米国発の屋内ピックルボール・チェーン、Pickleball Kingdomが初の海外クラブをインド・グルガオンに開いた。公式発表は2026年7月22日付で、コートは屋内8面、うち2面は観戦を織り込んだ「King Court」と説明されている。運営に立つのはブランド本体ではなく、現地の3人が率いるBAQ Wizardsという事業体だ。日本でも米国型の屋内クラブが動き始めたいま、この1号店は「誰の資本で、どれだけの期間で建ったのか」という角度から読むと、国内の施設づくりにそのまま跳ね返ってくる。
まず日付を確定させる——相対表記の元記事と、7月22日の公式発表
起点になったPickleball News Asiaの記事は、掲載日を「4 days ago」という相対表記でしか出していない。本稿を書いている2026年7月27日から逆算すれば7月23日ごろの掲載にあたるが、これは推定の域を出ない。日付として確定できるのはPR Newswireで配信された公式発表のほうで、ダテラインに「GURUGRAM, India, July 22, 2026」と明記されている。したがって本稿の事実関係は、相対表記の二次媒体ではなく7月22日付の公式発表と運営者の公式ページを基準に置いた。
その公式発表によれば、クラブの住所はハリヤナ州グルガオンのSector 70、Darbaripur Road沿い(354/2, Darbaripur, Gurugram, Haryana 122101)。8面すべてが屋内で、通年でのプレーを前提に設計されている。プロによるコーチング、デイリーのオープンプレー、コート予約、リーグ戦、大会、コミュニティイベントに加えて、無料の初心者向けクラス「Pickleball 101」が置かれた。会費や利用料は、公式発表にも元記事にも出てこない。
契約発表は2025年11月、そこから開業まで約8カ月
インド進出は2026年に突然決まった話ではない。同社は2025年11月12日にフェニックス発の発表を出し、BAQ Wizardsをインドの展開パートナーとして公表している。この時点で創業者兼CEOのAce Rodriguesは「初日から、インドが海外展開の第一候補だった」と述べ、7月22日の開業発表でも同じ主旨を繰り返した。日本ではなくインドが先に選ばれた理由を、同社は「エネルギー、身体を動かす気質、コミュニティへの愛着」という言い方で説明している。数字の裏づけを伴う説明ではないが、少なくとも順番は言葉どおりになった。
注目すべきは時間軸のほうだ。パートナー公表から開業までおよそ8カ月。屋内8面規模の施設としては速い部類に入る。2025年11月の発表には、米国内ですでに400を超える出店枠が付与済み(awarded)だという記述もある。ここは読み違えやすいところで、awardedは加盟契約上の権利が渡っているという意味であって、400店が営業しているという意味ではない。米国では潰れた手芸店チェーンの跡地が8面のコートに化ける事例も出ており(8 courts in a shuttered craft store, how America's vacant shops turn into courts)、権利の消化速度を決めているのは箱の供給だ。インド1号店が「権利」ではなく「開業」として発表されたことの意味は、そこにある。
インド市場の数字——コートは6倍、1面の整備費は50万円台から
インド政府系の投資情報機関IBEFが2025年10月にまとめた記事に、比較可能な数字が並んでいる。以下は同記事とPickleball Kingdomの公式発表から、出典が特定できるものだけを拾ったものだ。ルピー建ての換算は1ルピー=約1.7円で計算している。
| Item | Figure | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 稼働コート数 | 約200面 | 2024年初(IBEF) |
| 稼働コート数 | 1,200面超 | 2025年前半(IBEF) |
| Playing population | 約6万人 | 2024年(IBEF) |
| 競技人口の見通し | 100万人 | 2028年・AIPA推計(IBEF掲載) |
| コート1面の整備費 | 30万〜50万ルピー(約51万〜85万円) | IBEF |
| 米国内で付与済みの出店枠 | 400超(awarded) | 2025年11月12日・同社発表 |
| グルガオン店の面数 | 屋内8面(King Court 2面を含む) | 2026年7月22日・同社発表 |
日本側の数字も並べておく。ピックルボールワンが2026年3月に約3万人を対象に実施したインターネット調査では、国内の競技人口は約33万人、前年の約4.5万人からおよそ7倍。認知率は13.1%で、テニスプレーヤーのうち72.5%が関心を示したという結果だった。公式団体による全国推計は公表されていないため、これは民間推計である点は押さえておきたい。つまり2024〜25年の時点では、インド(約6万人)と日本(約4.5万人)は同じ桁にいた。分かれたのはその先で、インドはコート整備を6倍にしながら人を増やし、日本は人が先に増えている。
「クラブを開くのではなく、ムーブメントを作る」と現地3人組は言った
BAQ WizardsのBhanu Gulatiは、開業に際して「私たちはクラブを開いているのではなく、ムーブメントを作っている」と述べ、ピックルボールを年齢・コミュニティ・都市を越えた誰のものにもする、という言い方をした。同じくAnuj Duggalは「楽しさ、熱気、大きな笑顔を見られたことが本当に励みになった」と語っている。3人目のQudrath Aliは「Pickleball Kingdomをインドに持ち込むことは、この国のスポーツに新しい風を吹き込むこと」とし、「いつか人々が『インドのピックルボールはここから始まった』と振り返るようにしたい」と続けた。
ブランド側の言い方は少し違う。President兼Chief Global OfficerのRob Streettは、開業を世界展開における転換点と位置づけたうえで、「Bhanu、Anuj、Qudrathがここに作り上げたものは、インドの屋内スポーツに新しい基準を打ち立てた」と3人の側に手柄を寄せている。フランチャイズ本部が自社の設計力ではなく加盟者の実行力を前面に出すのは、次のパートナーに向けた語りかけでもある。実際に同社はインド国内で追加の事業パートナーを募集していると公表している。
日本の運営者に効くのは面数ではなく「誰が建てたか」
日本の読者がこのニュースから持ち帰れるのは、8面という規模ではない。屋内8面を作った主体が、外資の直営でも大手デベロッパーでもなく、名前を出した3人の事業体だったという一点だ。日本では豊洲のThe Picklrが開業3カ月前から会員を先取りする資金設計で立ち上がっており(US Picklr's 7-court indoor venue in Toyosu, and the funding design that locked in members 3 months before opening)、Sansanのように本業のマーケティング予算がコートを支える例もある。いずれも「資本のある側」が入口に立っている。
グルガオンの構図はその逆で、ブランドが看板と運営様式を出し、土地・工事・雇用のリスクは現地が負う。IBEFが示すインドのコート整備費は1面あたり50万〜85万円程度だが、これは屋外の簡易な整備を含んだ水準とみられる。日本の屋内施設は空調・照明・床の要求水準が違ううえ、都市部の賃料が段違いだ。同じ8面を個人3人で建てる絵は、日本ではまだ描きにくい。
現実的な読み替えは、面数を落として同じ構造を採ることになる。インドでも床屋を営む人物がコート不足の逆算から市場そのものを立ち上げた例が出ている(In an Era Short on Courts, a Barber Builds a Market from Scratch in India)。看板を借り、運営手順を借り、面数と立地は身の丈で決める。日本の中小施設が海外ブランドと組むなら、交渉すべきは出店条件よりも「何面から加盟を認めるか」だ。
輸出されているのは箱ではなく運営レシピ
Pickleball Kingdomが売っているものを分解すると、コートの仕様よりも運営の型が中心にある。無料の入門クラスで初心者を吸い上げ、デイリーのオープンプレーで来店習慣を作り、リーグと大会で滞在時間を伸ばす。King Courtという観戦前提の特別コートは、会員に「見る側」の役割を与えてイベントを成立させる仕掛けでもある。この順番は移植先の初心者比率が高いほど効く。
認知率13.1%・関心層1,189万人という日本の状況は、その意味でこの型と相性が悪くない。問題はむしろ、無料入門クラスを回せるコーチの数と、平日昼のコートを埋める客層のほうにある。グルガオン店がPickleball 101をどの頻度で開き、そこから何割を有料会員に転換したのか。開業から数カ月後にこの数字が出てくれば、日本で同じ型を試す側にとって最も価値のある材料になる。
グルガオン店の基本情報
| Item | Details |
|---|---|
| クラブ名 | Pickleball Kingdom Gurugram |
| Location | 354/2, Darbaripur Road, Darbaripur, Sector 70, Gurugram, Haryana 122101(インド) |
| Courts | 屋内8面(うちKing Court 2面) |
| Operating company | BAQ Wizards(Bhanu Gulati、Anuj Duggal、Qudrath Ali) |
| Official announcement date | 2026年7月22日(PR Newswire配信) |
| 提供内容 | コーチング、デイリーのオープンプレー、コート予約、リーグ、大会、コミュニティイベント |
| 入門プログラム | Pickleball 101(無料の初心者向けクラス) |
| 会費・利用料 | 公式発表・元記事とも非公表 |
| 公式ページ | pickleballkingdom.com/gurugram-india/ |
| 出店の問い合わせ | 同社はインドでの事業パートナー募集を告知(pickleballkingdom.com/india/) |
まとめ——次に確かめるべき3つの数字
グルガオンの8面は、米国型の屋内クラブがアジアへ輸出され始めたことの実例であって、それ以上でも以下でもない。判断材料として意味を持つのは、これから出てくる数字のほうだ。追うべきは、開業後の会員数の推移、Pickleball 101から有料会員への転換率、そしてインド2号店がどの都市にいつ出るかの3点。とくに2号店の場所は、この型がグルガオンという富裕層集積地に依存しているのか、それとも汎用性があるのかを一発で示す。
日本で施設を持つ側、あるいはこれから持とうとする側に勧めたいのは、海外ブランドの加盟条件を「面数の下限」から問い合わせてみることだ。8面を前提とした条件しか用意されていないなら、その相手とはまだ組めない。逆に4面や6面から話ができるなら、賃料の高い日本でも計算が立つ余地が出てくる。グルガオンの発表を眺めて終わらせるより、そちらのほうが先に答えが出る。
Source:Pickleball News Asia/PR Newswire(2026年7月22日)/PR Newswire(2025年11月12日)/IBEF/PR TIMES(ピックルボールワン)
