フィリピンで「国内最大」を掲げるピックルボール施設が、首都マニラでも第2の都市セブでもなく、ネグロス島南東部の小さな町シブランに2026年7月開業しました。大会規格のコートを17面そろえたこの拠点は、東南アジアの競技拡大が首都主導ではなく地方から起きているという流れを、はっきり形にしています。日本でも施設不足が普及の足かせと言われますが、その解き方のヒントは、こうした地方発の拠点づくりにあります。東南アジアの育成モデルは、初心者を9カ月で全国決勝に押し上げるベトナムの育成リーグ設計でも見た通り、都市の外側で急速に厚みを増しています。
ネグロス・オリエンタルに開いた「国内最大」の中身
開業したのは、不動産開発のフィルサウス・プロパティーズ・アンド・ディベロップメント社が手がけた「PlayPro Active Courts」です。ネグロス・オリエンタル州シブラン町のバイパス道路沿い、約1ヘクタールの敷地に建つ屋内複合施設で、初期段階で大会規格のピックルボールコート17面を備えます。あわせてバドミントン3面、3人制で使えるハーフコートのバスケットボール2面も併設しました。
同社のルイ・ティジン社長は、この施設を「人々がプレーし、競い、つながり、自分の技術を高められる場所」にすると語り、国内屈指のピックルボール拠点を目指すと明言しています。不動産会社が住宅開発の枠を越えてスポーツ施設に踏み込んだ点も、この競技が地方の投資対象になり始めたことを示しています。
なぜマニラではなく地方の小さな町だったのか
フィリピンのピックルボールは、2016年にセブで開かれた最初のクリニックから約10年で、登録クラブ200超・会員1万3千人規模へと広がりました。コート予約アプリのReclubには10万人以上のフィリピン人プレーヤーが登録しており、実際の競技人口はこの数字を大きく上回るとみられます。普及の起点はセブやマニラ首都圏のオルティガス地区でしたが、面数の伸びは首都の外側で顕著です。
その象徴がネグロス・オリエンタル州の州都ドゥマゲテです。周辺の町を含めるとすでに約300面のコートが存在し、「フィリピンのピックルボール首都」を名乗るまでになりました。ただ数はあっても、大会を開ける規格を満たす会場はごくわずか。300面の量に対して、競技の質を担保する拠点が足りていなかったところに、17面の大型施設が空白を埋めた格好です。首都のプロリーグ整備が上から進む一方で、パッキャオが仕掛けるフィリピン初のプロリーグMPPTのような興行が話題を集めても、実際に人が打てる場は地方が先に積み上げていた、という順序がここには表れています。
数字で見るPlayProの規模
初期構成と今後の拡張計画を並べると、この拠点が単発の施設でなく段階的な投資であることが分かります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | ネグロス・オリエンタル州シブラン町 バイパス道路沿い |
| 敷地 | 約1ヘクタール(屋内複合施設) |
| ピックルボール | 大会規格17面(初期) |
| 併設競技 | バドミントン3面/3人制バスケ用ハーフコート2面 |
| 拡張計画 | ピックルボール10面追加(うち4面は空調付き)/卓球3面/テニス2面 |
| 開業 | 2026年7月 |
拡張後はピックルボールだけで27面に達し、うち4面は空調完備になります。高温多湿の島しょ部で空調コートを持つ意味は大きく、雨季でも通年で大会や練習を回せる環境を先に用意した点が、既存の屋外中心の会場との差になります。
開業直後に2,300人規模の大会を誘致
PlayProは開業のご祝儀イベントで終わらせず、初日から競技拠点としての実力を示しにかかっています。
- こけら落としの主要大会は「PPL Visayas Open」。7月30日〜8月2日と8月6日〜9日の二部制で開催されます
- 参加規模は約2,300選手が見込まれ、国際ランキング上位の選手も含まれるとされています
- 運営側はネグロス・オリエンタルとドゥマゲテを、中部フィリピンのスポーツツーリズム目的地として売り込む狙いを公言しています
コートを作って終わりではなく、開業と同時に2千人超の大会を島に呼び込む。この「施設と大会をセットで立ち上げる」動きは、競技人口の受け皿と観光の集客を同時に狙う設計で、地方が競技を経済に取り込む典型的な手順です。
日本の運営者・地方が読み取るべき3点
国内でコート不足に頭を悩ませる運営者や自治体にとって、ネグロスの事例が示す論点は3つあります。
第一に、普及は首都から地方へ降りるとは限らないことです。フィリピンではドゥマゲテという地方都市が「量」で先行し、そこに大会規格の「質」を足す形で最大拠点が生まれました。日本でも競技人口の分厚い層は必ずしも都心に偏っておらず、地方の既存需要をどう束ねるかが拠点づくりの出発点になります。まず数を増やし、後から規格を整えるという順序は、投資判断のうえでも現実的です。
第二に、不動産開発とスポーツ施設の接続です。PlayProは住宅開発の会社が事業の幅を広げる形で生まれました。日本でも遊休地や商業施設の空きスペースをコート化する動きが各地で進んでおり、地方が税金や公有地でスポーツインフラを整える発想は、人口7万の地方都市が公費で屋根付き25面を整備した米国の事例とも重なります。誰が土地とコストを負担して面を増やすのか、その担い手が地方に現れ始めた点が共通しています。
第三に、大会誘致とツーリズムの一体設計です。開業直後に2,300人規模の大会を島に呼ぶことで、宿泊・飲食・移動という周辺経済まで巻き込む青写真が描かれています。単なる競技場ではなく、地域の集客装置としてコートを位置づける。この視点は、遠征需要を取り込みたい日本の地方施設にとっても、そのまま応用できる考え方です。
まとめ——次に確かめるべきこと
フィリピン最大のピックルボール拠点が首都でなく地方の小さな町に生まれた事実は、東南アジアの競技拡大が「中央から地方へ」ではなく「地方が中央を出し抜く」局面に入ったことを示しています。読者が次に追うべきは3点です。第一に、7月末から二部制で開かれるPPL Visayas Openに実際どれだけの選手と観客が集まり、島の経済にどう波及するか。第二に、空調4面を含む27面への拡張が計画通り進むか。第三に、日本の地方でこうした「量を質に変える」拠点が現れるかどうかです。まずは今夏のVisayas Openの結果から、地方発ハブの実力を見極めてみてください。

