7月8日から12日まで米ミシガン州グランドラピッズで開かれるメジャーリーグ・ピックルボール(MLP)のミッドシーズン大会で、シリアル大手ケロッグの「レーズンブラン」が球団名そのものを一週末だけ買い取りました。対象はアンナ・リー・ウォーターズを擁する強豪New Jersey Fives。チーム名を「The Fibes(ザ・フィブス)」に付け替え、食物繊維ブランドとしてコートに乗り込みます。用具でもスポーツドリンクでもない朝食シリアルが、なぜ新興競技の球団名を欲しがったのか。配信アプリが選手を抱え込む17LIVEの参入と同じく、これは「非用具ブランドがピックルボールを広告媒体として使い始めた」明確な一例です。日本の食品メーカーにとっても他人事ではありません。
Fives が Fibes に、球団名を一週末だけ差し替えた
仕掛けはシンプルです。ニュージャージーの球団「Fives(ファイブス)」の綴りを一文字だけいじって「Fibes」に変え、食物繊維を意味する fiber の頭を潜り込ませました。ユニフォームには「The Fibes」の特製ジャージが用意され、会場では選手との撮影会、Tシャツ配布、シリアルの試食が並びます。名称変更はミッドシーズン大会の週末限定で、大会が終われば元のFivesに戻ります。
ケロッグ側の発表によれば、これはMLPの球団資産を使った初めての種類のコラボレーションです。ニュージャージーはニューヨーク・ランダルズ島での前戦を制して第1シードでこの大会に入っており、注目度の高いチームに広告を貼れるタイミングを狙って話が組まれました。運営するのはGallery Media Group、共同オーナーには実業家のゲイリー・ヴェイナチャックが名を連ね、キャンペーン制作も同氏系列のVaynerMediaが担います。球団オーナー自身がマーケティングの当事者という構造が、この企画の身軽さを支えています。
「fibermaxxing」——SNS発の食物繊維ブームに乗った
背景にあるのは、2026年に米国のSNSで一気に広がった「fibermaxxing(ファイバーマキシング)」という食習慣です。1日の食物繊維摂取量を推奨値まで、あるいはそれ以上へ意図的に積み増す動きで、TikTokの投稿を起点に健康志向の若年層へ拡散しました。豆やオーツ、種実類、野菜で食事の繊維量を底上げし、満腹感の持続や腸内環境の改善を狙うという内容です。
この流れはブームの空騒ぎでは終わりません。米国の食生活指針は、成人のおよそ95%が推奨量の食物繊維を摂れていないと指摘しています。レーズンブランは1食あたり7gの食物繊維を打ち出しており、「足りない繊維」という実在の栄養ギャップに製品特性がそのまま重なります。ケロッグは2026年に入ってスーパーボウルへ初出稿し、俳優ウィリアム・シャトナーを起用した繊維訴求のキャンペーンを走らせてきました。ピックルボール協賛はその延長線上にある一手です。
「キッチン」の駄洒落が、競技と製品を橋渡しした
数ある競技の中でピックルボールが選ばれた理由は、この競技特有の用語にあります。ネット手前のノーボレーゾーンを、プレーヤーは「キッチン(the kitchen)」と呼びます。ケロッグはこの符合を突いて、「ファンがキッチンで起きることをこれだけ語るなら、そろそろ自分の腸で起きることも語ってみては」というメッセージを組み立てました。厨房=食=腸という三段跳びの連想が、シリアルと球技を一本の線でつなげています。
異業種の協賛が成立するかどうかは、この「言葉や場の符合」を見つけられるかにかかっています。ニュージャージーの球団経営そのものの巧みさは連覇を支えるチーム運営と興行設計で扱いましたが、勝てるチームであることに加えて、ブランド側が乗れる物語の入口を用意できたことが、今回の座組みを軽くしました。パフォーマンス施設でも用具メーカーでもない企業が競技に入る場合、この入口設計こそが最初の関門です。
数字で見る、協賛の舞台とブランドの主張
大会規模とブランド側の訴求点を並べると、この協賛が「規模の大きい観客の前で、実在の健康課題を語る」設計だと分かります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 大会 | MLP エドワード・ジョーンズ ミッドシーズン大会(7月8〜12日) |
| 会場 | ベルナップ・パーク(ミシガン州グランドラピッズ)/ビアシティ・オープン併催 |
| 出場 | MLP全20球団+招待4組(豪州・カナダ・欧州・大学オールスター) |
| 順位点 | 優勝10点/2位6点/3位4点(ダブルイリミネーション) |
| ブランド訴求 | 米成人の約95%が食物繊維不足/レーズンブラン1食7g |
| 改称 | New Jersey Fives →「The Fibes」(週末限定・大会後は元に戻る) |
当事者はこの企画をどう語ったか
発表に添えられた言葉を拾うと、ブランドとチームの双方が「話題性」を明確に狙っていることが読み取れます。
- ダグ・ヴァンデヴェルデ(レーズンブラン最高成長責任者)——「米国の食物繊維ギャップを埋めるつもりなら、文化が生まれている現場に出ていく必要がある」
- ダグ・ヴァンデヴェルデ——「ピックルボールは国内で最も速く伸びている競技のひとつで、参加して楽しむことを愛する熱いコミュニティを持っている」
- ライアン・ハーウッド(球団側)——「創造的で、意表を突いていて、スポーツ協賛を記憶に残すのはまさにこういうアイデアだ」
会場での試食やジャージ配布といった体験施策と、VaynerMediaによる動画中心のSNS展開が同時に走ります。現地で触れさせ、その場面を動画で拡散させる二段構えです。
日本の食品企業は、この構図から何を持ち帰れるか
国内の食品・消費財メーカーにとって、今回の協賛が示す論点は3つあります。
第一に、製品特性と競技文化の「符合探し」が起点になることです。ケロッグは「キッチン」という競技用語と食物繊維を強引につなぎ、話題の芯を作りました。日本の食品ブランドがピックルボールに乗るなら、資金を出すだけでなく、自社の商品文脈と競技のどこが重なるかを言葉で設計できるかが分かれ目になります。乾燥野菜や発酵食品のように「腸活」「食物繊維」を語れる商品は、fibermaxxingと同じ土俵に立てる余地があります。
第二に、新興競技は「安く目立てる」段階にあるという点です。成熟したプロスポーツでは球団名の一時改称など到底手が届きませんが、立ち上がり途上の競技だからこそ、朝食シリアル一社が球団名を一週末借り切れました。日本のピックルボールでも、名刺管理のSansanが選手2名とスポンサー契約を結び、ZIPAIRが日本連盟の大会に付くなど、非用具の企業が先行して席を取り始めています。電通やアシックスが競技のインフラづくりに出資する動きと合わせて見れば、食品メーカーが入る余地はまだ空いています。
第三に、体験とSNS拡散をセットで設計することです。ケロッグは現地の試食・撮影会という「触れる場」と、VaynerMediaの動画という「広がる回路」を分離せず一体で組みました。協賛を露出枠の購入で終わらせず、来場者が自ら投稿したくなる仕掛けまで含めて設計するのが、この事例の実務的な肝です。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 協賛ブランド | ケロッグ「レーズンブラン」(WK Kellogg Co) |
| 対象球団 | New Jersey Fives(MLP)/改称後「The Fibes」 |
| 球団オーナー | Gallery Media Group(共同オーナーにゲイリー・ヴェイナチャック) |
| 制作 | VaynerMedia(SNS動画キャンペーン) |
| 主力選手 | アンナ・リー・ウォーターズ(女子世界1位)ほか |
| キーワード | fibermaxxing(食物繊維の積み増し)/the kitchen(NVZ) |
まとめ——「符合」を先に用意した側が席を取る
朝食シリアルが球団名を一週末だけ乗っ取れたのは、ピックルボールがまだ安く目立てる初期市場であること、そして「キッチン」という言葉の符合をブランド側が先に用意できたこと、この2つが噛み合った結果です。資金力の勝負ではなく、物語の入口を設計できるかの勝負でした。日本の食品メーカーが次にやるべきは、まず自社商品と競技文化の接点を一行の言葉に落とすことです。腸活・食物繊維・発酵といった文脈を持つブランドほど、fibermaxxingの流れと国内ピックルボールの立ち上がりが重なる今が、最も安く目立てる時期になります。まずは国内大会や選手のスポンサー枠がどこまで空いているかを確かめるところから始めてみてください。
参照元
- The New Jersey Fives And Kellogg’s Raisin Bran Bring Fibermaxxing To The Mid-Season MLP Tournament(Forbes)
- Kellogg’s Raisin Bran will partner with the New Jersey Fives to bring ‘The Fibes’ to life(WK Kellogg 公式リリース)
- MLP Grand Rapids 2026 大会概要(Major League Pickleball)
- Fibermaxxing: Is this TikTok trend good for you?(Mayo Clinic Press)
- Sansan、ピックルボール選手2名とスポンサー契約を締結(Sansan)

