渋谷駅から徒歩7分、渋谷東武ホテルの地下2階に、ブラックライトで光るピックルボールコート2面がある。「NEON PICKLEBALL CLUB」。2026年8月8日にグランドオープンし、10月1日のプレスリリースによると開業42日間の予約は385件、9月の稼働率は65.8%、平日19時から22時の時間帯だけ見ると95.6%に達した。ここで重要なのは営業期間が「2027年2月末までを予定」と区切られていることだ。入居しているホテルが2027年2月末ごろに閉館するからで、このコートは最初から期限付きで作られている。閉館が決まった建物の無窓の地下区画に、約7か月だけスポーツ施設を入れる。この条件で予約が入っているという事実のほうが、面数や演出より重い。
42日で385件、平日夜はほぼ埋まっている
発表された数字を並べると、平日夜は満杯に近く、それ以外の時間も空いているわけではない。開業から42日間の予約件数が385件なので、1日平均は約9.2件。9月の稼働率は施設全体で65.8%で、平日19時から22時に絞ると95.6%になる。予約件数は時間数ではないので、1件あたりの利用時間は分からない。
営業時間は平日が12時から23時、土日祝が8時から23時。2026年9月は敬老の日(21日)、国民の休日(22日)、秋分の日(23日)が平日に重なったため、平日19日・土日祝11日という内訳になる。2面で提供できたコート時間は単純計算で748時間、稼働率65.8%なら約492時間が埋まった計算だ。平日19時から22時の枠は2面×3時間×19日で114時間、提供能力全体の15.2%にあたる。ここが95.6%なら約109時間。差し引くと、残りの634時間も約60%は埋まっていたことになる。
つまり平日夜だけが突出しているわけではなく、昼も土日も6割前後で回っている。2面しかない施設で全体6割台、ピーク帯が95.6%という数字は、増やす余地が残っていないことを示す。渋谷で平日の昼に6割埋まるという点は、夜型需要だけを想定していた事業者には読み替えが必要な部分だ。
ホテルは2027年2月末に閉まる、コートの期限もそこで切れる
渋谷東武ホテルは、運営する東武ホテルマネジメントが2025年11月14日に閉館を発表している。2027年3月末の賃貸借契約の満了に伴い、2027年2月末ごろに営業を終える。1975年11月13日の開業から約50年、7階建てで総客室数205室のホテルだった。周辺では神南二丁目・宇田川町地区の地区計画が動いており、閉館後の建物の扱いは公表されていない。
NEON PICKLEBALL CLUBの営業予定が2027年2月末までというのは、この閉館日程にそのまま合わせた設定だ。開業が2026年8月8日なので、営業できる期間は約7か月。企画した株式会社しんか(東京都渋谷区、代表取締役・久田友彦)と、運営を担う株式会社MIC FIELD(代表取締役・三國友哉)は、7か月で終わる前提で設備と会員制度を設計したことになる。
この種の「つなぎ利用」は、不動産業界では暫定利用やコンバージョンとして扱われてきた。閉館が決まった建物には長期テナントを入れられないので、残存期間に合わせて撤退できる業種しか入らない。飲食は厨房設備の投資が重く、物販は在庫を抱える。地下2階という条件を加えると、窓がないため選択肢はさらに狭くなる。
1面1時間1万円超が成立している理由
料金は公式サイトに掲載されている。1コート1時間あたりで、平日12時から18時が一般1万円・会員8千円、平日18時から23時が一般1万2千円・会員1万円、土日祝が一般1万5千円・会員1万3千円。月会費は創設メンバープランが千円だ。
| Time slot | General | 会員 |
|---|---|---|
| 平日 12:00〜18:00 | 10,000 yen | 8,000 yen |
| 平日 18:00〜23:00 | 12,000 yen | 10,000 yen |
| 土日祝 8:00〜23:00 | 15,000円 | 13,000 yen |
| 月会費(創設メンバープラン) | 1,000 yen | |
創設メンバープランは、公式サイトの表示によるとCAMPFIRE経由で入会金3,000円に月会費1,000円の7か月分を加えた形。特典は一般予約開始前の優先予約が月4枠、メンバー限定イベントと大会への参加権、100本限定の専用パドルの購入権だ。固定費は合計1万円で、平日ナイトなら1時間あたり2,000円の差が付くので、7か月で5時間以上使うなら会員のほうが安くなる。
この価格は、ピックルタイムスがこれまで扱った国内の施設と比べて高い側に位置する。豊洲の屋外コートは1面1時間6,000円、軽井沢プリンスホテルスキー場の屋内ホールは1面1時間5,000円だった。豊洲のPICKLRは非会員のビジター受け付けを1人1時間2,500円で始めているが、これは面貸しではなく人数課金なので直接の比較はできない。
ただし1面を4人で使えば、平日夜の一般料金1万2千円は1人3千円になる。渋谷駅から徒歩7分で、パドルとボールが無料貸出、更衣室付き、ブラックライトとネオンと音楽の演出がある空間として見ると、都心の娯楽の相場からは外れていない。投資額や賃料は公表されていないので採算は外から計算できないが、営業できる期間が約7か月と決まっている以上、価格を長期で下げていく設計にはしにくい。平日夜が95.6%で埋まっているのだから、この価格設定は少なくとも夜の需要層には受け入れられている。
閉館が決まった建物にピックルボールが入りやすい4つの条件
渋谷の事例を一般化すると、ピックルボールが暫定利用の受け皿になる理由は設備の軽さに集約される。
- 設備が軽い。ネット、ライン、フェンスが中心で、建物側に大掛かりな造作を入れずに済む
- 原状回復が容易。撤退時に持ち出せる設備が多く、解体費が小さい
- 窓がいらない。地下や内陸側の無窓区画でも競技として成立する。飲食や物販が嫌う条件が障害にならない
- 1面の面積が小さい。コートは13.41m×6.1mで、テニスコート1面の3分の1以下。小さい区画でも2面取れる
逆に条件として要るのは天井高だ。ロブやハイボレーがあるので、低すぎる天井ではプレーが成立しない。渋谷東武ホテルの地下2階の元の用途や天井高は公表されていないため、どの程度の高さがあるのかは分からない。言えるのは、無窓の地下でも成立する業種の中で、天井高を要求する側に入るということだけだ。地下区画を検討する側は、面数の前にここを測ることになる。
もう1つの要素は、この施設が単体で置かれていないことだ。徒歩1分の距離にコワーキングサロン「SLOTH JINNAN」があり、同じ事業者の関連施設として紹介されている。10月から2027年2月まで毎月コミュニティーイベントを企画し、10月はハロウィンをテーマにした企画を予定している。FR2とvanquishの創設者である石川涼氏がデザインした施設専用パドルを100本限定で販売する(会員優先)という発表もある。7か月という期限の中で、コートの貸し出しだけでなく、会員コミュニティとグッズまで含めて作り切る設計になっている。
高架下・スキー場・産業ビル——先行する転用例と並べる
遊休空間をピックルボールに変える動きは、国内外で同時に起きている。共通しているのは、本来の用途では稼げない時間や区画を埋めに来ている点だ。
| Case | もとの空間 | Number of courts | 期間・条件 |
|---|---|---|---|
| NEON PICKLEBALL CLUB(渋谷) | 閉館予定ホテルの地下2階 | 2 courts | 2026年8月8日〜2027年2月末予定 |
| 下総中山(千葉) | JR総武線の高架下 | 2面(2027年春に5面予定) | 2026年10月下旬開業予定 |
| 軽井沢プリンスホテルスキー場 | スキー場の屋内ホール | 非公表 | 2026年8月1日〜11月23日予定/1面1時間5,000円 |
| デトロイト(米国) | 産業ビル | 屋内8面 | 残る4割は地元店が入る商業区画へ |
この4例で性質が違うのは渋谷だけだ。下総中山の高架下2面は2027年春に5面へ増やす計画で、空間自体は鉄道が走り続ける限り残る。軽井沢はスキー場の屋内ホールを緑の季節に働かせる試みで、冬になれば本来の用途に戻る。デトロイトの産業ビルは恒久的な転用だ。渋谷のケースだけが、入れ物そのものが消えることを前提にしている。
この違いは出口の設計に効いてくる。軽井沢は来年の夏にまた開ければいい。高架下は増面して伸ばせる。渋谷は2027年3月以降、この2面をどこかに移すか、畳むかの二択になる。会員制を敷いて創設メンバープランを売っている以上、移転先を探す方向だろうが、渋谷駅徒歩7分で同じ条件の区画を探すのは簡単ではない。
遊休区画を持っている側は、どこを先に測るのか
閉館や建て替えを控えた物件を持っている側から見ると、渋谷の事例は判断に使える実測値が揃っている点で価値がある。残存期間約7か月、2面、平日夜の稼働率95.6%、全体で65.8%、面単価が1万円から1万5千円。この5つは、自分の物件で検討を始めるときの比較対象になる。
先に測るべきものは3つある。1つは区画の天井高と柱の位置。コート1面が13.41m×6.1mで、その外側にも動ける余白が要るため、2面を並べるには幅方向で十数メートル単位の無柱スペースが必要になる。2つ目は残存期間。渋谷は約7か月で、会員制度も7か月分の月会費として売っている。期間が短いほど、料金を下げる余地が狭くなる。3つ目は立地の時間帯需要。渋谷の数字は駅から徒歩7分の繁華街で出たものなので、そのまま郊外に当てはめることはできない。
注意点は、昼間の時間をどう扱うかだ。渋谷は平日12時開店で、昼間の価格を夜より2千円下げている。それでも全体の稼働率は65.8%で、ピーク帯の95.6%には届かない。渋谷の場合は非ピーク帯も約60%あったので昼が空洞にはなっていないが、同じことが成り立つ立地かどうかは物件ごとに違う。法人研修や学校利用のような昼の需要を持ち込めるかは、検討段階で確認しておく項目になる。
Venue basics
| Item | Details |
|---|---|
| Facility Name | NEON PICKLEBALL CLUB |
| Location | 東京都渋谷区宇田川町3-1 渋谷東武ホテル地下2階 |
| Access | 渋谷駅ハチ公口から徒歩約7分 |
| Number of courts | 2面(ブラックライト対応) |
| Hours | 平日12:00〜23:00/土日祝8:00〜23:00 |
| Grand opening | 2026年8月8日 |
| 営業予定期間 | 2027年2月末まで |
| Price | 1面1時間 10,000〜15,000円(会員8,000〜13,000円) |
| 月会費 | 1,000円(創設メンバープラン) |
| Facilities | パドル・ボール無料貸出、トイレ・更衣室 |
| 企画 | 株式会社しんか(代表取締役・久田友彦) |
| Operator | 株式会社MIC FIELD(代表取締役・三國友哉) |
| Booking | 事前予約制(公式サイト・予約サイト) |
Summary
渋谷東武ホテルの地下2面が示したのは、ピックルボールが閉館待ちの建物を埋められる業種になったということだ。設備が軽く、原状回復が安く、窓がいらず、1面が小さい。この4条件が揃うスポーツは他にあまりない。そして平日19時から22時の稼働率95.6%は、都心の夜間に面が足りていない現実を数字で出した。
プレーヤー側の動き方は2つある。1つは早めに行くこと。営業は2027年2月末までで、平日夜はすでにほぼ埋まっている。昼間か土日の早い時間なら取りやすい。もう1つは、同じ構造の施設が自分の生活圏に現れるかを見ておくことだ。閉館や建て替えの発表が出た駅前のビルは、次の暫定利用の候補になる。
不動産を持っている側は、天井が高く柱のない区画がコート2面分取れるか、そして残存期間に見合う料金で売れる立地かを順に確認することになる。渋谷が公開した稼働率と面単価は、その判断に使える最初のベンチマークになった。
