マニラのフォーブスパークにあるマニラ・ゴルフ&カントリークラブが、2026年9月7日からピックルボールのコート料金を1面1時間1,000ペソに切り替えた。1ペソ=約2.52円(2026年9月28日時点)で換算すると約2,500円。エアコンを使わなければ700ペソ(約1,760円)で、会員が同伴するゲストは1人1時間につき300ペソ(約760円)が加算される。フィリピンの経済メディアBilyonaryo Businessが9月27日に報じた。会員権が1株1億6,000万ペソ(約4億円)で取引される倶楽部が、1時間2,500円の競技を会員向けに開いた。日本のゴルフ場やリゾートが「空いている時間と場所に何を足すか」を考えるとき、この値付けと転用のしかたはそのまま読み替えが効く。
新料金は1面1時間1,000ペソ、エアコンなしなら700ペソ
Bilyonaryoによると、新料金は8月20日の理事会で承認され、9月3日付の会員向け通知で告知された。30分単位の設定や按分はなく、1時間刻みで課金する。それまで会員は定額を払う方式で、隣接するマニラ・ポロクラブと似た仕組みだったという。
注目したいのは水準そのものだ。同誌は、メトロマニラの高級な商業コートでもプライムタイムの料金が1時間1,000ペソ近くに届く、と書いている。つまりマニラゴルフは、会員限定の施設でありながら市中の相場と同じ値段を付けた。会員権の相場は5月時点で1億9,000万〜2億1,500万ペソ(約4億8,000万〜5億4,000万円)だったものが、足元では1億6,000万ペソ前後に落ち着いている。4億円の入口を通った人に対して、1時間2,500円は収益源として設計されていない。
コートを新設せず、バドミントン施設の一部を切り替えた
このコートは更地から造ったものではない。Bilyonaryo News Channelの番組共同アンカーであるFil Sionil氏が新聞コラムで報じたところでは、マニラゴルフは需要に応えるためにバドミントン施設の一部をピックルボール用に転換した。同氏はマニラゴルフとアラバン・カントリークラブの会員の話として、予約の待ち行列が長く、コートの空きが逼迫している状況を伝えている。
アラバン・カントリークラブのほうは、ピックルボール・パデル・バドミントン・バスケットボールを兼ねる多目的コートを建てた。片方は既存屋内施設のライン引き替え、もう片方は兼用前提の新設。同じ「取り込む」でも投資規模はまったく違う。マニラゴルフが選んだのは、稼働の落ちた屋内ラケット施設を別競技に振り向ける、初期投資を抑えやすい方法だった。
ピックル1面に要る広さは約61坪、テニス1面の区画より小さい
ここが日本の施設運営者にとって一番の実務情報になる。USA Pickleballの2026年版公式ルールブックは、コートを幅20フィート×長さ44フィート(6.10m×13.41m)と定めている。そのうえでプレー面の最小寸法を30フィート×60フィート(9.14m×18.29m)、新設時の推奨寸法を34フィート×64フィート(10.36m×19.5m)としている。ネットの高さはサイドライン上で36インチ(91.44cm)、センターで34インチ(86.36cm)だ。
| Category | 寸法 | Area | 坪換算 |
|---|---|---|---|
| コートのライン内側 | 6.10m×13.41m | 約81.8㎡ | 約24.7坪 |
| プレー面の最小 | 9.14m×18.29m | 約167㎡ | 約50.6坪 |
| 新設時の推奨 | 10.36m×19.5m | 約202㎡ | 約61.1坪 |
| (参考)テニスのダブルスコート | 10.97m×23.77m | 約261㎡ | 約78.9坪 |
寸法はUSA Pickleballの公式ルールブック、テニスはITFのRules of Tennis 2026による。面積と坪は掛け算した値だ。推奨寸法で造っても、テニス1面のライン内側の8割弱にしか届かない。閉鎖したテニスコート1面、練習場の端、使われなくなった屋外の多目的スペース。そういう場所の大半は、1面なら物理的に収まる。
逆に言えば、面積で困ることは少ない代わりに、決め手は舗装の平滑さ、隣のコートやボールが飛ぶ先を止めるフェンス、そして夜に使うなら照明になる。ゴルフ場は夜間の照明設備を持たない施設が多いので、ナイター化するかどうかで投資額の桁が変わる。
フィリピン側は「予約が取れない」、モールも駐車場を塗り替えた
フィリピン側の動きは倶楽部だけではない。同じBilyonaryoは2025年5月、SMモールが「Active Hub」の名称で商業スペースと駐車場をコートに転換し、SMシティ・サンタメサ、SMシティ・ビクタン、SMシティ・マリキナで展開を始めたと報じている。予約はSMチケット経由だ。
競技側の土台も同時に厚くなっている。マニー・パッキャオ氏が12チーム構成のプロツアーをフィリピンで立ち上げたのは10月開幕で、用具ブランドのフランクリンもアジア展開の初戦にマニラを選んだ。会員制クラブの空き施設、モールの駐車場、プロリーグ。この3つが半年ほどの間に同じ都市で重なった。Sionil氏が「予約が取れない」と書くのは、供給が需要に追いついていないという意味でもある。
日本のゴルフ場が埋められていない時間はどこにあるか
日本側の数字を置いておく。経済産業省の特定サービス産業動態統計調査でゴルフ場の長期時系列を見ると、調査対象施設の利用者数合計は2021年が1,025.8万人、2024年が1,031.2万人でほぼ横ばいだ。ところが内訳の会員利用者は2021年の321.6万人から2024年は296.3万人へ減っている。構成比では31.4%から28.7%に下がった。うち会員の平日利用は139.5万人から129.4万人へ。同じ期間に非会員は704.2万人から734.9万人へ増えている。なお同調査は調査対象の追加などで過年度と不連続が生じる旨が注記されているため、水準そのものより方向を見るのが妥当だ。
読み方はシンプルで、総来場は保っているが、会員が来る回数は落ちている。ビジター販売でラウンド数を埋める構図が強まっているということになる。マニラゴルフがやったのは、この「会員が来なくなった時間」を、ゴルフ以外の理由で埋め直す作業だった。しかも18ホールを触らずに、屋内ラケット施設の一部だけで。
客単価ではなく、会員が帰らない理由を1つ増やしている
1面1時間2,500円を会員権の価格と比べると、コート料金だけを主な収益源にする設計とは考えにくい。ダブルスなら4人で割って1人あたり約630円。日本の商業施設と比べると差は歴然で、豊洲に開業したPICKLRの屋内コートは非会員が1人1時間2,500円だから、1コート単位で同額のマニラゴルフは4分の1の水準になる。
では倶楽部側の取り分はどこにあるのか。3つある。ひとつはゲスト課金で、1人1時間300ペソは会員が外から人を連れてくるたびに発生する。会員権4億円の倶楽部にとって、ゲストは将来の入会候補そのものだ。ふたつめは滞在時間で、ラウンドしない日でもクラブハウスに来る用事ができれば、飲食と物販が動く。みっつめは家族と年代で、ピックルボールは1面あたり4人が入り、上達の初速が速く、ラウンドのように半日を空ける必要がない。会員の配偶者と子どもが平日夕方に使える設備は、ゴルフ場にはほとんど存在してこなかった。
米国の私設クラブでは、この置き換えがすでに標準の投資項目になっている。ゴルフ業界誌Golf Inc.が2026年の設備特集で挙げた例では、フロリダのWyndemere Country Clubが7面(うち1面は観客160席のスタジアムコート)を、バーモントのQuechee ClubとアリゾナのDesert Highlandsがそれぞれ4面を備える。競技人口の側も、SFIA(米スポーツ・フィットネス産業協会)の集計で2025年の実施者は2,430万人、2020年の約420万人から479%増えている。
コンペ文化と予約システムが、日本では先に引っかかる
面積が足りるからといって、そのまま移植できるわけではない。日本のゴルフ場には固有の運用がある。
- コンペ文化。組単位・スタート時刻単位で1日を設計しているので、1面1時間というコート予約の粒度と噛み合わない。同じ予約台帳に載せると、どちらかが窮屈になる。
- キャディと人員配置。ラウンドに張り付く人手をコート運営に割けない。無人の予約制にするか、フロント業務に統合するかを先に決めないと、開けた初週で回らなくなる。
- 予約システム。ゴルフ場の予約は1組4名・9分間隔のスタート枠が基本で、時間貸しコートの在庫管理とはデータ構造が別物になる。既存システムに機能がなければ、コートだけ外部の予約サービスに逃がすほうが早い。
- メンバーシップの建て付け。会員権の権利範囲にゴルフ以外の施設利用が含まれるか、追加課金を理事会決議でどう扱うか。マニラゴルフが理事会承認と会員通知の日付を明示しているのは、この手順が要るからだ。
先行例は国内にもある。軽井沢ではスキー場が雪のない季節に屋内コートを開いた。季節で遊ぶ設備が空くという構造は、ゴルフ場の平日午後とよく似ている。
いま動くなら、どこから手をつけるか
施設側が最初にやることは、空いている土地を探すことではない。空いている時間を数えることだ。平日午後にクラブハウスへ来ている会員が何人いて、そのうち何人がラウンドせずに帰っているか。その人数が二桁あるなら、1面で足りる。
手順としては、既存の屋内ラケット施設か閉鎖中のテニスコートがあればライン引きから試し、なければ約61坪の平坦な舗装面を仮設ネットで運用して需要を測る。料金は最初から時間単位・按分なしで固定したほうが受付が楽になる。マニラゴルフも30分刻みを設けておらず、受付を簡潔にする設計として参考になる。ゲスト課金は分けておくと、後から入会導線として数字が追える。
18ホールに手を触れずに、屋内施設の一部だけで足りた
マニラゴルフの一件は、伝統的な富裕層クラブがゴルフを縮めた話ではない。18ホールには一切手を触れず、稼働の落ちた屋内施設の一部を別競技に回し、市中相場と同じ値段を付けて会員に開いた。投資は最小、値付けは収益ではなく滞在時間と同伴者に向けられている。
日本のゴルフ場・カントリークラブ・リゾートが試すなら、まず平日午後の滞在データを1か月分取ること。次に、既存の屋内ラケット施設か遊休舗装面で1面を仮設し、3か月回して予約率を見ること。この2つだけなら、コート1面分の資材と受付の運用変更で済む。マニラの倶楽部が9月に踏んだのも、その程度の手順だった。
Sources
- Bilyonaryo Business「P160M to join, P1,000 to play: Pickleball fever hits Manila Golf」
- Bilyonaryo Business「Pickleball mania hits SM Malls as spaces turn into sports courts」
- USA Pickleball「2026 Official Rulebook」
- ITF「Rules of Tennis 2026」
- 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」長期時系列表 ゴルフ場
- SFIA「U.S. Pickleball Participation Statistics」
- Golf Inc.「Amenity of the Year 2026: Reshaping the member experience」
