バスケットボールシューズから出発した米シカゴのStria Sport(ストリア・スポーツ)が、ピックルボール専用の競技靴「G1 Pro」で市場に入ってきた。共同オーナー兼クリエイティブディレクターには、NBAオールスターに2度選ばれたアンドレ・ドラモンドが就いている。価格は130ドル(約1万9,500円、1ドル=約150円・2026年9月時点)。カントリークラブ発祥の穏やかな競技に、スニーカー文化の派手さを持ち込む一手であり、用具の選択肢が増えつつある日本のプレーヤーと販売店にとっても、棚の空白を映す出来事になる。
バスケ由来のスニーカー文化がコートに入ってきた
Stria Sportは、バスケットボールシューズで培った設計をそのままピックルボールへ持ち込んだ。The Dinkの取材によれば、同社は横の動きと素早い切り返しに耐える一足としてG1 Proを開発したという。ワイドで安定した接地面、内側のヒールカップ、衝撃を吸う発泡素材、足首まわりのサポート、通気性のあるメッシュを備え、コート上のクイックな方向転換を前提に組み立てている。
用具を「身体の動きから逆算して作る」流れは、パドルメーカーの側からも起きている。日本でも取り上げたSix Zeroが動きから逆算して作った初のコートウェアと同じ発想で、ブランドが選手の使い方から製品を積み上げ始めた。靴という最後発の領域に、まったく畑違いのバスケ資本が最初から専用設計で乗り込んできた点が新しい。
G1 Proは1万9千円台、何を売りにしているか
G1 Proの130ドルという値付けは、ピックルボール専用シューズとしては中位から上のレンジに入る。Pure、Glacierといったカラー展開を用意し、男女のサイズをそろえ、自社サイトと一部の小売で扱う。テニスシューズやランニングシューズを流用するプレーヤーが多い日本の現状に照らすと、この価格帯で「ピックルボール専用」と言い切って売る靴はまだ数えるほどしかない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 拠点 | 米シカゴ |
| 出自 | バスケットボール向けシューズ |
| 主要人物 | アンドレ・ドラモンド(共同オーナー兼クリエイティブディレクター)/ガベ・タルディオ(シグネチャー開発の現役プロ) |
| 製品 | G1 Pro コートシューズ |
| 価格 | 130ドル(約1万9,500円) |
| カラー | Pure・Glacierほか、男女サイズ展開 |
| 販路 | 自社サイト+一部小売 |
ドラモンドは広告塔ではなく製品を作る側にいる
ドラモンドは2026年にStriaへ資本参加し、単なる出資者ではなく、製品デザインや選手契約、会社の方向性まで担うクリエイティブディレクターを兼ねる。名前を貸すだけの起用とは一線を画す関わり方だ。本人は自社の立ち位置を「肩肘張らずに大胆で、排他的にならずにプレミアムで、遊びを失わずに性能に本気」と表現する。
シグネチャーモデルを共同開発した現役プロのガベ・タルディオも、開発の狙いをこう説明する。「ただ性能を追うだけの靴を作るのではなく、何が格好よくて、選手が本当に履きたいと思うか、どうスポーツに文化を持ち込むかだ」。性能の話に見た目とカルチャーを同じ重みで並べる姿勢が、既存の競技用具ブランドとの差になっている。
クロスオーバー招待に集まったNFL選手やラッパー
Striaがローンチに合わせて開いた「Crossover」イベントには、競技の外側からも顔ぶれが集まった。NFLのジャービス・ランドリー、ラッパーのRiff Raffが参加し、現役プロのジェシー・アーバイン、クリス・クラウチらも名を連ねた。同社はライジングプロのダニエル・タウンゼンドとも契約している。異なるスポーツやエンタメの人間を同じコートに集める見せ方は、ピックルボールを「運動」ではなく「カルチャー」として売る意図をはっきり示す。
用具ブランドが競技の露出そのものに張る動きは、日本でも起きている。サポーターメーカーの参入を伝えたザムストのPPAツアー年間協賛と並べると、用具側がプロツアーや著名人という「面」に投資して市場全体を温める段階に入ったことがわかる。
日本の販売店に見える品揃えの空白
G1 Proが日本にすぐ正規で並ぶかは未定だが、この参入は国内の小売にとって示唆が大きい。ピックルボール専用シューズの品揃えは、テニス・バドミントン用の転用に頼っている店が多く、専用モデルを軸にした売り場はほとんど育っていない。横の動きに特化した専用靴を求める中上級者の需要は、体験会からステップアップした層を中心に確実に増えている。
専用靴が効くのは見た目の話にとどまらない。ピックルボールはコートが狭く、短い距離での急停止と横滑りを繰り返すため、前後の動きを想定したランニングシューズでは足首や膝への横方向の負荷を受け止めきれない場面が出る。接地面を広く取り、ヒールカップで踵を固定するG1 Proの設計は、この横の力に的を絞ったものだ。転用組が一度専用靴を履くと元に戻れないと言われるのは、この一点の差が大きいからでもある。
異業種がブランドごと競技に入る構図は靴に限らない。EV大手が車オーナー限定でパドルを出したテスラのパドル第2弾Aurumのように、既存ファン層を競技へ流し込むアプローチが増えている。靴という毎回必ず身につける品目でそれが起きれば、リピート購入の起点になりやすい。
スニーカー好きを店頭で動かす具体策
国内の販売店や輸入を検討する側が今できる手は三つある。第一に、専用シューズの試し履きコーナーを体験会と併設し、転用組に横方向の安定感を体感させること。第二に、カラーやデザインを前面に出し、機能表だけでなく「履きたい一足」として陳列すること。第三に、価格帯が近いパドルやサポーターとセットで提案し、客単価を積むことだ。
Striaの動きは、ピックルボールが用具の「専用化」と「カルチャー化」を同時に進める段階に入った証拠でもある。専用靴という土俵で先に売り場を作った店が、これから伸びる中上級者の指名買いを取りにいける。
参照元:The Dink Pickleball「The Disruptor Shoe Brand Bringing a New Swagger to Pickleball」

