7月8日、米ミシガン州の小さな町フェアヘイブンから、ピックルボールの施設ビジネスに新しい選択肢が持ち込まれました。運営会社Pickleball 365が、スタッフをほぼ置かずに24時間365日動く無人インドア施設をパッケージ化し、フランチャイズ加盟の募集を開始したのです。アプリで予約し、自動でコートに入り、決済も会員管理も画面の中で完結する——この仕組みを他の起業家に売り渡すという発表でした。日本でも都市部を中心にインドア施設の開業が続いていますが、人件費と長い営業時間、そして稼働率の読みにくさは共通の悩みです。四国では松山の24時間ジムがピックル専用コートを開設したように、無人・長時間営業へ向かう動きは国内でも始まっています。米国発の「無人×フランチャイズ」がどこまで通用するのかを、開示された数字から掘り下げます。
1施設の実績を、そのまま他人に貸し出す
今回フランチャイズ化されたのは、フェアヘイブンにある「ミシガン州初の完全自律型ピックルボール施設」を名乗る1拠点のモデルです。運営元は、この店で12カ月間まわしてきた仕組みを丸ごと標準化し、3〜5面という小規模な施設として横展開しようとしています。
売りは徹底した省人化です。アプリでの予約、自動化されたコート入場、統合された決済と会員管理、デジタルスコアボード、即時ビデオリプレイ、リーグや大会の運営機能、そして遠隔監視。従来型のインドアスポーツ施設が抱える高い人件費、複雑なオペレーション、限られた営業時間、大きな建築費、飲食への依存といった重荷を、技術と月額会員制の積み上げで軽くするという発想です。CEOのロバート・ロリンツ氏は「ディアナと私がPickleball 365を開いたときの目標はシンプルだった。自分たちのようなプレーヤーが本当に欲しかった施設を作りたかっただけだ」と語っています。
無人でも回った、稼働率という証拠
無人運営が机上の空論でないことを、運営元は稼働率で示しています。24時間営業を分母に置いた計測で、直近12カ月の平均コート稼働率は46%、直近1カ月では57%に達したといいます。57%は、1面あたり1日およそ13.7時間が予約で埋まっている計算です。深夜帯を含めた24時間のうち半分以上が動いていたことになり、無人モデルの弱点とされがちな「夜間の空き」を、逆に稼ぎに変えていた形です。
この省人モデルの位置づけを、既存の大型フランチャイズと並べると輪郭がはっきりします。北米の主要チェーンは軒並み1億円を大きく超える初期投資を必要とし、専用の広い建物とスタッフ配置を前提にしています。Pickleball 365はそこへ、3〜5面の小さな箱で正面から対抗しようとしています。
| Brands | 初期投資額(総額) | 加盟金 | 継続手数料 |
|---|---|---|---|
| The Picklr | 約125万〜208万ドル(約1.9億〜3.2億円) | 6万ドル(約930万円) | ロイヤルティ7%+販促3% |
| Pickleball Kingdom | 約87万〜224万ドル(約1.3億〜3.5億円) | 6万ドル(約930万円) | 非開示 |
| Pickleball 365 | 非開示(3〜5面の小型モデル) | 非開示 | 非開示 |
※1ドル≒155円で換算。The PicklrとPickleball Kingdomの数字は各社の2026年フランチャイズ開示資料に基づく。Pickleball 365の投資額・加盟金は今回の発表では公表されておらず、比較は既存2社の実額と、同社が掲げる「小型・省人」という設計思想の対比にとどめている。
作り手が繰り返す「欲しかった施設」という言葉
この発表をめぐる当事者の言葉を拾うと、施設ビジネスを一度自分で立ち上げた人間ならではの視点が見えてきます。
- ロバート・ロリンツCEO——「自分たちのようなプレーヤーが本当に欲しかった施設を作りたかった」。利用者として感じた不満が出発点だと明かしています。
- 共同創業者ディアナ・ロリンツ氏——施設づくりの細部について「石を一つも残さずひっくり返した」と、妥協なく設計したことを強調しています。
- 運営元の説明——狙う市場は「良質なインドア施設がまだ存在しない、小〜中規模のコミュニティ」。大都市の激戦区ではなく、供給の空白地帯を取りにいく方針です。
大都市を避けて中小コミュニティを狙うという設計は、無人モデルと相性が良い判断です。人口が薄い地域ほど有人施設の人件費は重くのしかかり、逆に少人数でも24時間開いていること自体が差別化になるからです。
日本の運営者が読み取るべき三つの論点
この動きは、そのまま日本に持ち込めるものではありません。ただ、国内のコート運営を考える人にとって、検討すべき論点が三つあります。
First,無人運営そのものは日本で実証済みだという事実です。フィットネス業界では、RIZAP系のchocoZAPが全国約1,800店・会員110万人規模まで無人×低価格で伸び、エニタイムフィットネスも国内1,100店超を24時間・省人で運営しています。鍵ひとつで入退館し、深夜も無人で回す運用は、日本人の生活と防犯観念のなかですでに成立しています。ピックルボールのコートに同じ仕組みを載せる技術的・文化的なハードルは、多くの運営者が思うより低いはずです。
Second,省人化は「安さ」ではなく「稼働時間の長さ」で効いてくるという点です。有人施設は人件費の都合で営業時間を絞らざるを得ませんが、無人なら早朝や深夜という、社会人が唯一空けやすい時間帯をそのまま売り物にできます。フェアヘイブンの57%という数字が深夜帯をどこまで含むかは公表されていませんが、24時間を分母にした稼働率である以上、夜間の一定の利用が押し上げに寄与しているとみられます。都心の需要が現に厚いことは、豊洲Picklrが開業3カ月前から会員を先取りした資金設計にも表れており、そこへ「24時間開いている」という価値を足せば、会員単価と稼働の両方を押し上げられます。
Third,大型化と小型化は別々の勝ち筋だという視点です。米国では28面規模の巨艦施設に投資が集まる別次元の動きも進んでいますが、Pickleball 365はその真逆の、3〜5面という最小構成で回収を早める道を選びました。土地代と建築費が北米より高く、まとまった床を確保しにくい日本では、むしろ小型・無人のほうが現実的な出店戦略になりえます。巨大施設を建てられる資本がなくても、この競技で施設ビジネスに入る入口は残されている、というメッセージでもあります。
Pickleball 365 フランチャイズの基本情報
| Item | Details |
|---|---|
| 運営元 | Pickleball 365 Franchising, LLC(米ミシガン州) |
| Announcement Date | 2026年7月8日 |
| モデル施設 | フェアヘイブン店(ミシガン州初の完全自律型施設) |
| 1施設のコート数 | 3〜5面 |
| Hours | 24時間・年中無休 |
| 直近の稼働率 | 12カ月平均46%/直近月57%(24時間を分母に計測) |
| 収益源 | 会員費・コート予約・リーグ・大会・レッスン・イベント・スポンサー・物販 |
| 狙う市場 | 良質なインドア施設が未整備の小〜中規模コミュニティ |
まとめ——次に確かめるべきこと
Pickleball 365の発表が示したのは、「無人で24時間回す施設は、たった1店の実績でもフランチャイズ商品になる」という一つの答えです。豪華な大型施設だけが競技の受け皿ではなく、省人と小型で回収を早める道が並走し始めました。日本の運営者がここから追うべきは三つです。第一に、同社が今後公表するはずの投資額と加盟条件の実数。第二に、国内の24時間ジムがそうであったように、深夜帯のコート需要が本当に採算に乗るのかという稼働の裏取り。第三に、chocoZAPやエニタイムで実証済みの無人入退館の仕組みを、ピックルボール施設へどう転用するかという具体設計です。まずは自分の商圏で、早朝と深夜に何面が埋まるかを試算してみることが、次の一歩になります。
Sources
- PICKLEBALL 365 LAUNCHES FRANCHISE OPPORTUNITY BACKED BY THEIR PROVEN 24/7 INDOOR PICKLEBALL OPERATING MODEL(PR Newswire)
- Inside Pickleball 365: Michigan’s First Fully Autonomous Facility(Pickleball Innovators)
- The Picklr Franchise FDD, Profits & Costs 2026(Sharpsheets)
- Pickleball Kingdom Franchise FDD, Costs & Fees 2026(Franchise Payback)
- 24時間ジム店舗数ランキング2026最新版(趣味なび)
