ベトナムのプロ、クアン・ズオン(Quang Duong、2006年7月生・20歳)が、自身が開発に関わるパドル『Wika QD』の第2世代を発表した。8月23日午前7時、ハノイ・タイ湖畔のUS Tay Ho Pickleball Courtで、ベトナムのブランドWika Pickleballと組んでの披露となった。テニスのジュニアからピックルボールに転じ、DUPRの評価でアジア男子の首位に立つ選手が、輸入ブランドを選ばずに自国メーカーと組んで用具を作り続けている——日本のプレーヤーにとっても、道具の選び方と国産メーカーの育ち方を考える材料になる。
テニス出身の20歳が、アジアの頂点で自分のブランドを持つ
クアン・ズオンはジュニアテニスで実績を積んだあと競技を移し、ピックルボールではダブルスで世界1位、DUPRのレーティングではアジア男子でトップに位置する。速く、攻撃的で、精度の高いプレースタイルが持ち味とされ、この打ち方がそのまま用具づくりの出発点になっている。自分のプレーで壊れる場所、詰まる場所を知っている選手が、その不満を設計に落とす。第1世代の『QD Air』『QD Fire』はその発想で生まれ、48ホールのマッチボールまで含めた一式として2026年2月に立ち上がった。
20歳で自分の名前を冠したパドルを持つ選手は世界に増えている。米フランクリンが20歳のパトリキンにシグネチャーパドルを託したのも同じ流れで、若手スターの名前そのものが商品力になる時代に入っている。ただクアン・ズオンの場合、名前を貸すだけでなく開発の中心にいて、しかも組む相手が地元ベトナムのメーカーだという点が違う。
全面フォームコアのQD Airから、V2は芯の組み方を作り直した
第1世代は性格の異なる2枚だった。QD AirはWikaが手がけた全面フォームコアで、14mmと16mmの二本立て。薄い方でスピード、厚い方でコントロールという住み分けだ。QD Fireは第6世代のカーボン面に出力重視のコアを合わせ、叩いて点を取りにいく一枚に振ってある。1枚で全部を賄うのではなく、プレーの局面ごとに握り替える前提の設計思想が最初から通っている。
V2はこの土台を残しつつ、芯の構造そのものを組み直した。速い展開でのボールの返りを上げ、当たりの許容範囲を広げ、手に来る振動を抑える。面のテクスチャーを整えてスピンの再現性を上げ、フレームは振り抜きの速さを落とさずに剛性を足した。数字の刷新ではなく、キッチンライン際の速い打ち合いで差が出る部分を選んで手を入れているのがV2の狙いどころだ。
芯の素材が競技の勝敗を左右する構図は、ここ2年で一気に鮮明になった。ハニカムからフォームコアへとパドルの主役が替わった流れのなかで、Wikaは最初からフォームコアに寄せてきた。輸入ブランドの型落ちを追うのではなく、現行の技術で自分たちの一枚を作る——その姿勢がV2で二代目に続いた意味は小さくない。
欧米ブランドが並ぶ棚に、ベトナム発が選手主導で割り込む
ピックルボールの用具市場は北米ブランドが数と資本で先行し、アジアの新興ブランドはそこへ後から入っていく構図が続いている。認証や流通で先を行く相手に対し、アジア発が武器にできるのは、地元のスター選手と直に組んで開発から売り場まで一本の線で通すことだ。Wikaはクアン・ズオンという看板を開発に据え、発表の場も選手のホームであるハノイのコートに置いた。ブランドの物語と選手の物語が同じ場所で重なる。
この土壌には、ベトナム勢の競技面での伸びがある。地元ホーチミンでベトナム勢がPPAアジアの金を取ったように、選手層が厚くなり、国内で結果が出るほど自国ブランドの説得力も増す。用具は選手が使って勝つほど売れる。クアン・ズオンがアジア首位で居続けることが、そのままWikaの一番の広告になっている。
日本のプレーヤーがV2の設計から持ち帰れること
V2そのものが日本で今すぐ手に入るかは発表段階で確定していない。ただ、この一枚の作り方から日本のプレーヤーが持ち帰れる視点はある。ひとつは、パドルを「万能の1枚」で選ばない発想だ。QD Airのように厚みで性格を分け、局面で握り替える設計は、自分のプレーの弱点を道具のどこで補うかを先に決めるということでもある。スピードで押されるならコアの返りを、ミスが多いならスイートスポットの広さを優先する、という選び方に置き換えられる。
もうひとつは、選手とブランドの距離感だ。開発者が実際のトッププレーヤーで、その人の勝敗が用具の信頼に直結している——この透明さは、スペック表の数字よりよほど手に取る側の判断材料になる。日本でも国内メーカーの参入が続くなか、誰がどんなプレーを想定して作ったのかを確かめてから選ぶ習慣は、V2のような選手主導の一枚が増えるほど効いてくる。
- ブランド/モデル: Wika Pickleball『Wika QD』V2シリーズ
- 発表: 2026年8月23日 午前7時、US Tay Ho Pickleball Court(ハノイ)
- 開発の中心: クアン・ズオン(2006年7月生・DUPRアジア男子1位)
- 第1世代: 全面フォームコアのQD Air(14/16mm)とカーボン面のQD Fire、48ホールボール(2026年2月)
- V2の手入れ: 芯構造の作り直し、スイートスポット拡大、振動吸収、面テクスチャー、フレーム剛性
次に確かめること
発表時点で価格と日本での取り扱いは公表されていない。国内での入手を狙うなら、Wikaの正規流通と、V2が米国など主要地域の認証を取るかどうかを追うのが実際的だ。芯の作り直しがキッチンライン際の速い打ち合いでどれだけ効くかは、実打とレビューが出そろってからでないと分からない。テニスから来た20歳が、自国のメーカーと二代目まで作り込んだ——この事実自体が、アジアのピックルボールが用具を「使う側」から「作る側」へ回り始めた一場面だ。

