神戸市長田区のインドア施設「DPC KOBE」が2026年7月22日、7月後半に開くオープンプレー枠の募集を告知した。ひとりで申し込んでよく、予約した時間内なら出入りは自由、コートでは居合わせた相手とその場でペアを組んでダブルスを回す。定員は先着16名、使うコートは2面。運営は1982年設立のテニススクール会社、株式会社ITCだ。仲間が4人そろわないと始められない——日本のラケット競技が長く抱えてきた入口の狭さに、テニスを本業にしてきた会社が別の答えを出した。
ひとり参加OK、出入り自由、ペアはその場で
告知されたのはレッスンではなく、ゲームを回すことに特化したオープンプレーという枠だ。レベルは「初級(試合に出はじめたレベル)」「中上級(試合に出て勝つことができるレベル)」「レベルフリー(どなたでもご参加いただけます)」の3区分。平日と週末の双方に枠が置かれ、リリースは狙いを「平日・週末ともに、自分のペースでピックルボールを楽しめる」と説明している。
料金は所要時間で2段階に分かれる。60分枠が会員制度「DPC Plus」向け110円、一般1,100円。90〜120分枠が会員210円、一般2,200円(公式サイトの料金ページは90〜120分の会員料金を220円と表記しており、リリースと数字が食い違う)。会員料金には「NIGHTは¥0です」という注記が付く。NIGHTはDPC Plusの登録区分の一つで、月〜木の16時からラストまでを指す。登録した区分以外の時間に入ると会員でもビジター料金になるため、0円になるのは「夜なら会員は誰でも」ではなく「NIGHTで登録した会員が、その時間帯に来たとき」に限られる。申し込みは公式サイトのメンバーシップページ経由。リリースは体験会・練習会のコーチング体制として、福井宏光(Playmaking Director)以下、佐藤匠洋、後藤由希、村川允彦、竹山世成の各氏の名前を挙げている。
テニスコート2面を、専用コート5面に組み替えた
DPC KOBEは2025年7月、ITC神戸インドアテニススクールの内部に生まれた。米フロリダ発のラケットスポーツブランドDIADEMとITCの独占パートナー契約による拠点だ。業界誌『Fitness Business』の事例研究によれば、改修されたのは既存のテニスコート2面。そこに、施設が公表するインドアピックルボール専用コート5面が入っている。テニス1面はピックルボール2〜3面に割れる。同じ床面積から取れる同時プレー人数が倍以上になる、という算術がこの改修の出発点にある。
ITCは資本金2,500万円、社員69名・準社員215名の会社で、兵庫・京都・奈良・愛媛・埼玉の5府県で18の施設を運営する。テニススクールという既存事業の器を持ったまま、その一部を新競技に差し替えた格好だ。2026年4月には会員制度DPC Plusを立ち上げ、イベント単発の集客から会員の継続利用へ軸足を移している。
110円と1,100円、10倍差が語る会員設計
この施設の料金表で目を引くのは、会員と一般の差が「割引」と呼べる水準を超えていることだ。
| 枠 | DPC Plus会員 | 一般 | 差 |
|---|---|---|---|
| オープンプレー60分 | 110円 | 1,100円 | 10倍 |
| オープンプレー90〜120分 | 210円(公式料金ページは220円) | 2,200円 | 約10倍 |
110円は缶飲料1本と変わらない。ここには会員の来場回数そのものを増やす意図が透ける。受け止める側の会費は公表されている。入会金11,000円・年会費5,500円に加え、月会費は利用時間帯を1つ選ぶプランが11,000円、2つで19,800円、全時間帯で26,400円。都度課金を限界まで下げ、収益は会費で回収する。フィットネスクラブが長く使ってきた月会費モデルを、コート予約が前提だったラケット競技へ持ち込んだ設計だ。対する一般1,100円は、会員になる前の試し打ちの値段として置かれている。10倍差は価格表であると同時に、入会への導線そのものになっている。
運営・ブランド・調査、三方から見える手応え
参入の動機について、『Fitness Business』はITC代表取締役・中村久仁子氏の言葉として「テニススクール事業は、一時期のような勢いがないという現況がある」と伝えている。とりわけ伸び悩んでいるのはジュニア層で、少子化と習い事の絞り込みが進み、学習塾やスイミングが優先されている状況が挙げられている。守りに入るのではなく、既存資産の使い道を変える判断としてピックルボールが選ばれた形だ。
ブランド側も静観していない。DIADEMの日本向けサイトはDPC KOBEのメンバー制開始を自社ブログで告知しており、用具を売るだけでなく常設拠点の会員化にまで踏み込んでいる。
市場データも同じ方向を指す。株式会社ピックルボールワンが2026年3月に約3万人へ実施したインターネット調査では、国内競技人口は約33万人(前年は約4.5万人)、興味を持つ潜在層は約1,189万人と推計された。認知率は13.1%にとどまる一方、テニスプレイヤーの関心率は72.5%に達する(テニス経験者の72.5%が関心、33万人市場が持つ36倍の余白)。テニススクールの会員名簿の中に、最も反応の良い見込み客が座っている計算になる。
施設側の自信もうかがえる。DPC KOBEは2026年7月25〜26日に開設1周年フェスを組み、全米タイトル9冠のDIADEM契約プロ、Daniel Moore氏を招いた(全米9冠プロが神戸に。地方常設コートがプロを呼ぶ時代)。日常のオープンプレーと、年に一度の集客イベントが同じ月に同居している。
日本の分水嶺は「ひとりで行ける場所」があるか
日本でラケット競技を始めようとすると、たいてい最初に人集めを求められる。コートは4人単位で押さえ、サークルに入るには面識がいる。腕前の近い相手を自分で探す手間が、始める前の関門になってきた。オープンプレーはこの順序を裏返す。人を集めてからコートを取るのではなく、コートに行けば人がいる。
16名・2面という定員設定は、その運用を成り立たせる密度の答えでもある。1面あたり8名なら、ダブルス1試合が動いている間に4人が待つ。出入り自由なので実際の在席は常に定員を下回り、待ち時間は締まる。コートを5面持つ施設がオープンプレーにあえて2面だけを割いているのは、残り3面をレンタルやレッスンに回しつつ、ゲーム枠の人口密度を落とさないためだろう。広く開けるほど良いという話ではない。
もう一つ効いているのが、指導ではなく場の運営に寄せた構造だ。公式サイトはオープンプレイについて、常駐するコーチやスタッフがサポートすると説明している。人が付かないわけではない。ただしレッスンのように1人のコーチが数名を見る形ではないため、売上がコーチの人数と持ち時間に縛られない。ゲームを回す枠は費用が会場側に寄り、空き時間の在庫消化に向く。月〜木のNIGHT区分に限って会員0円と踏み込めるのも、その時間帯の稼働を会員の来場頻度で埋める判断があるからだ。
施設を持たない事業者への示唆はここにある。要るのは新設のコートではなく、既存の体育館やテニスコートの空き枠を「ひとり参加OKのゲーム枠」として売り直す運用だ。レベル区分の言葉づかい、定員と面数の比率、出入り自由の許容範囲。DPC KOBEが公開しているのは、そのまま手元で試せる粒度の設計図になっている。
テニススクール18拠点が持つ転換余力
同じ発想はすでに他社でも動いている。テニススクール大手のノアは、ピックルボールとサウナを組み合わせた施設で新しい客層を取りにいった(テニス大手ノアが挑む、ピックルボール×サウナで作る新市場)。コートを持つ会社が、コートの用途を編集して別の市場へ出ていく動きだ。
ITCの場合、18という施設数がそのまま横展開の在庫になる。神戸で会員数と稼働の相関が取れれば、京都や奈良の拠点へ同じ枠を移す判断は難しくない。DPC KOBEの1年は単独施設の実験ではなく、複数拠点への配備を見据えた検証期間だったとみるほうが筋が通る。
競技側から見た効果も小さくない。競技人口33万人に対して潜在層1,189万人という開きは、コートの数よりも入口の数で説明できる部分が大きい。ひとりで行ける枠が全国のスクールに1つずつ増えるだけで、届く範囲は施設の新設ペースを超えて広がる。
DPC KOBEオープンプレー参加ガイド
| 施設名 | DIADEM PICKLEBALL KOBE(DPC KOBE) |
|---|---|
| 所在地 | 〒653-0038 兵庫県神戸市長田区若松町2-1-16(ITC神戸インドアテニススクール内) |
| 電話 | 078-642-2960(公式サイト表記) |
| コート | インドアピックルボール専用5面(オープンプレーは2面を使用) |
| 最寄り | JR新長田駅から徒歩2分(専用駐車場なし) |
| 営業時間 | 月〜木 10:00〜22:00/金 10:00〜17:00/土 9:00〜21:00/日 9:00〜18:00 |
| オープンプレー定員 | 先着16名 |
| レベル区分 | 初級/中上級/レベルフリー |
| 参加費 | 60分:会員110円・一般1,100円/90〜120分:会員210円(公式料金ページは220円)・一般2,200円。会員はNIGHT区分(月〜木16時〜ラスト)のオープンプレーが0円 |
| コートレンタル | 1面60分 一般4,400円/会員3,300円 |
| レッスン | 90分 会員1,650円・一般2,750円/120分 会員2,200円・一般3,300円/プライベート60分 会員8,800円・一般11,000円 |
| レンタル用具 | レンタルパドル・レンタルシューズ 各550円(DPC Plus会員は各0円) |
| 予約 | 公式サイトのメンバーシップページから受付 |
| 運営 | 株式会社ITC(1982年1月設立・代表取締役社長 中村久仁子) |
初参加なら、まずレベルフリー枠を選ぶのが無難だ。パドルもシューズも一般料金の各550円で借りられるので、手ぶらで行って合わなければやめられる。出入り自由という条件は、途中で抜けても気まずくならない、という保険でもある。
まとめ
DPC KOBEが示したのは、新競技を広めるのに必要なのが施設投資だけではない、ということだ。テニスコート2面を5面に組み替え、110円という価格で来場の心理的コストを消し、16名2面という比率で待ち時間を抑える。この3点はいずれも、他の施設が明日から模倣できる。
プレーヤーなら、近所のテニススクールや体育館にオープンプレー形式の枠がないか、予約サイトの検索条件を「ひとり参加可」で当たってみるところから。施設運営者なら、平日夜の空き枠を1コマだけレベルフリーのゲーム枠に振り替え、定員と面数の比率を8対1前後に置いて2カ月回してみることだ。神戸の実験が示しているのは、コートを増やす前にやれることがまだ残っている、という現実のほうである。
参照元:PR TIMES(株式会社ITC)/DIADEM PICKLEBALL KOBE/株式会社ITC 企業情報/Fitness Business/PR TIMES(株式会社ピックルボールワン)/DIADEM Japan

