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アパートで100本売った男の11SIX24にプロが乗り換えた理由

2026 6/26
パドル ブランド 海外
2026年6月26日
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新しいパドルが当たるプレゼント企画。米ピックルボールメディアThe Dinkが2026年6月25日に出したのは、そんな体裁の記事だった。賞品は11SIX24(イレブンシックス24)というブランドの新作「Ultré Power 2」。ただ、ここで目を引くのは応募方法ではなく、このブランドそのものの来歴だ。大手スポーツ用品メーカーでもベンチャー資金で武装したスタートアップでもなく、ワシントンD.C.の約56平方メートル(600平方フィート)のアパートから100本を手売りして始まった会社が、いまPPAツアーのプロを大手から引き抜いている。道具に自分で投資し、より良いギアを探す日本のプレーヤーにも、自社製品で勝負する中小ギアメーカーにも、この物語は無関係ではない。

目次

プレゼント企画の裏にあった「新作の素性」

The Dinkの企画は、2026年6月25日から7月9日までの期間で20点の賞品を用意し、SNSでの拡散と購入導線への送客を狙うよくあるキャンペーンだ。目玉に据えられたのが11SIX24のUltré Power 2で、フラットで四角いフェース形状を採用し、「縦長パドルのリーチとハイブリッド形状の安定性を両立した」とうたう。価格は209.99ドル。16mmコアと「HexGrit」と呼ぶ表面加工でスピン性能の持続を売りにしている。

記事内では、同ブランド契約のAugie Ge選手が既存モデルのVaporからこのUltréへ乗り換え始めた、という一文がさらりと添えられていた。プレゼント記事としては脇役の情報だが、ブランドの実力を測るうえではここが本質に近い。プロが自ら使うギアを変えるという行為は、スポンサー契約の文言より雄弁だからだ。

元HubSpotエンジニアが、割れたパドルから始めた

11SIX24の創業者はDavid Groechel(デイビッド・グロッシェル)。ミシガン州立大学で金融を学び、HubSpotでマーケティングとAIの領域に5年携わり、ソフトウェアエンジニアの素養も持つ。11SIX24を始める前に2つのテックスタートアップを売却した経歴もある。いわゆる業界のエリート選手出身でも、老舗メーカーの二代目でもない、完全な外様だ。

きっかけは個人的な不満だった。週に4〜6回プレーするなかで、220ドルほど払った高価なパドルが3カ月で割れた。これだけ高い道具がなぜこんなに脆いのか、という疑問が「壊れにくく、性能も妥協しないパドルを自分で作る」という発想に転じた。立ち上げは2023年春。最初は自宅アパートで、パドルと梱包材と試作モデルが部屋を埋め尽くす状態から、custom-madeのパドルを手売りし、最初の100本を2023年の春から夏にかけて売り切った。

ブランド名の由来も、この人物らしい。ゼリービーンズの数を当てるゲームで瓶を見つめ、当てた数がぴったり11,624個。そのまま社名になった。2023年後半には中国の別の製造パートナーとつながり、湾曲したトップと長めのグリップを持つ縦長モデル「Huarache-X」を実現。手応えをつかんだ2024年半ば、本業を辞めて会社に専念する決断をしている。

209.99ドルという価格の意味

11SIX24の主力Power 2シリーズは209.99ドル。トップ層向けパドルを250ドル以上で売る大手が多いなか、性能を落とさずに価格を抑える「バリュー」のポジションを明確に取っている。創業者自身、「200ドル以上払うなら、数カ月で壊れてほしくない」という言葉でブランドの存在意義を説明している。

項目 11SIX24 Power 2シリーズ 大手のトップ価格帯
価格 209.99ドル 250ドル以上が多い
主な訴求 耐久性・スピン持続・価格 ブランド・プロ採用・最新技術
出自 2023年・個人のアパート発 既存スポーツ用品・専業大手

価格を抑えながら「割れない」を前面に出す戦略は、単なる安売りとは違う。高価格帯のパドルに不信感を持ったヘビーユーザーという、明確に存在する不満層を狙い撃ちしている点がポイントだ。市場の隙間を価格表ではなく「体験の不満」から見つけている。

プロが大手から乗り換えた、という事実

ブランドの転機は、プロの採用だった。同ブランド初のPPAツアー契約プロとなったDekel Bar選手は、2026年初頭から、当時未発売だったVapor Power 2を使い始めた。注目すべきは、彼がそれまでJOOLAを使っていた、つまり大手から新興ブランドへ乗り換えたという点だ。加えて、PPAツアーでトップ20入りするAugie Ge選手、若手の有望株Will MacKinnon選手も契約に加わった。

業界の見方も変わりつつある。米メディアの一部は、11SIX24を「2025年に倒すべきブランド」と位置づける分析を出した。レビュー系メディアは新作Vapor Power 2を実機レビューで取り上げ、「水面下のブランドから主要プレーヤーへ」と評している。創業者がカスタマーサポートを外注せず自ら対応し、自動返信の裏に隠れない姿勢も、コミュニティ重視の評判につながっている。プロの実使用・第三者メディアの評価・ユーザーとの距離の近さ、この3点がそろって初めて「契約プロがいるだけの無名ブランド」を抜け出した。

日本のプレーヤー・中小ギアメーカーへの示唆

このブランドの逆転劇から、日本のプレーヤーと作り手が学べることは多い。

プレーヤー側の示唆はシンプルだ。パドル選びで「大手だから」「高いから良いはず」という前提を一度外す価値がある。11SIX24の出発点は、高価なパドルが3カ月で割れたという当たり前の不満だった。価格と耐久性、スピン持続のような実用指標で、新興ブランドが大手の上位機種に並ぶ局面が現実に起きている。海外通販やレビュー情報を冷静に読み、自分のプレースタイルと予算に合うものを選ぶ目が、これからの日本のプレーヤーにも効いてくる。

作り手側、とくに自社で道具を作る日本の中小メーカーへの示唆はさらに重い。11SIX24は潤沢な資金も有名選手出身という看板も持たずに、(1)実体験から生まれた明快な不満解決(割れない・スピンが続く)、(2)価格250ドル超の大手に対して209.99ドルという立ち位置、(3)創業者本人が顧客と直接やり取りする近さ、で割って入った。道具づくりに限らず、自社製品で勝負する小さな作り手に共通する構図だ。大手が取りこぼした不満を一点突破で解決し、価格の意味を語り、作り手の顔が見える。少人数でも、この3点がそろえば大手が並ぶ棚で選ばれる余地は確実にある。

関連して、大手の参入と新興の逆張りが同時に進む今の市場構造も押さえておきたい。スケッチャーズがパドル市場に参入した動きや、ミズノが米国でパドル5モデルを発売した戦略は大手側の攻勢を示す。一方で米FLiKの逆張りパドル戦略は、11SIX24と同じく小さく鋭く攻める側の生き方を示している。

市場全体への波及

個人のアパート発のブランドがプロを大手から引き抜けたという事実は、ピックルボールのギア市場が依然として流動的であることの証拠だ。競技人口の急拡大に対して、ブランドの序列はまだ固まっていない。大手の資本力とブランド力、新興の機動力と価格、そして契約プロの実使用という評価軸が交錯し、参入障壁が一時的に低い局面が続いている。

この流動性は、海外ブランドの動きとも連動する。世界2位の座をうかがう新興メーカーが米国へ進出する事例も出ており、越パドルFacolosが世界2位を獲得し米国進出した動きは、米国一強だったパドル供給網がアジアにも広がりつつあることを示す。製造を中国などのパートナーに委ね、ブランドと顧客接点を自社が握るという11SIX24型のモデルは、この国際的な供給網の変化と相性が良い。日本の作り手が世界市場を見据えるうえでも、製造とブランドの分離・連携という発想は参考になる。

実用情報・関連リンク

11SIX24のパドルは現状、米国を中心に展開されており、日本からは海外通販が主な入手経路になる。Power 2シリーズは209.99ドルが基準価格で、Ultré、Huarache-X、Vaporなど形状違いのモデルがある。フラット形状で扱いやすさ重視ならUltré、リーチを取りたいなら縦長のHuarache-X、という選び分けが目安だ。購入前にはレビュー系メディアの実機レビューで、自分の重視する指標(スピン・コントロール・パワー)に合うかを確認したい。

市場全体の動きは関連記事もあわせて読むと立体的に見える。ミズノの米国パドル発売やFacolosの米国進出と並べて見ると、大手・新興・海外勢の三つ巴がよく分かる。

まとめ

11SIX24の物語は、プレゼント企画の一行情報の裏に隠れていた。元HubSpotエンジニアがアパートで100本を手売りし、209.99ドルという価格で大手の上位機種に挑み、JOOLA契約だったプロを引き寄せた。資金でも看板でもなく、実体験の不満解決・価格の説明・作り手の近さで割って入った構図は、自社で道具や食品を作る日本の中小メーカーにそのまま示唆を投げかける。次の一手として、プレーヤーなら次のパドル選びで新興ブランドのレビューを一度フラットに比較してみること、作り手なら「大手が取りこぼした不満は何か」を自社製品に当てて言語化してみることを勧めたい。棚の序列がまだ固まっていない今こそ、小さな作り手にとっての好機だ。

参照元

  • The Dink Pickleball・11SIX24 Power 2 Ultré giveaway
  • The Kitchen Pickleball・How 11SIX24 went from an under-the-radar brand to major player
  • Speak Pickleball・Case Study: 4 Reasons 11SIX24 Will Be the Pickleball Brand to Beat in 2025
  • The Kitchen Pickleball・In-depth review of the new 11SIX24 Vapor Power 2
パドル ブランド 海外
11SIX24 パドルブランド 海外トレンド
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この記事を書いた人

小島 怜のアバター 小島 怜

ベトナム在住3年目のピックルボール愛好家です。高校時代はバドミントン部に所属し、シャトルを追う毎日を過ごしていました。現在はホーチミンの熱気の中、バドミントンの経験を活かしたスピーディーなボレーと、ピックルボール特有の戦略的な駆け引きにどっぷり浸かっています。現地のコート情報や、バドミントン経験者ならではの上達のコツなど、ベトナムのリアルなプレイ環境をゆるく発信していきます!

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