カナダ・ブリティッシュコロンビア州、メトロバンクーバーのツワッセン(Tsawwassen)に、州内最大級の屋内ピックルボール施設「The Nest(ザ・ネスト)」が2026年7月に開業した。延床面積は約98,000平方フィート(約9,100平方メートル)。目を引くのは規模より立地の組み立て方だ。大型ショッピングモール「Tsawwassen Mills」の駐車場に隣接し、土地はツワッセン先住民(Tsawwassen First Nation)の管理地。モールと先住民、競技運営者が組んで一つの屋内コート群を成立させている。土地と天候の壁に阻まれてきた日本の施設運営に、別解を示す事例だ。
常設14面・大会時最大28面、開業初週の州選手権に選手1,000人超
Pickleball BCの発表によれば、常設のピックルボール専用コートは14面。バレーボールと兼用できる可変スペースを加え、大規模大会時には最大28面まで展開できる(一部の現地報道は29面と伝える)。天井高は約30フィート、コート周囲には8〜10フィートの余白を確保し、約5,500平方フィートの付帯スペースには用具販売の「Pickleball Depot」が入る。主導するのはプロツアーPPAの選手でラスベガス・ナイトアウルズのコーチも務めるスティーブ・ディーキン氏と、創業パートナーのローン・ロワゼル氏。会員制でコーチング、クリニック、リーグ戦を回す。
開業初週の運びにも狙いが出た。新設ハコが最初にやることはたいてい体験会や無料開放だが、The Nestは7月22日から26日の「2026 Pickleball BC 州選手権」を会場として引き受け、選手1,000人超という州単位の公式大会を初日から流し込んだ。稼働を最初から検証する運び方だ。
| 項目 | The Nest(ツワッセン) |
|---|---|
| 延床面積 | 約98,000平方フィート(約9,100㎡) |
| 常設コート | ピックルボール専用14面 |
| 最大展開 | 兼用スペース込みで大会時最大28面 |
| 天井高 | 約30フィート |
| 立地 | Tsawwassen Mills 駐車場隣接/先住民管理地 |
| 開業初週の実績 | 州選手権(7/22〜26)で選手1,000人超 |
閉店が進むモールの空床と、州法の外側にある先住民管理地を掛け合わせた
The Nestの立地は二つの要素で成り立つ。一つは、空床が進む大型モールの使い切れていない面積。もう一つは、州法の枠組みの外側に一定の裁量を持つ先住民管理地という土地属性だ。北米では小売の空床をコートに転用する動きが広がり、当メディアでも空き店舗をコート化する米チェーンのThe Picklrの日本上陸計画を取り上げてきた。The Nestはその延長線上にありながら、モール本体ではなく「駐車場に隣接する棟」を丸ごと屋内競技場に仕立てた点で一歩踏み込む。
先住民管理地という条件は、開発スピードや土地コスト、経済開発としての位置づけに効く。先住民側には遊休地の活用と雇用・集客を生む地域事業になり、施設側には大都市圏の広い平地を確保しやすい。カナダ・トロントが公費で11面を整備した公共コート増設のような税金による積み増しとは、別の資金の出所で屋内・通年型の大型施設が立ち上がったことになる。物差しとして、米アリゾナ州で建設許可が下りた48面規模のスコッツデールのPUREと比べると、The Nestは面数こそ及ばないが、既にインフラと集客動線がある場所に寄せた点で性格が違う。
現地報道は「商業集積の一部としてのコート群」と受け止めた
現地メディアの反応は、規模と立地の両面に集まった。Daily Hiveは面積を前面に押し出し、州協会Pickleball BCは「州最大級」と位置づけた。地元紙のDelta OptimistやNorth Delta Reporterは、モール「Tsawwassen Mills」への新たな集客の核という文脈で扱い、買い物と競技を同じ敷地で完結させる動線に注目した。共通するのは、単独のスポーツ施設ではなく「商業集積の一部としてのコート群」という捉え方だ。開業初週に州選手権を成立させ、ハコの信頼性を早期に示せた点も好意的に受け止められている。
日本ではイオン型郊外店の余白が、同じ役割を果たせる
日本でコートを増やそうとすると、屋外は雨や騒音、近隣調整が重く、屋内は賃料が高い。だからこそ既存施設への併設が現実的な選択肢になってきた。当メディアでも温浴施設にコートを組み込んだ淡路島の集客モデルを取り上げたが、The Nestはこれを「モールの遊休面積+通年屋内」というより大きなスケールでやってのけた。地方を中心に空床が目立つ大型商業施設や、広い立体駐車場を抱える郊外店は、The Nestが使った「既に人と車の動線がある余白」に近い。滞在時間を延ばしたい商業側と、通年で使える平場が欲しい競技側の利害はかみ合う。先住民管理地に相当する制度的な優遇こそ日本にはないが、テナント誘致インセンティブや行政の遊休施設活用の枠組みは代替になりうる。
複合立地モデルの評価は、平日昼間の稼働で決まる
The Nestの成否は、開業ブーストが落ち着いた後の平日昼間の稼働で決まる。州選手権のような大会需要は年に数えるほどで、通年施設を支えるのは会員のリーグとレッスンだ。モール併設は買い物ついでの初心者を取り込みやすい反面、競技志向の常連が「わざわざ通う場所」になれるかは別問題になる。用具売り場「Pickleball Depot」を内包したのは、試打から購入までを場内で完結させ、収益源を多層化する狙いだ。日本の運営者が学べるのは、立地を「専用地を探す」から「既存の余白を借りる」へ発想転換すること、そして開業初週に密度の高い需要をぶつけて手応えを早期に掴む運び方だ。次に見るべきは、大会のない平常月にどれだけの稼働を保てるか。複合立地の真価はそこで問われる。
参照元
- 604 Now「One of B.C.’s Biggest Pickleball Facility Just Opened in Metro Vancouver」
- Pickleball BC「Major New BC Pickleball Facility Announcement: The 98,000 Square Foot The Nest」
- Daily Hive「A 98,000 sq. ft. pickleball centre will soon open in Metro Vancouver」
- North Delta Reporter「B.C.’s largest indoor pickleball centre opening in Tsawwassen」
- Delta Optimist「Tsawwassen Mills mall offers new courts for pickleball」

