カリフォルニア州リバモアで、閉店した手芸チェーンJOANNの跡地が8面のインドア・ピックルボール施設に生まれ変わろうとしている。運営するのは夫婦フランチャイジー、Abhimanyu DhariwalとShreya Triviediの2人。ブランドは全米最大のインドア・フランチャイズ「Pickleball Kingdom」だ。リバモア市の計画委員会は6月16日、条件付き使用許可を4対0で承認した。空になった大型小売店をまるごとコートに転用するこの動きは、いまアメリカでピックルボール施設が増える最も現実的な回路になっている。日本でコート不足に頭を悩ませるプレーヤーや、施設運営を考える事業者にとっても、無関係な海の向こうの話ではない。
起点は「JOANN跡地」というありふれた空き箱
舞台はリバモア市4650 Arroyo Vista。ここには長らく手芸・生地チェーンのJOANNが入っていた。同社は2025年に2度目の破産手続きに入り、全米で約800店舗すべてを同年5月までに閉じている。DIY需要の一巡とオンライン化に押された、80年以上の歴史を持つチェーンの退場だった。その広く天井の高い空き箱が、今度はスマッシュの音が響く屋内コートに変わる。
計画では8面の予約制コートに加え、物販スペース、観戦用の一段高いギャラリー、ゲームルーム、コミュニティルーム、事務所、ロッカーやトイレを備える。営業は毎日午前6時から午後10時まで。オーナーのDhariwal氏は「妻と一緒にできるスポーツをずっと探していて、ピックルボールに出会った」と語っており、競技人口を押し上げてきた「夫婦・家族で楽しめる」という入口の広さがそのまま出店動機になっている。
審査を通したのは「木の葉のざわめき並み」の防音設計
この案件で審査上の焦点になったのは騒音だ。ピックルボールは硬いパドルで穴あきプラスチック球を打つため、テニスより高く硬い打球音が出る。米国では住宅地に近いコートで騒音トラブルが頻発し、訴訟や撤去に発展する例も少なくない。
リバモアの計画では、外壁に厚さ8インチ(約20cm)のメーソンリー(組積造)壁を用い、金属屋根には吸音材を入れる。営業中は扉を常時閉鎖する運用とし、その結果、施設外に漏れる音は20dBA程度と見積もられた。20dBAは「木の葉のざわめき」や「ピンが落ちる音」に例えられる水準だ。この設計と数値が示されたことで、計画委員会は反対なしの4対0で許可を出した。屋内・厚壁・扉閉鎖という三点セットを最初から設計に織り込み、審査で数値として提示する——これが騒音を火種にしないための現実解になっている。
「350件超のフランチャイズ」を支えるユニットエコノミクス
Pickleball Kingdomは自らを世界最大のインドア・ピックルボール事業者と位置づける。フランチャイズ開始からの短期間で350件を超える出店権を付与し、全米に展開を広げてきた。天候に左右されない屋内・年間通じた稼働・省人運営という設計思想が、この拡大の土台にある。以下は同ブランドが公表・報道された最近のインドア施設の規模感だ。
| 拠点 | コート面数 | 広さの目安 |
|---|---|---|
| リバモア(本記事・計画中) | 8面 | JOANN跡地 |
| ロズビル(カリフォルニア初) | 11面 | 約32,900平方フィート |
| ポートリッチー(フロリダ) | 14面 | 約40,011平方フィート |
| チャンドラー(アリゾナ) | 15面 | — |
数字が語るのは、空いた大型小売店や倉庫の「大きな床面積」が、そのまま2桁面数のコート供給に直結するという構図だ。ゼロから土地を仕込んで建てるより、退店した箱に入る方が速く安い。だから跡地転用が拡大の主戦場になる。
現地の受け止め——歓迎と警戒が同居する
米国のこの種の案件では、地域の反応はおおむね三つに割れる。第一に、屋内で年中プレーできる常設拠点を待ち望むプレーヤー層の歓迎。第二に、シャッターの下りた大型店がにぎわいを取り戻すことを評価する商業・行政側の期待。第三に、近隣住民の騒音への警戒だ。リバモアでは三つ目に対して防音設計で先回りしたことが、反対ゼロの承認につながった。
裏を返せば、防音を軽視した計画はどこでも紛糾しうる。フロリダでは、住宅組合が無断でテニスコートをピックルボール化したことをめぐり住民に提訴される事態が起き、メイン州の自治体では市議会でコート騒音が正式な議題に上った。歓迎と警戒が同居するのがこの競技の施設案件の常であり、勝敗を分けるのは立地と設計の丁寧さだ。
日本のプレーヤー・事業者への示唆
日本でも屋内の常設コートは慢性的に足りない。この米国事例が示す教訓は明快だ。空き店舗や遊休倉庫のような「天井が高く柱の少ない大きな箱」こそ、インドアコートの一等地になりうるということ。米国で撤退したPicklrが幕張から日本に上陸し秋に豊洲へ7面施設を構える動きや、首都圏で20面超のフラッグシップ用地を公募する国内構想と、発想は地続きだ。米Picklrの日本初上陸や国内20面超のフラッグシップ構想は、いずれも「箱をどう確保するか」の勝負に入っている。
そしてもう一つが防音だ。日本の商業ビルや住宅近接地でインドアコートを開くなら、リバモアの20cm厚壁・扉閉鎖・数値提示という型は、そのまま近隣調整の設計図になる。プレーヤー目線でも、静かに長時間打てるインドア施設は結局こうした防音投資の上に成り立っていると理解しておくと、施設選びの目が変わる。
市場への波及——「跡地×競技」がコート供給を底上げする
ピックルボールの施設投資は年々スケールが大きくなっている。フィットネスチェーンが28面規模のコートを一施設に入れる例が出るなど、面数の桁が一段上がった。空いた大型小売店の転用は、この供給拡大を土地取得のボトルネックから解放する。JOANNのように全国チェーンがまとめて退店すると、条件の似た「箱」が全国に同時に生まれる。フランチャイズ側はテンプレート化した設計で次々に埋めていける——この相性の良さが、350件超という出店権付与のスピードを生んでいる。日本でも大型店の閉店が続くなか、同じ回路が開く余地は十分にある。参考までに、フィットネス大手が28面を投じた米国の施設投資は、この競技の設備競争がどこまで来ているかを示す。
まとめ——次に見るべきは「箱と壁」
リバモアの8面計画は、派手なプロ大会でも新型パドルでもない。だが、ピックルボールが定着期に入ったことを最も地味に、最も確実に示す動きだ。読者への具体的な次アクションは三つ。プレーヤーなら、通う候補の施設が屋内・防音・営業時間の3点でどう設計されているかを確認すること。施設運営を考えるなら、退店した大型店や倉庫を「面数に換算」して立地候補を洗うこと。そして近隣調整では、リバモアの20dBA・20cm壁のように、防音を数値で語れる設計を最初から用意すること。空き箱と厚い壁——次に増えるインドアコートは、この二つの掛け算から生まれる。

