インドのスポーツテック企業Stupa Sports Analytics(ストゥーパ・スポーツ・アナリティクス)が、ピックルボール・イングランドと3年契約を結び、英国最大級の室内大会「イングリッシュ・オープン」の公式データ&テクノロジーパートナーに就いた。米メディアPickleball News Asiaが2026年8月10日に報じた。大会は8月11日から16日まで、バーミンガムの国立展示センター(NEC)で開催される。主催者が「世界最大級の室内ピックルボール大会」と位置づける舞台で、AIによるライン判定と映像レビューが本格導入される。
卓球のAI分析から出発したインド企業が、英国のコートで審判の一部を担う。この一件は、ピックルボールの現場で進む「人からAIへ」の判定移行が、米国だけの話ではなくなったことを示している。日本のプレーヤーや大会運営にとっても、対岸の火事ではない。
3年契約でイングリッシュ・オープンのライン判定をAIに委ねる
Stupaがイングリッシュ・オープンに持ち込むのは、大きく3つの仕組みだ。1つ目は選手・コーチ・放送・観客に向けたリアルタイムのAI試合分析。2つ目が映像を使ったDecision Review System(DRS)で、サッカーのVARに近い形でライン判定を自動化する。3つ目が動的な放送・LEDグラフィックスとライブ配信の演出だ。
ピックルボールは元々、選手自身が自分のコート側のイン/アウトを判定する「セルフジャッジ」を基本にしてきた競技である。プロ化と賞金の高額化に伴い、際どい判定を巡るトラブルが増え、映像とAIで白黒をつける流れが強まった。今回の契約は、その流れが英国の主要大会にまで届いたことを意味する。ピックルボールの主要な国際大会の一覧を見ても、放送品質と判定精度を同時に引き上げる大会は着実に増えている。
StupaのCEOで共同創業者のメガ・ガンビール氏は、「ピックルボール・イングランドとの提携は、テクノロジーで審判・放送・ファンエンゲージメントを引き上げるという共通のビジョンを反映したもの」と述べている。ピックルボール・イングランドCEOのカレン・ミッチェル氏も「イングリッシュ・オープンが規模と地位を高めるなか、競技体験を向上させる革新への投資を続ける」とコメントした。
卓球のデータ分析で育ったStupaが、なぜピックルボールへ来たのか
Stupa Sports Analyticsは、卓球にAI分析を持ち込んだインド発の企業として知られる。ガンビール氏と、元インド卓球代表コーチのディーパック・マリク氏が共同で立ち上げ、卓球の試合データと選手のパフォーマンス解析で実績を積んできた。そこから、判定と計測のロジックが近い競技へ横展開している。
すでにStupaは卓球のメジャーリーグ・テーブルテニスやニュージーランド卓球協会、バドミントン、パデル(Generali Hexagon Cup)などと組む。ボールの軌道追跡、イン/アウトの映像判定、放送グラフィックスといった要素は競技をまたいで転用が効くため、ピックルボールは同社にとって無理のない拡張先だった。卓球という成熟した計測競技で磨いた技術を、ルールが若く運営が発展途上のピックルボールに移すことで、Stupaは先行者の位置を取りにいっている。
2026年はOwl AI・PlayReplayも参戦、AI判定が世界で標準化へ動く
AI判定の導入はStupa1社の動きではない。米国では2026年シーズンから、メジャーリーグ・ピックルボール(MLP)がOwl AIと、ピックルボール社(PPA親会社)がPlayReplayと組み、自動ライン判定を採り入れる。世界最高峰とされるPPA Tourを含め、トップ大会が相次いで「AIが線を引く」体制へ移っている。
3つのシステムは、狙う場所は同じでも設計思想が異なる。下表に、公開情報から整理できる範囲でまとめた。
| システム | 提供元 | 導入先(2026年) | Features |
|---|---|---|---|
| DRS(映像判定)+AI分析 | Stupa Sports Analytics(インド) | イングリッシュ・オープン | ライン判定・分析・放送グラフィックスを一体で提供 |
| Owl AI | Owl AI(米国) | メジャーリーグ・ピックルボール | 放送カメラ映像を使うソフトウェア型。既存中継設備に統合 |
| PlayReplay | PlayReplay | PPAツアー系イベント | ネットポストに4台のカメラを設置。ITFのシルバー認証を取得 |
Stupaの強みは、ライン判定だけを切り出すのではなく、分析・放送・配信までまとめて引き受ける点にある。屋内会場のNECは照明やカメラ位置を管理しやすく、映像ベースの判定と中継を統合するには好条件だ。「世界最大級の室内大会」という看板は、Stupaにとって技術の実証舞台としての価値も持つ。
セルフジャッジが基本の日本のコートと、AI判定のギャップ
日本の大会の多くは、いまも選手のセルフジャッジと人のラインジャッジで運営されている。設備コストと会場の制約を考えれば、英国や米国のトップ大会と同じAI判定をすぐ導入するのは現実的ではない。一方で、判定を数字と映像で可視化する動きは、DUPRが車椅子部門に専用レーティングを導入した事例のように、周辺から着実に広がっている。
日本のプレーヤーが意識しておきたいのは、国際大会に出た瞬間、判定環境が一変する可能性だ。セルフジャッジに慣れた選手が、AIのライン判定や映像チャレンジのある舞台に立てば、判定への向き合い方そのものを切り替える必要が出てくる。国内でも、PPA ASIA 500の東京開催など海外資本の大会が入り始めており、AI判定を前提とした試合を国内で経験する日はそう遠くない。運営側にとっては、放送品質と判定の透明性が集客と協賛に直結する時代に入ったことを、この英国の契約は突きつけている。
8月16日以降、Stupaの実績が次の契約を左右する
イングリッシュ・オープンは8月16日に幕を閉じる。Stupaにとっては、DRSの判定精度と放送演出が現場でどう評価されるかが、欧州や他競技での次の契約を左右する試金石になる。インドのスポーツテックが英国の大会運営に食い込んだこと自体が、ピックルボール産業の中心が北米だけではなくなりつつある兆しだ。日本のプレーヤーと運営者は、大会後に公開される判定データや映像の完成度を見ておくと、次に国内へ入ってくる技術の姿を先取りできる。
Sources
- India’s Stupa Sports Expands Reach, Gives English Open in Birmingham Serious Technology Update(Pickleball News Asia, 2026-08-10)
- Stupa Sports broadens global footprint with multi-year Pickleball England partnership(The Bridge)
- Stupa Sports deepens global pickleball push with Pickleball England deal(SportsMint Media)
- Major League Pickleball Announces Partnership with Owl AI(Major League Pickleball)
- Pickleball Inc. partners with PlayReplay for automated line calls(Pickleball.com)
- 2026 English OPEN(Pickleball England)
