都内7会場で予選を回してきた企業対抗リーグが、初めて東京の外へ出た。三井不動産が主催する「企業対抗ピックルボール&BIZ CUP」の地方初開催が、2026年8月7日(金)の夜、札幌市中心部の北3条広場「アカプラ」で行われた。会場はオフィスビルが並ぶ大通北側の公共広場。仕事帰りの時間帯にパドルの打球音が響いた、という構図そのものが、このリーグの狙いを言い当てている。
プレーヤーの立場から見ると、注目点は勝敗より「開催のかたち」にある。同一企業の男女混合チーム、平日夜、参加無料。この3つの条件が、日本でのピックルボールの広がり方を占う手がかりになる。
都内7会場の予選を経て、初の地方開催は札幌の平日夜だった
「企業対抗ピックルボール&BIZ CUP」は、2026年5月から7月にかけて東京都内の7会場で予選を実施してきた。会場は日本橋のコレド室町テラス大屋根広場、東京ミッドタウン日比谷、豊洲、東京ミッドタウン六本木、赤坂サカス広場、ゲートシティ大崎、八重洲周辺と、いずれも三井不動産が関わる都心の一等地である。約130社が参加し、頂点は2026年11月7日(土)に日本橋三井ホールで開く決勝大会で決まる。
札幌開催は、この予選ルートが東京を離れた最初の一戦にあたる。開催概要は以下の通り。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開催日 | 2026年8月7日(金) |
| 時間 | 18:00〜20:30(14:00〜17:00はフリープレー) |
| 会場 | 札幌市北3条広場「アカプラ」 |
| 参加費 | 無料 |
| チーム編成 | 同一企業から5〜8名(男女混合が条件) |
| 募集期間 | 2026年6月1日〜7月10日 |
| 主催 | 三井不動産株式会社 |
会場のアカプラは駅前通と北3条通が交わる位置にあり、周囲は道内企業の本社や金融機関が集まるオフィス街だ。屋外の広場を夕方から夜にかけて使う設定は、「仕事のあとに、同僚と数駅ぶんの距離で集まれる」という導線を前提にしている。
男女混合5〜8名・平日夜・無料という条件が語ること
参加条件を一つずつ読むと、これが競技志向のトーナメントではないことがはっきりする。まず「同一企業から5〜8名」。個人やペアで腕を競う一般的なピックルボール大会と違い、チーム単位でしか出られない。次に「男女混合が条件」。運動強度で男女差が出にくいピックルボールの特性を使い、営業も総務も、若手もベテランも同じコートに立てる設計になっている。
そして平日夜・無料。休日の遠征を求めず、就業後の2時間半に会場を寄せることで、運動習慣のない社員も巻き込みやすくする。用具はパドルとプラスチックボールだけ、コートはバドミントンより狭く、ルールは数分で覚えられる。テニス経験者でなくても初日から打ち合えるこの間口の低さが、企業の福利厚生イベントとして選ばれる理由になっている。
裏を返せば、勝ち上がりの本気度より「初参加のハードルを下げること」に設計の重心がある。トップチームには決勝大会経由でハレクラニ沖縄の宿泊券という景品も用意されるが、動機づけの主軸は賞品ではなく、社内外の人と体を動かしながら顔を合わせる時間そのものに置かれている。
三井不動産が「お節介な大家」を名乗る狙い
なぜオフィスの大家がスポーツ大会を主催するのか。三井不動産はこの取り組みを、テナントの賃料を集めるだけでなく入居後も伴走する「お節介な大家」という言葉で説明している。コロナ禍を経て在宅勤務が定着し、オフィスは机を並べる場所以上の価値を問われるようになった。そこで同社は、オフィスを「働く場」から人が「集う場」へ組み替える手段の一つにピックルボールを据えた。
この判断の背景には、実際の集客実績がある。三井不動産が関わる関連イベントは、2025年4月から9月の半年で延べ1万7,000人を集めたという。企業対抗という形式にしたのは、社内のチームづくりと、コート上での企業間交流という二つの効果を同時に狙えるからだ。同社は開催目的を「企業間交流の促進や新たなビジネス機会の創出を支援する」と明示している。ラケットスポーツが、名刺交換の代わりになりうるという読みである。
札幌開催は、この発想を東京の外へ持ち出せるかを試す一歩だ。三井のオフィスは札幌にも拠点を持ち、今回は市中心部の公共広場を舞台に、地方のオフィスワーカーへ同じ体験を届けた。都心の広場で通用したフォーマットが、道内の企業風土でも機能するのか——地方展開の初戦は、その実地テストという性格を帯びている。
競技人口2,000人から33万人へ、普及の受け皿は足りているか
企業がこうしたイベントを開けるようになった前提には、競技人口の急増がある。国内のピックルボール人口は2023年12月時点で約2,000人だったが、2025年には約4万5,000人、2026年には約33万人と推計され、1年で7倍近い伸びを見せている。日本のピックルボール普及状況と今後の展望を追うと、この伸びが東京圏に約66.5%と大きく偏っている点も見えてくる。札幌のような地方都市での企業イベントは、その偏りをならす動きとして意味を持つ。
ただし、参加人口の伸びに対して、常設で打てる場所は追いついていない。プレー人口が増えるほど、体験会の翌週に「では次はどこで打つか」という問いが残る。この受け皿づくりには企業側も動き始めており、名刺管理のSansanはゴルフに代わる投資としてピックルボールに注目し、東京・池袋に屋内外7面のSansan池袋ピックルボール施設を2026年7月開業予定で整備している。イベントで火が付いた関心を、日常のプレー機会へつなぐ設備投資が、イベントと並走し始めている。
札幌の企業対抗戦のような単発イベントは、この循環の入口にあたる。当日パドルを握った社員が、翌週も打てる場所へたどり着けるか。都内のコート情報の整理が進む東京圏に比べ、地方はまだコート情報そのものが薄い。イベントの数だけでなく、その受け皿の整備が地方普及の分かれ目になる。
札幌の夜が示した、東京の外への設計図
企業対抗ピックルボール&BIZ CUPの札幌開催は、単なる出張イベントではなく、都心で組み上げた「平日夜・無料・男女混合チーム」という型を、地方のオフィス街でそのまま動かせるかを確かめる試みだった。11月7日の日本橋三井ホールでの決勝に札幌のチームが名を連ねるのか、そして今回の一戦が仙台や福岡といった他の地方都市へ続くのか。オフィスの大家が仕掛けた地方初戦の反応は、企業スポーツとしてのピックルボールが東京圏の現象で終わるかどうかを占う材料になる。
参照元
- 三井不動産「『企業対抗ピックルボール&BIZ CUP』開催決定」https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2026/0407/
- &BIZ「企業対抗ピックルボール&BIZ CUP」大会ページ https://and-biz.jp/service/event/group/?event_campaign_id=833&sub_id=0
- マイナビニュース「『企業対抗ピックルボール』で描く、働く場の未来。」https://news.mynavi.jp/article/20250929-3496625/
- 日本経済新聞「Sansan、ゴルフに代わる『ピックルボール』に投資」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC130DS0T10C26A7000000/

