西武・プリンスホテルズワールドワイドが7月10日、箱根仙石原プリンスホテル(神奈川県箱根町仙石原)で、テニスコートの一部をピックルボール専用コートに整備し、2026年7月1日から11月30日までの期間限定でプレー環境を提供すると発表しました。料金は1面1時間1,000円で、パドル・ボール・シューズはすべて無料貸出。避暑地リゾートが夏のアクティビティとして新競技を取り込む動きで、都心の常設施設とは違う「滞在の付加価値」としてのピックルボール活用が見えてきます。西武グループはすでに品川プリンスホテルの宴会場をコートに変えるかたちでこの競技に参入しており、箱根はグループ2つ目の布石にあたります。
テニスコート4番を夏の競技場に、発表の中身
公表された条件はシンプルです。会場は同ホテルに4面あるテニスコートのうち4番コートで、その一部をピックルボール用に区切って使います。営業時間は午前8時から午後5時まで、利用は予約制。実施期間は7月1日から11月30日で、需要動向によっては延長もあり得るとしています。
目を引くのは価格と道具の設計です。1面1時間1,000円という設定は、複数人で1面をシェアすれば一人あたりの負担がかなり軽くなる水準で、パドル・ボール・シューズを無料で貸し出すため、手ぶらで訪れた宿泊客がその場で始められます。用具を持たない初心者に「まず一度打ってみる」体験を無償で開くことが、この料金構成の核心です。
箱根で高まる下地、大会も動き始めた
導入は思いつきではありません。2026年6月には箱根で初のピックルボール大会「箱根カップ」が開かれており、観光地としての箱根に競技の下地ができつつあるタイミングでの提供開始です。テニス・卓球・バドミントンの要素を併せ持ち、テニスより一回り小さいコートで、穴の開いたプラスチックボールを使う。ルールが平易で運動量も調整しやすいため、家族三世代でも成立するのがリゾート向きの理由です。
市場そのものの追い風も大きい。米国スポーツ用品協会(SFIA)の集計では、ピックルボールは4年連続で全米最速成長の競技とされ、2025年の競技人口は約2,400万人に達しました。2020年の約420万人からわずか5年で5倍を超えた計算で、日本のリゾート運営者がこの波を「客を呼ぶ理由」として使い始めた格好です。ベトナムでもシェラトン・ダナンがビーチの隣にコートを置いて「打てる休暇」を売り始めており、リゾート×ピックルボールは国境をまたいだ潮流になっています。
数字で見る、テニス1面がピックル4面になる経済
なぜ既存のテニスコートが真っ先に転用先に選ばれるのか。理由は面積の効率にあります。テニスコート1面には最大で4面のピックルボールコートが収まり、同じ地面から生まれる稼働枠が一気に増えるためです。米国では2018年以降に2万8,000面超の新規コートが生まれ、その多くがテニス専用スペースの置き換えでした。以下は国内リゾートの提供条件を並べたものです。
| 施設 | 形態 | 1面1時間の料金 | 道具貸出 |
|---|---|---|---|
| 箱根仙石原プリンスホテル | テニスコート転用・期間限定 | 1,000円 | パドル・ボール・シューズ無料 |
| ルスツリゾート(北海道) | 専用8面・季節営業 | 3,000円 | パドル+ボール350円 |
| 品川プリンスホテル(東京) | 屋内常設 | 施設により変動 | レンタル完備 |
箱根の1,000円は、専用コートを新設したルスツの3,000円と比べても踏み込んだ価格です。ゼロから造成せず既存資産を夏だけ切り替える転用モデルだからこそ、この安さを損益に乗せられます。北海道でも同じ発想でコートが育っており、ルスツの専用8面が冠大会にまで育った経緯は、リゾートコートが単なる遊びで終わらない可能性を示しています。
運営側の動きに表れた本気度
この夏の動きを俯瞰すると、日本のリゾート・宿泊業界が足並みをそろえてこの競技に賭け始めたことが読み取れます。
- 西武グループ——品川の屋内常設に続き、箱根では既存テニスコートの転用という低コスト型で二の矢を放った
- ルスツリゾート——北海道初の専用8面を4月末から10月まで季節営業し、冠大会の会場にまで発展させた
- 米国市場——SFIA認定で4年連続最速成長、2025年に競技人口約2,400万人という規模が、国内運営者の投資判断を後押ししている
箱根の場合、需要が読めれば期間延長、読めなければ夏で撤収という柔らかい設計になっている点も見逃せません。テニスコートは冬に別用途へ戻せるため、リスクを抱え込まずに市場を試せます。
運営者が箱根の一手から学べる3つのこと
宿泊施設やスポーツ施設を持つ事業者にとって、今回の箱根の設計には持ち帰れる論点が3つあります。
第一に、「打てる休暇」という需要の掘り起こし方です。箱根は温泉と自然を主役にしてきた滞在型リゾートですが、そこに1時間1,000円で始められる競技を足すことで、雨上がりの空き時間や連泊中の一日を埋める選択肢が増えます。観光の主目的を置き換えるのではなく、滞在時間の隙間に軽い運動を差し込む。この「ついで需要」を取りにいく発想が、都心の目的来店型施設との決定的な違いです。
第二に、テニスコート資産の再評価です。テニス人口の頭打ちで稼働に余白が出ているコートは全国に無数にあります。1面が最大4面に化ける転用効率と、ライン1本・ネット1張りで戻せる可逆性を踏まえれば、新設よりはるかに低い投資で競技を試せます。自社の遊休テニスコートを「夏だけ別の競技に貸す」発想は、ホテルに限らずスポーツクラブや自治体の公営施設にも応用が利きます。
第三に、道具無料という参入障壁の外し方です。ピックルボールの潜在層の多くは用具を持たない未経験者で、最初の一歩でパドル代・シューズ代がかかることが心理的な壁になります。箱根がそこを無償にしたのは、目先の貸出収入より「まず打たせて競技のファンにする」ことを優先した判断です。体験人口を増やしたい普及初期の局面では、道具のハードルを消す設計が効きます。
箱根仙石原プリンスホテル ピックルボールの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施設 | 箱根仙石原プリンスホテル(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原1246) |
| 運営 | 株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド |
| 会場 | テニスコート4番の一部をピックルボール専用に整備 |
| 実施期間 | 2026年7月1日〜11月30日(延長の可能性あり) |
| 営業時間 | 午前8時〜午後5時/予約制 |
| 料金 | 1面1時間 1,000円 |
| 貸出 | パドル・ボール・シューズを無料提供 |
まとめ——次に確かめたい2つのこと
箱根仙石原プリンスホテルの一手は、リゾートが持て余しがちなテニスコートを、投資を抑えたまま伸び盛りの競技に接続した現実的なモデルです。1面1,000円と道具無料という組み合わせは、宿泊客に競技を初体験させる装置として設計されています。ここから追うべきは2点です。第一に、11月30日で終わるのか、需要を受けて延長・通年化するのか。延長の判断が出れば、季節転用モデルが数字で成立したという証拠になります。第二に、6月の箱根カップに続く地域大会の広がりで、施設と大会が噛み合えば箱根は関東の遠征先候補になり得ます。遊休テニスコートを持つ運営者は、まず自社の1面が何面のピックルボールコートになるかを測るところから始めてみてください。

