7月4日に閉幕した「PPA ASIA 500 Sansan TOKYO OPEN 2026 Produced by TBS」で、テニススクール大手ノアインドアステージのコーチ・坂根直樹が、アマチュア男子シングルス(19歳以上)部門を制した。プロの表彰台では船水雄太の男子ダブルス優勝が大きく報じられたが、同じ立川の会場では、ピックルボールを人に教える立場の指導者が、自らプレーヤーとして頂点に立っている。日本のピックルボールはテニス経験者の流入で膨らんでおり、当サイトでもテニス経験者の72.5%が関心を示す市場の余白を伝えてきた。その受け皿をつくる側であるスクールのコーチ自身が国際大会のアマ頂点に立った意味を、事実から掘り下げる。
立川で起きたこと、指導者がアマ男子シングルスを制す
坂根が制したのは、PPA ASIA 500 Sansan TOKYO OPEN 2026のアマチュア男子シングルス、19歳以上のカテゴリーだ。大会は2026年7月1日から4日まで、東京都立川市のアリーナ立川立飛とドーム立川立飛で開催された。世界最高峰のPPAツアーがアジアで展開する公式戦で、プロ部門と並行してアマチュア部門が同じ施設で組まれている。
坂根はノアインドアステージが運営するテニス&バドミントンスクール・ノア横浜井土ヶ谷校に籍を置き、テニスとピックルボールの両方を担当する現役コーチだ。つまり普段は初心者にラケットの握り方から教えている人物が、国内で開かれた世界規模の大会で、19歳以上の一般区分を勝ち上がって金メダルを持ち帰った。プロ選手の快挙とは別の角度で、競技の裾野がどこまで厚くなってきたかを映す結果である。
ノアインドアステージという背景、35校・約4万人の指導網
坂根個人の優勝は、彼を抱える企業の規模とセットで見ると意味が立ち上がる。ノアインドアステージは兵庫県姫路市に本社を置き、1980年創業のインドアテニス運営会社だ。全国に35校を展開し、スクール生は約4万人。2024年3月時点で売上高68億円、従業員1,023名という国内でも屈指の規模を持つ。
そのノアが、テニスで積み上げた屋内コートと指導システムをそのままピックルボールへ転用し始めたのが2025年1月。兵庫の尼崎塚口校などでクラスを立ち上げ、全国展開へ動き出した。現在は大阪・兵庫を中心に神奈川、東京、愛知、埼玉、京都まで教室が広がっている。ラケットとボールは無料貸出で手ぶら参加を可能にし、天候に左右されない室内環境を売りにする設計は、テニススクールの運営ノウハウをほぼ横滑りさせたものだ。指導者の一人が大会で勝ったという事実は、この事業に「教える側の実力」という裏づけを与える。テニスコートをピックルボール面に転換する動きは各社に広がっており、ミズノが府営公園でテニス2面を6面のピックルコートに変えた取り組みもその一例だ。
数字で見るアマチュア部門、プロと同じ屋根の下で戦う設計
今大会のアマチュア部門は、プロ興行の付帯イベントではなく、明確なカテゴリー設計を持って組まれていた。区分と参加条件を整理すると次のようになる。
| Item | Details |
|---|---|
| Tournament Name | PPA ASIA 500 Sansan TOKYO OPEN 2026 Produced by TBS |
| 会期・会場 | 2026年7月1日〜4日/アリーナ立川立飛・ドーム立川立飛(東京都立川市) |
| 坂根の優勝部門 | アマチュア男子シングルス(19歳以上) |
| アマ年齢区分 | 18歳以下/19歳以上/35歳以上/50歳以上 |
| アマスキル区分 | 各年齢でスキル3.5以上/3.499以下に分割 |
| アマ参加費 | 1種目60USドル+登録料70USドル(プロは1種目90USドル) |
ポイントは、アマチュアが年齢とスキルレーティングで細かく分けられ、プロと同じアリーナ立川立飛で試合を戦える構造になっていたことだ。スキル3.5という物差しは、レクリエーションから本格志向へ移る境目にあたる。坂根が勝ったのはこの中で最も競争が濃くなりやすい19歳以上の枠であり、指導者ならではの戦術理解が結果に効いたと見るのが自然だ。
この優勝をめぐる事実関係
関係者の背景を並べると、勝った一戦が単発の幸運ではないことが分かる。
- 坂根はノア横浜井土ヶ谷校でテニスとピックルボールの両方を担当する現役コーチで、教える側が競技者としてもトップアマの実力を持つことを示した
- ノアインドアステージは全国35校・約4万人のスクール生を抱える大手で、優勝リリースを自社の総合情報サイトでも告知し、事業のショーケースとして扱っている
- 大会はSansanが冠スポンサー、TBSがプロデュースに入り、プロとアマが同一会場で並走する興行として設計された。アマの金メダルにも大会ブランドの後光が差す構図だ
プロの優勝報道が競技の「頂点」を可視化するとすれば、指導者のアマ優勝は競技の「厚み」を可視化する。日本のピックルボール競技人口はおよそ33万人とされ、その多くはテニスやバドミントンからの流入組だ。教える立場の人間がアマの最上位区分で勝ち切ったことは、少なくともそのコーチ個人の技量が競技者としても高い水準にあることを示す。それを「指導の質」一般にまで広げるのは早計だが、スクールの現場に競技経験の裏づけを持つ指導者がいる意味は小さくない。
テニススクールにとっての示唆、指導ブランドと競技人口の受け皿
この優勝が、国内のスポーツ事業者に投げかける論点は三つある。
First,指導者の競技実績がそのままスクールの営業材料になるという点だ。ピックルボールはまだ「誰に習えば上達するか」の基準が固まっていない。そこへ国際大会のアマ王者という肩書きを持つコーチが在籍していれば、初心者が入会先を選ぶ際の分かりやすい指標になる。テニスで培った指導体系を持つ既存スクールが、この分野で先行者になれる余地は大きい。
Second,既存の屋内スポーツ施設が競技人口の受け皿として機能することだ。ノアはテニスコートと運営システムを流用してわずか1年半で全国に教室を広げた。空調の効いた室内で手ぶら参加できる環境は、屋外コートの不足という日本特有のボトルネックを迂回する。同様に既存の運動施設が本格参入する動きは他業態にも及んでおり、ティップネスが45店舗で本格展開に踏み出した動きと重ねて見ると、受け皿の主役が個人経営の専用コートから大手チェーンへ移りつつある流れが見える。
Third,アマチュア大会の設計が普及の速度を決めるという点だ。今回のように年齢とスキルで細かく区分し、プロと同じ会場で戦える大会があると、教える側にも習う側にも「次に目指す舞台」が具体化する。坂根の優勝は、その舞台が実在し、指導者が本気で狙う対象になったことの証明でもある。運営側にとっては、アマ区分をどう切るかが参加者数を左右する経営判断になる。
ノアのピックルボール事業・基本情報
坂根が所属するノアインドアステージのピックルボール展開を、公開情報からまとめておく。
| Item | Details |
|---|---|
| Operating company | ノアインドアステージ株式会社(兵庫県姫路市・1980年創業) |
| 企業規模 | 全国35校・スクール生約4万人(売上高68億円/従業員1,023名・2024年3月時点) |
| ピックル始動 | 2025年1月に全国展開へ始動(兵庫・尼崎塚口校ほか) |
| 展開エリア | 大阪・兵庫を中心に神奈川・東京・愛知・埼玉・京都 |
| レッスンの特徴 | 室内コート・用具無料貸出・初心者と経験者向けクラス |
| 代表的コーチ | 坂根直樹(横浜井土ヶ谷校/テニス・ピックルボール担当) |
まとめ、次に確かめるべきこと
プロの快挙が主役になった東京オープンで、テニススクールのコーチがアマ男子シングルスを制した。船水雄太の優勝が「日本人が世界で勝てる」ことを示したとすれば、坂根直樹の優勝は「教える側もそこまで強くなっている」という競技の成熟を示している。国内でピックルボールを始めようとする人にとって、ここから追うべきは三点だ。第一に、ノアのような大手スクールが指導者の実績をどう教室運営に反映させるか。第二に、既存のテニス・フィットネス施設がコート転換をどこまで進めるか。第三に、来季のアマチュア大会がスキル区分や種目をどう組み替えるか。まずは近所の屋内施設がピックルボールのクラスを持っているか、体験会の告知を確かめてみてほしい。
