メトロバンクーバー最大級の屋内ピックルボール施設「The Nest」が、タソーワッセン・ミルズ(Tsawwassen Mills)に隣接する98,000平方フィートの建物で2026年7月に開いた。注目したいのは施設の大きさそのものではなく、こけら落としに7月22〜26日のBC州選手権を据え、1000人超のプレーヤーを一度に集めたという運び方だ。商業施設の余剰駐車場に建った新コートが、開業の第一声を大会に託した。日本でもショッピングモールやビルにコートが入り始めた今、この「まず大会で埋める」設計は他人事ではない。
The Nestは開業初週を空白にせず、7月22〜26日に州選手権で1000人超を通した
新しい屋内施設が抱える最大のリスクは、箱はできたのに人が来ない開業直後の空白期間だ。The Nestはそこを州選手権で塞いだ。BC州の年間最大級の大会を初週に招き、報道によれば1000人を超える参加者が押し寄せた。プレーヤーは家族や応援を連れて数日間滞在し、館内のコートは朝から埋まる。開業の告知よりも、大会の対戦表そのものが最良の集客の呼び水になった格好だ。
しかも大会は1本で終わらない。地元紙の報道では、州選手権に続けてPickleball Tour Canadaの大会(8月19〜23日)、さらに9月10〜13日の大会が組まれている。開業から二か月で3つの全国・州規模の大会を積み上げる興行カレンダーが、稼働率を先に決めてしまっている。
| 大会 | 日程 | 規模 |
|---|---|---|
| BC州選手権 | 7月22〜26日 | 1000人超 |
| Pickleball Tour Canada | 8月19〜23日 | 全国規模 |
| 次の大会 | 9月10〜13日 | 大会規模 |
常設14面の計画が29面に化けた、設計変更が生んだ大会向きの箱
この施設は当初、常設14面(大会時にはコート材を敷いて28面まで拡張)で計画されていた。ところが床の傾斜がバレーボール連盟の基準に合わず、途中でピックルボール専用へ設計を切り替えた結果、常設29面という大会運営に振り切った構成に変わった。天井は約9メートル(30フィート)、空調と競技用照明を備え、1000人規模の対戦を同時進行させられる。開業そのものを報じた既報が「常設14面」と伝えていたのは計画段階の数字で、実際に開いた箱はより大会向きに膨らんでいた。数を積んだからこそ、こけら落としに州選手権を置く一手が現実になった。
余剰駐車場98,000平方フィートを埋めたのは、モールの人流と先住民の土地
The Nestが成立した条件は、単に土地が広いことではない。タソーワッセン・ミルズは大型アウトレットで、もともと車で人が集まる場所だ。その余った駐車スペースを、Tsawwassen First Nation(タソーワッセン先住民)とモール運営が組んで屋内施設に変えた。買い物客の動線、確保済みの駐車場、そして大会で遠征してくる人の宿泊需要が一か所に重なる。コート単体では埋めきれない平日昼を、モールの日常人流が下支えする構図だ。料金は平日ピーク(月〜金16〜22時)でコート1時間45カナダドル、非ピークで40ドル、年会費180ドルで1時間あたり5ドル引き。営業は毎日7〜22時と長く、大会と日常利用の両方で回す前提で価格が組まれている。
日本のモール併設コートが学ぶのは、施設より先に大会を置く順番
日本でも商業施設にコートが入り始めた。稲城のフレスポ若葉台のコートは期間限定から2026年9月1日に常設化し、池袋ではSansanがビル(サンソウゴ池袋ビル4〜6階)に屋内3面・屋外4面の専用施設を開いた。リゾート改修では伊豆稲取が国内最大級の20面を整えている。箱は揃い始めた。足りないのは、開けた瞬間にコートを人で満たす仕掛けだ。
The Nestの示す順番は明快で、施設を作ってから利用者を待つのではなく、開業日程に大会をぶつけて先に稼働を確定させる。同じ設計はフィリピンでも見られ、地方町イロイロのコートは開業と同時に80人規模の大会を打って一気に認知を取った。日本のモール併設コートも、常設化のタイミングに地域大会や連盟公認戦を重ねられれば、開業初週の空白を大会の集客で埋められる。商業施設側にとっても、大会は「その週末だけ確実に人が来る」計算できるイベントで、テナント誘致の口説き文句になる。コートを何面持つかより、開けた最初の週末に何試合を通せるか。The Nestが海外で先に見せたのは、その一点の設計だった。

