Asia Federation of Pickleballの創設メンバーでもあります。本部はムンバイ、会長はArvind Prabhoo氏。
AIPAはIPAのNSF認定を争っており、デリー高裁は2026年2月4日にAIPAの訴えを退けてIPAの認定を維持しました。その後2026年4月、デリー高裁の合議体でAIPAが「重要な救済」を得たとANIが報じています(AIPAのプレスリリースに基づく報道)。更新判断の前にAIPAに意見陳述の機会を与えるよう命じた、という内容です。
「政府公認」の書き方に注意がいる
AIPAの公式サイトは、Aboutページでは「政府とインドスポーツ庁の認定取得を目指している」と書きながら、トップページには「Recognized by Ministry of Youth Affairs」の表示も置いており、サイト内で表現が食い違っています。AIPAを「インド政府公認の団体」として紹介している日本語の情報を見かけたら、事実と違う可能性が高いと考えたほうが安全です。大会に出る予定があるなら、主催が名乗る公認の出どころまで確認してください。

3. プロリーグは3本、団体の系列で分かれている
都市フランチャイズ制のリーグが3つ動いています。注意したいのは、どのリーグがどちらの団体の系列かという点です。
| リーグ | 系列・運営 | 規模 |
|---|---|---|
| WPBL World Pickleball League |
AIPAと提携 Natekar Sports & Gaming |
ムンバイ 7チーム (第2シーズン) |
| IPBL Indian Pickleball League |
IPA公認 The Times Group |
初開催は 2025年12月 6チーム |
| CCPL Centre Court Pickleball League |
Centre Court Sports and Entertainment | ハイデラバード 8フランチャイズ |
WPBLはAIPAと提携し、IPBLはIPA公認を掲げる。団体の対立がそのままリーグの系列に出ています。
WPBL|ムンバイ・7チーム・ソニー系が出資
World Pickleball League(WPBL)は、Natekar Sports & Gamingが創設した都市フランチャイズ制リーグです。創業者は元テニス国内1位のGaurav Natekar氏とArati Ponnappa Natekar氏。AIPAと提携しています。
シーズン1は2025年1月24日から2月2日、ムンバイのBrabourne Stadiumで6チーム制。ドラフトは20カ国75人から48人を指名し、日本を含む14カ国の選手が出場しました。最終日を制し、ポイント表でも1位だったのはBengaluru Jawans。シーズン2はJio World Garden(ムンバイBKC)に会場を移し、Rajasthanが加わって7チームになっています。
資金面では、ソニー系のSETVI(Sony Entertainment Talent Ventures Inc.)が戦略・資金パートナーに入っています。
IPBL|メディア大手が作り、IPAが公認した
Indian Pickleball League(IPBL)は、新聞大手The Times Groupが立ち上げ、IPAが公認するリーグです。公式サイトは自らを「India’s first and only national franchise-based Pickleball league」と説明しています。
初シーズンは2025年12月。Bengaluru Blasters、Chennai Super Warriors、Capital Warriors Gurgaon、Hyderabad Royals、Lucknow Leopards、Mumbai Smashersの6チームで、総当たりのあと上位4チームがノックアウトに進む方式です。1つのタイは男子シングルス・男子ダブルス・女子シングルス・女子ダブルス・Grand Rallyの5試合で構成されます。決勝は2025年12月7日、ニューデリーのIGスタジアム内KD Jadhav Indoor HallでHyderabad Royals対Mumbai Smashersでした。
CCPL|ハイデラバード発、2026年10月17日開幕
Centre Court Pickleball League(CCPL)は、2025年にハイデラバードで始まったHyderabad Pickleball League(HPL)が前身です。8フランチャイズで始まり、運営のCentre Court Sports and Entertainmentがベンガルールへも展開しました。HPLシーズン1の決勝にはおよそ2,000人が集まり、Mavericksが4-3でAll Starsを下しています。
シーズン2は2026年10月17日にハイデラバードで開幕。選手オークションは2026年9月にタイ・プーケットで行われました。国内リーグの選手選考を国外で開く時点で、インドのリーグがアジア全体を見ていることがわかります。
4. 大会と代表の送り方
大会の数え方は団体によって違いますが、歴史はAIPA側が長く、第1回全国大会は2013年12月にムンバイで開かれています。2022年にはBainbridge Cup(World Cup)の第5回をムンバイのNSCIで開催しました。
AIPAはアジア・ジュニア選手権へ34人を派遣した
AFP主催の第3回アジア・ジュニア選手権に、AIPAは34人のジュニア代表を送り、U18女子ダブルスで金(Stuti/Anjali組)、U18女子シングルスで銀(Anjali Pol)、U12女子ダブルスで銅(Aadya/Keerthi組)を獲得しました。これは1大会での実績で、常時この規模を送っているかまでは確認できていません。
IPA側は年代別に冠スポンサーを付けている
IPAは2026年のPickleball World Cup(ベトナム・ダナン)へ代表を派遣し、14歳以下の冠スポンサーに創業1年のピックルボール専業プラットフォームPicklebay、18歳以下に財閥系のCosmic Birla Groupを付けました。年代ごとに企業が付くところまで来ています。
5. 名前で追える選手
Armaan Bhatia|国内初の大型大会で3冠
ムンバイ拠点の元テニス選手Armaan Bhatiaは、2024年10月にニューデリーのDLTAスタジアムで開かれたPWR DUPR India Mastersで、男子シングルス・混合ダブルス・男子ダブルスの3冠を取りました。男子シングルス決勝では米国のDusty Boyerを8-11, 11-9, 11-8で下しています。当時の報道は同選手を「アジア最上位ランク」と紹介しました。なお、PPA TourやMLPとの契約については公式サイトで確認できなかったため、ここでは触れません。
IPAランキングの上位
IPAのオープン男子シングルスのランキングには227人が掲載されています(2026年9月時点)。上位はArjun Singh(2,750pt)、Aman Patel(2,500pt)、Rashein Samuel(2,325pt)です。プロリーグができ、代表にスポンサーが付く一方で、ランキングに名前が載る選手はまだこの規模にとどまります。
6. 用具はインド発のブランドが増えている
市場の成熟度がいちばん見えるのが用具です。インドには現在、ピックルボール用具を出しているブランドが少なくとも8社あります。パドルの価格は木製の809ルピーから、最上位の14,999ルピーまで。
- 専業:Strokess(グジャラート州ヴァドダラ・自社のコートも運営)、Gliderz(マハラシュトラ州プネ)
- 総合スポーツ用品メーカー:Hundred、Nivia、Cosco、Vector X、Airavat
- 輸出メーカー:Vinex(メーラト・1957年から用具を作ると自社サイトに記載)
ただし「インドのブランド」と「インドで作っている」は別です。パドルの生産地まで明記しているのはGliderz(「100% of its paddles on Indian soil」)とStrokess(「Proudly Made in India」を自称)の2社。VinexとVector Xは自社を製造業者として工場の所在を公表していますが、ピックルボール用具をどこで作るかは名指ししていません。残る各社は、公式サイトで生産地に触れていませんでした(編集部が確認した範囲)。
USA Pickleballの公認パドル一覧(重複を除き5,336件の登録・1,382社。サイズや厚み違いは別の登録として数えられます)と照合したところ、名前まで一致したのはHundred(22件)とNivia(2件)の2社だけでした。一覧には「VECTOR X」名義の登録もありますが、インドのVector Xの現行品に同名モデルが見当たらず、同一メーカーと断定できないため数えていません。国内向けに売るぶんには公認を取らない選択も自然なので、公認の有無がそのまま品質差ではありません。ただし国際大会で使えるかの目安にはなります。
各社の拠点・価格・公認状況はインドのピックルボール用具ブランドに、その読み解きはインドのパドルは809ルピーから。USA公認は8社中2社だけにまとめています。

7. 日本とインドが接しているところ
ソニー系がインドのリーグに出資している
WPBLの戦略・資金パートナーであるSETVIは、米Sony Pictures Networkと日本のSony Musicの協業体です。日本の資本がインドのピックルボールリーグの背後にいる、という関係になります。シーズン1の試合結果には、Kenta Miyoshi、Aiko Yoshitomiという日本人選手の名前も残っています。
伸び率では日本も近いところにいる
冒頭の表に出したDUPRの伸び率は、インド182%に対して日本170%。施設の絶対数や団体の整備状況は違いますが、増え方そのものは似た速度です。違いはむしろ、リーグ・代表・用具メーカーといった周辺の産業が、インドでは同時に立ち上がっている点にあります。
インドの状況を読むときに押さえる4つ
- 団体名を正確に書く:政府がNSF認定したのはIPA、老舗のAIPAは係争中(2026年4月時点)。認定は2026年4〜5月が更新期にあたり、その後どうなったかは公的サイトで確認できていません
- 数字の出どころを分ける:選手数は団体の自己申告も第三者の集計も割れていて確定値が無い、コート数はIBEF、施設1,118件はPlayo掲載分
- 南部に偏っている:ハイデラバードとベンガルールで全体の約38%。デリーやムンバイの話だけでは実態を外す
- インド発の用具ブランドが8社ある:ただしパドルの生産地を明記しているのは2社、USA Pickleball公認を持つのも8社中2社
よくある質問
この記事に寄せられることの多い疑問をまとめました。
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参考リンク
- インド青年スポーツ省|IPAのNSF認定書簡(2025年4月25日)
- Indian Pickleball Association(IPA)公式
- All India Pickleball Association(AIPA)公式
- World Pickleball League(WPBL)公式
- Indian Pickleball League(IPBL)公式
- IBEF|Pickleball in India
- USA Pickleball 公認パドル一覧
※数字と公認状況は2026年9月17〜18日に各公式サイト・公的文書を確認した内容です。施設数はPlayo掲載分の集計で、掲載されていない施設もあります。

